スライムで水上歩行できる
食事を終え、ザンギエフに礼を言う。
食事代を払おうとする俺たちを一笑に付し、ザンギエフは皿とスプーンを片付けた。バクバク亭に返すのだろうか。
「ブロートコーブへは、あとどれくらいかかるのかな。」
と、俺は水を飲みながら言う。
「どれくらいだろうね。ザンギエフさんは、何度か行ったことがあるんですか?」
メグミが言う。
「いや、初めてだ。俺は各地を回っている。修行の旅だな。」
「そうなのか。商隊に属してたのは……?」
と、俺が聞く。
「一時的なものだ。灯りの魔法を使えると話したら、是非次の街まで同行してくれ言われてな。」
ザンギエフは言う。
「じゃあ、商隊を離れたらダメじゃないですか。全く、ちょっと見直したと思ったら。」
ツムギが言った。
「魔法使いは気まぐれなのだ。」
「さて、もう寝るか。」
グダグダと話していたら夜更かししそうだ。切り上げてしまおうとして俺は言った。
「そうだな。では俺はメグミとツムギと一緒に3人部屋だな。カヒトは一人部屋を使っていいぞ。」
と、ザンギエフ。
「コラ!調子に乗って!あなたが一人部屋に決まってるでしょう!」
ツムギがザンギエフを睨む。
「仕方のない奴らだ。食事の恩も忘れおって。このエロパーティーめ。」
そう吐き捨ててザンギエフは外への扉を開けた。もちろん一連のやり取りは冗談だ。
「誰がエロですか!……って、どこへ?別に外で寝ろとは言いませんよ。」
「寝る前に用を足してくる。先に寝ててくれ。」
と言ってザンギエフは出ていった。
ザンギエフは昼間も茂みに入って用を足していた。
それに対し、俺たちはスラ子のおかげでトイレに行く必要がない。明らかに不自然だが、ザンギエフは追及してこない。
さらに、休憩小屋とはいえ夜は見張りを立てるべきだろう。その話も全くしていない。
まあ、今さら取り繕ってもしょうがない。何も言わないことにした。
「スラ子。外は安全なのか?」
「はい、マスター。モンスターの姿はありません。」
「分かった。メグミ、ツムギ。もう寝ようか。」
「うん。」
「そうだね。」
そういって、俺たちは3人部屋に入っていった。
ー13日目ー
翌朝。
俺とメグミとツムギは小屋の外に出て焚火を囲んでいる。
「そろそろ焼けたな。ツムギ、ザンギエフを起こしてきてくれ。」
俺はツムギに言う。
「えー。私がー?……もう、あんなの置いて行っちゃおうよ。」
ツムギが言う。その背後から……
「コラ!いじわるツムギめ。置いていくとは何事だ。」
ザンギエフが小屋から出てきてそう言った。
「おはよう。」
「おはようございます。ザンギエフさん。」
俺とメグミが声をかける。
「おはよう、諸君。昨夜はお楽しみだったろうに……。早起きだな。」
「お楽しみな訳ないだろう。まったく……。朝食の準備は出来てる。」
「ありがたい。頂こう。」
朝食はスライム団子と熊のモツを串にさして焚火で焼いた。肉の焼けるいい香りだ。
「ほう。うまそうだな。いただきます。」
「「「いただきます。」」」
口々にそういって食べ始める。
うん、うまい。モツは焼くとジューシーでいい感じだ。歯ごたえはすごいが。
「うまいな。食べたことのない味だ。」
と、ザンギエフ。
「沢山食べてくれ。まだいっぱいあるからな。」
「この団子はともかく、生の肉を持ち歩いていたのか?」
「まあ、そうだな。でも、そろそろ悪くなるから食べてしまわないと。」
「これは、何の肉なんだ?」
「熊の腸だ。」
「腸……?内臓か……。内臓が食えるとは知らなかった。」
「しっかり処理してあるから、大丈夫だ。」
「……。」
ザンギエフは団子もモツも気に入ったようだ。がつがつ食べている。
食べ終わったら出発だ。
朝霧が出ているが太陽は見える。南へ進もう。
「カヒトよ。あの休憩小屋には助かったが、不思議な小屋だったな。」
ザンギエフが歩きながら俺に言う。
「ん?」
「ベッドどころかマットもシーツも用意されているとは。おかげで寝過ごしてしまった。」
「ああ……。気遣いのできる誰かが用意していてくれたんだろう。感謝しないと。」
「全くだ。それに、今日も夕方になったらまた休憩小屋が道端に現れるかもしれんしな。」
「……そんな気もするな。」
ちらっと振り向くと、そこにはもう小屋はなかった。
進む先は湿原だ。すぐに足がずぶずぶと沈む。足場が悪い。
「歩きにくいな……。早めに街道に出ないとまずい。ザンギエフ。どっちに行けばいいか分からないか?」
「左の方だと思う。もう少し日が昇れば霧も晴れて見通しが良くなるだろうが。」
「カヒトさん。どうしよう。足が抜けない!」
ツムギが叫ぶ。
「ツムギちゃん。私につかまって!」
メグミがツムギの手を取る。
「ザンギエフ。何とかならないかな。」
「お前は魔法を万能だと思ってるだろう。そんな都合のいいものはない。一度戻るしかないんじゃないか。」
ザンギエフは荷物がないので比較的平気そうだ。ツムギの手を取って助けてくれている。
「うーん。しょうがない。俺の魔法を披露するか。」
俺は小声でささやいた。
するとみんなの足元がググッと持ち上がってくる。
ツムギの足は太ももまで沈み込んでしまっていた。危なかったな。
すぐに水面の高さに足場ができた。
「ツムギ。大丈夫か?」
俺が声をかける。
「う、うん。ありがとう、ス……、カヒトさん。」
「すごい!私たち水の上に立ってる。」
「うーむ。やられた。見事だ、カヒト。『水上歩行』の魔法だな。」
「ああ、あまり俺から離れないでくれ。早めに道に出よう。」
『水上歩行』はスラ子に足場になってもらったのだ。そちらへ回している分、索敵範囲は狭くなる。
『水上歩行』のスキルを獲得しました!
※スキルツリーのレイアウトを少し変えました




