休憩小屋とアイテムボックス
魔法使いのザンギエフと共にブロートコーブを目指すことになった俺たち。
話しながら歩いていると、夕焼けがあたりを染め始める。
そろそろキャンプの準備をしなくてはいけない。が、ザンギエフがいる手前、スラ子の部屋は使えない。どうしようか。
ザンギエフは『言えば少し離れてくれる』と言っていたので、そうしてもいいのだが……。
決めかねながら歩いていると、森は突然終わった。
目の前にはまた湿原が広がっている。そして、すぐ横に小さな小屋があった。
昨日、湿原に入る所にあった休憩小屋と似たものだが、こっちはずっと小さい。物置にも見える。
「あ。休憩小屋だ。マスタ……。いえ、カヒトさん。今夜はここに泊まりましょう。」
ツムギの声がすごい棒読みで言う。
話しているのはもちろんスラ子だ。変なことを覚えてしまったな。
「あ。そ、そうだね。カヒト、そうしようよ。」
メグミが言った。
つまりこの小屋はスラ子の偽装だ。
ザンギエフにばれないようにという気遣いはありがたいが……。道もない場所にいきなり小屋がある不自然さは否めない。
「そうするか。ザンギエフもそれでいいだろ?」
「まあいいが……。ことによると、これもダンジョンかもしれんぞ?」
もしかしたら的を得ているのかもしれない。そう思った。
小屋にはちゃんと扉がある。が、この扉が軽い。外見はしっかりした木の扉だが、おそらく中はスカスカだ。
小屋の大きさも、スラ子が作れるギリギリなんだろう。無理をさせてしまったか。
扉をくぐると4人掛けのテーブル。そして個室が2つあった。3人部屋1つ、1人部屋が1つ。
ちょっと露骨すぎるな。ザンギエフも思わず失笑している。何かを察しているのだろう。
テーブルの上の火のついたランタンについては、もう誰も何も言わなかった。
「さてと、晩ご飯の準備をするか。」
俺はそう言いながら、ご飯についてはどうしようかと考えていた。
「飯については、俺にご馳走させてくれないか?」
ザンギエフが言った。
「ありがたいですけど。どうするんですか?これから獲物を捕まえに行くとか?」
ツムギが言う。
それに対してザンギエフは何も言わず、目を閉じた。そして手のひらを前に突き出し集中している。
何をするのかと見守る俺たち。
ザンギエフはさらに手を前に差し出すと、その手が消えた。
そして再び現れたその手には、湯気の立つお皿があった。スープだ。
同じように数回、手が消え、お皿に盛られたスープが現れる。
俺たち全員の前にスープが並べられ、さらに籠に盛られたパンとスプーンが現れた。
ザンギエフはスプーンを配り、ドヤ顔で言った。
「さあ、食べようじゃないか。」
俺たちは口々に叫ぶ。
「おお!なんだ一体!」
「えー?すごいですね!」
「むう……。正直見直しました。」
「はっはっは。まあまあ。質問があるのなら、食事しながら答えてやろう。」
「そうか。メグミ、ツムギ。とりあえず頂こう。」
「そうだね。ザンギエフさん、いただきます。」
「……いただきます。」
「それで、今何をしたんだ?」
俺はスープを飲みながらザンギエフに聞いた。
「そうだな……。いきなり答えを言ってもつまらんだろう。当ててみろ。」
「魔法ではあるんですよね。魔法で作ったんですか?」
と、メグミ。
「お皿とかスプーンとか、魔法で作れるのなら職人はみんな失業してます。」
と、ツムギ。
「魔法使いは少ないんだろう。職人ができることをわざわざ魔法使いがやることはない。」
俺は言った。
「今作ったわけではない。まあ、そういった魔法が使えるとしても、食堂を経営する気にはなれんな。」
「材料費も要らないならぼろ儲けだろうけどな……。あ、分かった。遠くの街にあるスープを持ってきたんじゃないか?」
と、俺は意見を述べる。手だけをテレポートさせたんじゃないだろうか。
「そういえばこのスープとパンって、バクバク亭のと似てるね。」
メグミが言う。
鉱山の街バクバクの、街と名前が同じ食堂『バクバク亭』。俺とメグミは滞在中何度もそこで食事していた。
「よくわかるな、メグミ。その通り。バクバク亭のスープだ。」
と、ザンギエフが言う。
「じゃあ、泥棒じゃないですか。せっかくの魔法をそんなことに使うなんて。」
と、ツムギ。
「バカモン。確かにこれはバクバク亭のスープとパンだが、今取り寄せたわけではない。金もちゃんと払った。」
「って事は、バクバクの街にいたときに買って、どこかに隠しておいた?」
「正解だ、カヒト。これは、『空間収納』という魔法だ。自分だけが干渉できる空間に入れておいたというわけだ。」
「つまり、これって少なくとも一昨日の朝より前のスープですか?……飲んで大丈夫かな……。」
ツムギが心配している。
「『空間収納』の中では時間が止まる。でなければとっくに冷めているはずだろう。」
ザンギエフが説明した。
「合点がいったよ。しかし、皿に盛られたスープなんていう持ち運びに不便なものを、いくつも入れておけるとは、すごい魔法だな。」
「ふっふっふ。そうだろう。」
「それで荷物を何も持っていなかったんですね。旅に必要なものは『空間収納』に入っていると。」
と、メグミ。
「そういう事だ。すごいだろう、ツムギ。」
ザンギエフは自信満々だ。
「すごいですね。商隊で大活躍じゃないですか。」
と、ツムギが言う。その通りだ。
『空間収納』は時間停止の機能付きの、いわゆるアイテムボックスらしい。
容量がどのくらいなのかは分からないが、行商人にとっては喉から手が出るほど欲しい魔法だろう。
「まあ、万能なわけでもない。それに本当にすごいのは新しい魔法を作り出す事だ。俺は既にある魔法を習得したにすぎん。」
「魔法って作れるんだ……。」
と、メグミ。
「新しい魔法を作るのは、無から有を生むような話だ。正直な話、できるのは一部の天才だけだな。」
「私にしてみれば、すでにある魔法とはいえ使えるのはうらやましいですね。」
ツムギが素直に言った。
「……魔法使いになるには……。」
ザンギエフが言う。
「……なるには?」
俺は先を促した。興味深い話だ。
そんな俺をちらっと不審な目で見て、ザンギエフはつづけた。
「マナの操作。そしてマナの量が重要だ。こればかりは生まれつきだと言われている。」
『マナ』の正体が分からない俺には魔法使いの素質はなさそうだ。スラ子の『疑似魔法』とでもいうべきスキルで我慢しよう。
『丸太小屋』の擬態スキルを獲得しました!




