ザンギエフのダンジョン講座
「ところで、あのダンジョンについて聞きたいのだが。いいか?」
ザンギエフが俺に言った。
「それはまあ、俺に分かることなら。でも、聞いてどうするんだ?また行く気なのか。」
「そうだ。お前たちが居たのは驚いたが、あれはまだ知られていないダンジョンだろう。攻略はできなくとも、入る価値は大きい。」
「ふーん、よくわからんが……。俺たちは、空飛ぶイカに誘導されてあのダンジョンにたどり着いたんだ。」
「イカ?……イカとは、何だ?」
「えー?イカも知らないんですかー?大魔法使いのザンギエフ様ともあろうお人が。」
とツムギが口を出す。
「ははは。大魔法使いザンギエフ様でも知らん事はある。いじわるツムギめ。」
「イカっていうのは、これだ。」
俺は手に20センチくらいの大きさの薄い板を持ち、それをみんなに見せながら言った。
板には今朝出会ったコウイカの絵が写し出されている。
早速、スラ子の絵が役に立った。
この薄い板はさしずめ『タブレット』といったところだろう。適当な壁が無いときに便利だ。
「え?カヒト、何それ!すごいね!」
「あ。コウイカのコウちゃんだ。」
メグミとツムギが驚いてくれる。
ザンギエフは顎に手をあて、しげしげとタブレットを眺めた。
「……。興味深い。」
「この生き物が飛んでたんだ。」
「……興味深いのはそっちではなく、この板と絵の事だ。あらかじめ準備していたわけではあるまい。突然現れた……。魔法なのか?」
「まあな。」
「それがお前たちの秘密というわけか。随分あっさりと見せてくれたな。」
「どうせ知られる事だから。」
「まあいい。それで、誘導されてダンジョンへと。」
「このイカが入り口の前に行ったら、扉が開いたんだ。」
「……。イカが鍵を握っているのかもしれんな。」
「文字通りな。」
「それで、中はどんな様子だった?」
「トラップだらけだ。俺は、メグミとツムギとは入ってすぐに分断された。」
「他にも、落とし穴とか、挟み撃ちとか……。宝箱があったんですけど、どんな仕掛けがあるか分からないから、触らなかったんです。」
と、メグミ。
「偽物のカヒトさんが現れたりね。」
と、ツムギ。
「分断しておいて偽物か。気が利いている。」
「カヒトさんの姿を真似るなど、言語道断です。」
ツムギが口を動かさずに言って、自分でびっくりしている。
いや、これはツムギ喋ったわけじゃないな。スラ子がツムギの声で言ったらしい。
「ほう。随分慕われているじゃないか。カヒト。」
「当然です。カヒトさんはすごいですから。」
と、ツムギ。ではなくスラ子が言った。
「パーティー分断か……。そうすると、一人では入れない という可能性もある。」
ザンギエフが言う。
「ああ、確かに。偽物を使って仲間割れを狙ったりする仕掛けもあるんだろう。一人パーティーを入れてもしょうがないな。」
俺も同意する。
「仲間割れを狙った仕掛けか……。なるほど、商隊の奴らが俺に冷たくなったのはそのせいか。」
「ダンジョンに入る前に裏切られたら、ダンジョンも泣いてるぞ。」
「今の話で確信した。あれは自然発生したダンジョンだろう。」
「自然発生?」
「マナの濃い場所では稀にそういう事がある。」
「……つまり、あの建物は誰かが建てたわけじゃなくて、自然にできたのか?……木が生えるみたいに?」
「そういう事だ。自然発生のダンジョンは、多少壊れても自然に直る。」
「あの壁もそうやって直ると。えーと……。という事は、人が作ったダンジョンもあるのか?」
「あるぞ。俺の師匠も作ったと言っていた。」
「……そもそも、ダンジョンってなんだ?」
「ダンジョンは、マナを回収する装置だ。端的に言えばな。」
「その、『マナ』っていうのが分からないんだが。」
「マナはマナだ。どこにでもあるが、生き物やモンスターはたくさん持っている。」
「……それを回収するという事は、あのダンジョンの中で、俺たちを殺そうとしていたのか?」
「死んだ場合もマナは出る。が、生き物は生きているだけでマナを放出している。入るだけでもダンジョンの腹を満たせる。」
『ダンジョンの腹』か。まるでダンジョンそのものが生き物のようだ。
獲物を取り込み、そいつからエネルギーを摂取するあたりは、まさに生き物だが。
「それって、ダンジョンに入ったら怪我とかをしなくてもマナを奪われるって事だろ。体に良くないんじゃないか?」
「そんなことはない。マナは勝手に放出されているのだ。今もな。普通のダンジョンはその放出されたマナを回収しているだけだ。」
「はあ……。ダンジョンがマナを求めて人を誘導して入らせるのは分かったが、人間の方は何でダンジョンに入ろうとするんだ?」
「ダンジョンは宝箱や財宝を用意している場合が多い。それに、モンスターもダンジョンの外より強く、価値のあるものがいるからな。」
「そういう事か。ダンジョン内で人がモンスターを倒しても、その逆でもダンジョンは得をするというわけだ。」
冒険者は宝やモンスターを求め、ダンジョンはマナを求めている。お互いの需要と供給がかみ合って、こんなエコシステムが生まれたわけだ。
「マナっていうのは、魔法に関係するものか?」
俺はザンギエフに聞く。
「お前も魔法を使うのだろう、カヒト。」
「あっ。そ、そうだったな。うん。何でもない。」
「ふむ。……別に、お前たちの事を深く追及するつもりはないがな。」
「タブレット」のスキルを獲得しました!




