旅は道連れ
俺たちは荷物をまとめ、出発の準備をする。二人も特に疲れているという事はないようだ。
さあ、行こう。と歩き出した俺たちに、魔法使いが声をかける。
「おーい!この扉はどうやったら開くんだ?!」
ダンジョンの入り口の扉は閉ざされたままだ。
魔法使いが目の前にいるのに開く気配はない。自動ドアではなかったか。
「開け方なんて分からん。横の、崩れた壁から入ったらどうだ?」
俺が言う。
魔法使いは崩れた壁を見て、なんだか嫌そうな顔をしている。気に入らないのだろうか。
そのまま少し考えていたようだったが、結局、魔法使いは引き返してきた。
「入らないのか?」
「ああ、この手のダンジョンは正しい手順で攻略しないと面倒なことになる可能性がある。ちゃんと入り口から入ってな。」
「壁を崩したのを怒ってるのか?閉じ込められたんだからしょうがないだろう。」
「いや、別にそういうことではない。まあ、普通は壁を壊して出ようなんて考えないと思うが、それは構わない。」
「そうなのか。ちょっと、悪い事したかなと思ってたんだが。」
「このダンジョンなら、壁は時間が経てば自然に直るだろう。」
「へー……。ちなみに、壁のせいで扉が開かないとか……。」
「そうかもしれないが……。別の理由があるような気がする。」
まあいい。その理由を知ったところで、もうここに戻ることはないだろうし。
「さて、行くか。」
俺はメグミとツムギに言った。
「うむ。」
と、魔法使いが答える。
「……」
「……」
「……」
「え?一緒に行くのか?」
俺は魔法使いに聞く。
「ああ、構わないだろ。」
「えーと……。いや、構うけども。」
「お前たちはブロートコーブへ行くんだろう。俺も行先は同じだ。同行しよう。」
魔法使いが、メグミを見て言っている。
「魔法使いさん。私たちは仲間だけの秘密もありますし、遠慮してもらえませんかね?」
ツムギが心底嫌そうな顔で、ずけずけと言った。
「どんなパーティーにも秘密はつきものだ。その時は言ってくれれば、少し距離を置こう。少しでも一緒にいたらバレる秘密というわけでもなかろう。」
「ツムギちゃん。いいじゃない、一緒に行っても。魔法使いさんが居れば心強いし、魔法の事も聞けるんじゃないかな。」
と、メグミ。
「メグミがいいと言うなら俺も構わないが……。ツムギはどうしても嫌か?」
俺は別にこの魔法使いが嫌いではない。メグミの言う通り魔法についての話も聞きたいし、同行してもいいと思った。
「どうしてもって訳じゃないけど……。すごくイヤだけど……。」
と、ツムギ。本人を目の前にしてこの物言いはすごい。
「あー、その。彼女も悪気があって言ってるんじゃないんだ。」
俺は魔法使いに言う。
「気にすることはない。俺は子供には嫌われるタチだ。」
こちらも本人を目の前にしてこの言い草。
「それに、俺は空気を読まないことにしている。人にどう思われようが構わん。」
魔法使いの言葉に、俺は少し感心した。唯我独尊。
ダンジョンにも一人で入ろうとしていたし、それだけの実力があるのだろう。
「ツムギ。ブロートコーブに着くまでだ。数日くらいならいいだろう。」
俺はツムギを説得する。
「……わかりました。カヒトさんもメグミさんも良いと言うのなら……。」
「ありがとう。魔法使いさん。同行してくれて構わない。」
と、俺は言った。
「うむ。感謝する。」
「じゃあ、改めて出発しよう。」
魔法使いは当たり前のようにメグミの横を歩く。
その反対側では、ツムギが遠慮ない視線で魔法使いを睨んでいる。
「自己紹介がまだだったな。俺はカヒト。そっちがメグミとツムギだ。」
「カヒトに、メグミにツムギだな。俺は魔法使いのザンギエフだ。よろしく頼む。」
「ザンギエフか。強そうな名前だな。よろしく。」
「メグミです。よろしくお願いしますね。」
「よろしく、美しいお嬢さん。」
「メグミさんにヘンなことしたら許しませんよ。」
「ははは。俺はそこまで命知らずではない。心配するな、ツムギ。」
ザンギエフはおそらく40代後半くらい。壮年と言っていい。種族はたぶん俺やメグミと同じ人間。
メグミに執着があるのかと思ったが別にそうでもないらしい。女を口説くのはあいさつ代わりだと思っている手合いだろうか。
それにしても、ザンギエフには何か違和感があったが、その正体が分かった。
彼は手荷物を何も持っていないのだ。
手には節くれだった木の杖を携えているだけで、リュックもバッグもなかった。
商隊の一員なら、荷物は荷馬車に積んでいるだろうから不自然ではない。
しかし、商隊を離れて行動するなら何も持っていないのはおかしいが……。




