スライムは絵を描く
「もう一つ。色を使った文字や絵を描けないかな。」
「色を使って……ですか。」
「スラ子に日本語の文字を覚えてもらったときに、炭で書いていただろう。あれに似た事をすればいいんだが。」
「なるほど。炭の粒を文字の形にするのですね。やってみます。」
スラ子は俺の考えていることをすぐに理解してくれた。
目の前の壁に日本語の文字が現れる。
ひらがな、カタカナ、簡単な漢字。俺がスラ子に教えた文字がすべて一度に現れた。
「おおっ。さすがスラ子だな。見事だ。」
「恐れ入ります。」
しかし、筆跡はあまりきれいではないな。……いや、これは俺が書いた文字と全く同じだ。当然だが、スラ子はそのまま覚えただけだ。後でもっと丁寧に書いた文字を教えることにしよう。
ついでに、鉄スライムの部分でペンの形を作ってもらい、それで書いた部分に黒い色を付けてもらうことも試した。
インクなどの筆記具がなくても、スラ子がいれば字を書くことができる。いつか役に立つこともあるかもしれない。
「次に、絵を描いてみてほしい。」
「何を描きましょうか。」
「うーん。とりあえず何でもいいが……。俺の姿を描いてもらえるか?」
「マスターを……。それは恐れ多く……。」
「そうなのか。じゃあ、メグミとツムギの姿はどうだ?」
「それは大丈夫です。では。」
壁にじわっと絵が浮かんでくる。
メグミとツムギが手をつないでいる所だ。二人はそれぞれ武器を持っているが、戦闘態勢というわけでもないらしい。
非常に緻密な絵だ。ほとんど写真といっていい。ただし、色合いはセピア色というか、色彩に乏しい感じ。
「すごいな、想像以上だ……。ところで、二人の後ろに何か怖い顔のモンスターがいるが、あれはなんだ?どこかであんなのを見たのか?」
「はい。何かはわかりませんが、今お二人が遭遇しているモンスターです。」
「今、遭遇している?って、どういうことだ?」
「この絵はメグミとツムギさんについている私の分裂体が見ている風景です。」
「えっ?じゃあ、二人は実際に今、このモンスターに襲われてるのか!やばいじゃないか!」
「ご安心ください。このモンスターはただの絵です。」
「それは分かってるが、二人にとっては実在のモンスターだろう!」
「あ、すみません。そういう意味ではなく……。」
「?」
落ち着いて話を聞いてみると、事情が分かった。
スラ子の言う『絵』というのは、俺が今見ているスラ子が描いてくれたものの事ではない。あのモンスターが板に描かれた絵という事だ。
それなら安心だ。
「今のメグミとツムギの様子が見られるのはありがたいな。とりあえず心配なさそうだ。」
「私がついていますから。」
「ああ、頼むよ。」
スラ子が描いてくれた絵は静止画だ。まあ、当然ではあるが。
しかし、今スラ子が見ている風景を絵として描画できるのなら、動画も表現できるのではないか。
やってもらった。
……一応、動画だ。すごいスローモーションだが。
「これ、スラ子は大変か?」
「はい……すみません。何と言いますか……頭がすごく疲れる感じでしょうか。」
「そうか、うん。ごめん、無理を言って。」
「いえ、むしろ私の不甲斐なさを謝罪いたします。」
「動いていない絵を表示し続けるのは大丈夫か?」
「それは全く問題ありません。動く絵、『動画』ですか。これは、風景を何度も伝えるのが難しいです。」
「うーん。無理なら別にいいんだが、動画の表示もできるようになってくれるとありがたい。」
「そうですか。頑張ってみますが……。何かアドバイスを頂けますでしょうか。」
「……そうだな……風景全部ではなくて、さっきまでの風景との『違い』だけを伝えるとか、情報量を少なくする工夫をしてみたらどうかな?」
「なるほど。」
「あとは、伝えるルートを増やしてみるとか。……風景を沢山の小さな部分に分けて、その小さな部分だけをそれぞれのルートで伝えれば、楽になるんじゃないか?」
「……思いつきませんでした。さすがマスターです。」
「どっちにしても、すぐじゃなくていいよ。今は休んでくれ。お疲れ様。」
「お気遣いいただきありがとうございます。」
それから少し時間が経ち、スラ子の許しが出て少しだけ先へ進むことになった。
といっても本当に少しだけ。
入り口から続く直線はすぐに右へ折れ、Uターンする形の通路になっている。
Uターンの終わりで、今度は左へ折れるカーブ。位置的には入り口のすぐ隣だろう。
そこまで進んだとき、スラ子が言った。
「マスター、少しだけお下がりください。」
俺は素直に後ずさる。
その直後。
左へ折れるカーブの先、すぐの左の壁が弾け飛び、何かが俺の目の前を横切った。
『何か』はそのまま右の壁も突き抜ける。
砕けた壁からもうもうと土煙が立ち、思わずせき込んだ。
薄れる土煙の後に出てきたのは、メグミとツムギ。
壁を突き抜けたのはカタマリになったスラ子らしい。
「おお!メグミ、ツムギ。ダイナミックな登場だな。」
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