コウ君とダンジョンと
俺たちの食事中はコウイカは大人しくしている。などという事は無く、俺たちの周りを興味深そうに飛び回る。
メグミとツムギが小さくちぎった食べ物を手のひらの乗せると、コウイカは2本の長い触腕を出して丁寧に受け取り、食べている。そして、体の色を目まぐるしく変えて喜びを表現する。イカにとってもおいしいのだろう。
確かに、なかなかかわいい。ペットとして人気が出そうだ。
「コウ君、いい子だねー。」
なんて、メグミが言って撫でている。あんまりかわいがると別れが辛いぞ。
昼食後、コウイカは俺たちを先導しつつ頻繁にメグミとツムギの間を飛び回っている。
コウイカの方も、撫でられるのを気に入ってしまったらしい。
俺も少し撫でてみた。ちょっとひんやりして、ふわっと柔らかい感触。癖になりそうだ。
「マスター、前方に何かがありますね。200メートルほど先です。」
「コウイカはそれを目指してるのかな。」
「恐らく、そうです。大きな建物です。」
建物?こんな森の中に……?
「メグミ、ツムギ。正面に大きな建物があるそうだ。どうするか、ちょっと止まって考えよう。」
「大丈夫だって。コウ君のお家じゃないかな。」
と、メグミがいい加減なことを言う。
「そうだね。コウ君かわいいし、大丈夫です。」
ツムギも言っていることが変だ。
いやいや……。どうしたんだ二人とも。
メグミもツムギも、俺の意見は聞かずにどんどん進む。
仕方なく、俺も後に続いた。
正面の大きな木を回り込むと、広場のように木の生えていない場所があり、正面には確かに大きな建物があった。
建物の高さは5メートルくらい、幅は50メートルはありそうだ。奥行きは分からないが、真四角な建物に見える。
正面には石でできたような扉があり、今は閉ざされている。窓は見当たらない。
壁には複雑な模様が浮き彫りにされており、苔むしてツタが所々に絡んでいる。
かなり古そうだ。遺跡か何かに見える。
俺たちは広場に出たところで立ち止まる。
コウイカはそのまま建物の方へ進み、扉の前まで飛んで行った。
するとその扉がゴリゴリと音を立てて開き始めた。
扉の先は、そのまま正面に進む通路があり、扉から5メートルほど進んだ所に、左に入る横道がある。コウイカはその角を曲がり、俺たちの視界から消えた。
扉は開いたままだ。
怪しい。と言うか、完全にワナだ。
そんな見え見えのトラップなのに、メグミとツムギは躊躇なく建物に向かって歩き始めた。
俺は慌てて二人の腕をつかむ。
「ま、待てって!これはダメだ。こんな怪しい建物には入れない!」
「うーん……。確かに怪しいけど……。」
と、メグミ。
「これって、ダンジョンってやつじゃないですか?」
ツムギが言う。
「ダンジョン?これがダンジョンなのか?」
「私も、見たことあるわけじゃないですけど。」
「ダンジョンと言えば、お宝だよね!行こう!」
メグミが目を輝かせている。
「ダンジョンと言えば、モンスターにトラップだろう。やめとこう。」
「マスター、入りませんか。私も興味あります。」
スラ子までそんな事を言い出した。
「待て待て、何がいるかも分からないのに。」
「『何がいるか分からない』は、ダンジョンに入らなくても同じです。いってみましょう。」
と、ツムギ。
俺以外の1匹と2人はもう入る気満々らしい。説得は無理そうだ。
「……じゃあ、スラ子。最大限、警戒してくれるか。」
「ご安心ください、マスター。私がいる限り、マスターの身に傷一つつけさせません。」
うーん、心配だ。
メグミとツムギは手をつなぎ、小走りで建物に入っていく。そんなに嬉しいかな。
当然のようにコウイカが消えて行った左への通路に入る二人。
俺はそんな二人の後を追って建物の入り口をくぐる。
と、その瞬間。
ガガガガッ…………ドンッッッ!
俺の目の前で、二人が入った通路を塞ぐように、上から石の壁が大きな音を立てて落ちて来た。
通路は完全に塞がれた。上下左右、どこにも隙間は無い。
「くそっ……。やられた。」
俺は2人と分断された。俺はこのまま外へ出られるが、2人は中に閉じ込められてしまった。最悪の状況だ。
2人を助け出す方法を考えるためにも、一旦外へ出よう。と思い、入り口の方を向いた所で、入ってきた扉も閉まっていた。
開く時はあんなに派手な音を立てていた癖に、閉まるのは無音とは……。
メグミとツムギは左に曲がった通路の先で閉じ込められ、俺はダンジョンの中で孤立した。
額に変な汗が湧き出てきて、それは流れる前にスラ子に吸収された。




