女の子1視点 街での生活
目が覚めると、私は大きく伸びをした。
「んんーーっ」
ふう。柔らかいベッドのおかげでぐっすり眠れたわ。ホント、おぱあちゃんの所に下宿できて良かったなぁ。
なんだか今日は目覚めがスッキリしてる。いつもなら寒くてベッドから出られないのに。
今日は全然平気。なんだか首筋や肩の辺りが暖かい。そのせいかな?
あっそうか。私の体にスライムがくっついてるんだった。
昨日は左肩から腕にかけて私の肌を覆ってたスライムは、夜の間に肩と首の辺りに来ていた。そこだけとてもポカポカしてる。
「おはよっ。スライムさん」
スライムがぷるっと震えた。
ふふふ。なんだかホントにペットみたい。
スライムはまだ私から離れる気はないみたい。まあ、愛着がわいちゃったし、離れないでも良いけどね。
……それよりも、もう日が昇って結構経ってない?
窓から差す日差しが眩しい。
うわー!完全に寝坊だよ!
ドタバタと、急いで服を着替える。朝食を作らなきゃ。
お店に行くとおばあちゃんはもう起きてる。
「お、おばあちゃん。……おはよー」
「……おそよう……じゃな……」
「ご、ごめんなさい。つい寝坊しちゃって……すぐにご飯作るね!」
「もう作ってしまったわい。」
「わっ。おばあちゃん。作ってくれたの?あっ、ありがとう……」
「ふんっ。さっさと食うがええ」
「うん!いただきまーす!」
メニューは干し肉と玉ねぎのスープ。それと昨日の残りのパン。
えっ?それだけかって?私の食事はいつもこれくらいだけど?
豪華な食事とは言えないけど、ごく普通だと思う。
「そう言えばお主、昨日のスライムはどうしたかの?」
「うん。まだいるよ。私の背中にくっついてる。」
「……ふむ。妙なスライムじゃの。こんなにでかいのも珍しいが。」
「スライムって、普通、人にくっついたりしないものなの?」
「しないのぉ。スライムにしてみればなんの意味もない。食えもせん相手にくっついてもしょうがなかろう」
「うん。夜のうちに食べられちゃうかと思ったけど。あ、でも、スライムがくっついてる所が暖かいの。あと、何となくお肌がつるつるしてるみたい。」
「ほう。羨ましい。年を取ると冷えてのぉ。ほれ、スライムや。ワシのほうに鞍替えせんか?」
「あー。おばあちゃんたら!私のスラちゃんを取らないでよね!」
「ヒヒヒ。スラちゃん、か。仲良くなったもんじゃの。」
「……ねえ、おばあちゃん。私、今日も森へ行くね。今度こそ依頼のキノコ、取ってくるから」
「いや、今日は他の事を頼みたい。雑貨屋でこのリストの品を買ってくるんじゃ。」
「えっ?……まあ、良いけど。」
「うむ。それとな、そのあとは店番を頼みたいのじゃ」
「おばあちゃん、出掛けるの?珍しいね。」
「……まあ、警備隊に呼ばれての……面倒じゃが、仕方ない。」
警備隊に行くんだ……それなら、あの男の人の事は話さない方が良いよね。
「分かった。ご飯食べたら、雑貨屋さんにお使いに行くね。」
「ああ。頼むわい。それとな、そのスライムの事は言いふらしたりするでないぞ。」
「うん。街の人たちにはナイショね。」
ご飯を手早く食べて、後片付けも済ませてからおばあちゃんのお店を出た。
良い天気。空気は乾燥してる。
もうみんな仕事を始めてる。道沿いのお店や仕事場の人たちがみんな挨拶してくれる。
「やあ、おはよう。」「おはようございます。良い天気ですね。」
「よう。今日はずいぶんゆっくりだな。」「おはよう。えへへっ、寝坊しちゃって……」
「おっおはようございます///」「……?おはようございます。」
時々、私より若い男の子は私を見て顔を赤くしてることがある。なんでだろう?
雑貨屋さんももう開店してる。
「おはようございます。」
雑貨屋さんは明るい笑顔のおかみさん。お腹に赤ちゃんがいるんだって。
「おはよっ。今日はどうしたんだい?」
「お使いです。このリストの品。いただけますか?」
「……ああ、いつものだね。持ってくるから、ちょっと待っててくれるかい。」
私は雑貨屋さんにお使いは始めてだけど、雑貨屋さんはもう用意してくれていたみたい。
おばあちゃんはここの常連さんなのね。
待っている間。雑貨屋さんのお店を見回した。色んな物がある。
雑然としてるのはおばあちゃんのお店も同じだけど、こっちはずっと明るい。売り物がみんなキラキラ輝いてるみたい。
「おまたせ。これでいいかい?」
「あ、ありがとうございます。相変わらず素敵なお店ですね。」
「ありがと。狭い店だけどね。」
「いいえ。ステキです。おばあちゃんのお店も、こんな感じだと良いのに。」
「ハハハ!魔法薬の材料にはあんまり日に当てちゃいけないものが多いのさ。」
「へえー……でも、暗いとお客さんが入りにくいですよね。」
「この街の住人はもう慣れっこさ。ばあちゃんの魔法薬にはみんな世話になってるから。あたしも、父ちゃんをつかまえるとき、ちょっとね」
「?」
「惚れ薬さ。まっ、あたしの美貌があれば薬がなくてもいけたけどね!ハハハッ」
「ほ、惚れ薬……ですか……」
「まあ、あんたくらい可愛ければ要らないよね。むしろ、変な男に薬を盛られる用心をしなきゃ。」
「ええー?わ、私なんて、可愛くないですよ。そんな心配いらないと思うなぁ。」
雑貨屋のおかみさんは突然真剣な顔になった。
「あんたね!自分の魅力をちゃんと知っておかないとダメだよ!あんたを見る男共はいっつも鼻の下を伸ばしてるんだから。男はみーんなケダモノだよ!うちの亭主は違うけど。」
「えへへっ。そ、そうかなぁ……。」
品物を受け取ってお金を払い、雑貨屋さんを出た。
……おかみさんの言葉を考える。……男の人達がみんな私を見てるなんて事、無いよね。
街の人はみんな私に声をかけてくれるいい人達ばかりだし。
……たまに、胸に視線を感じることもあるけど、自意識過剰だと思う。まあ、胸はちょっと大きい方かもしれない。あと、お尻も。
でも、冒険者としては嬉しくないんだよね。重いし、走ったりすると揺れるし……。
そうそう、食事の買い物もしておこう。お昼の分はまだあるから、今晩と明日の分ね。
「らっしゃい。今日は生の肉があるぜ。買ってくかい」
「えーホント?……あ、でも、干し肉にしておこうかな。」
……お肉屋のおじさん、私の胸を見てる?うーん、見てるかも。でも、私みたいな小娘、女として見ないよね。普通。やっぱり気のせい。
「はいよっ。生の肉、ちょっとおまけだ。」
「わっ、いつもありがとうございます!」
「なーに。いいってことよ。わっはっは。」
わーい!やっぱりいい人だ。
ルンルン気分でお肉屋さんを後にした。
後ろからおばさんの怒鳴り声がかすかに聞こえるような。
「……あんた!また女の子にだけおまけして!!下心で商売するんじゃないよっ!」
「わ、悪かったっ……もうしねえから……。」
お肉屋のおじさんの声も聞こえるような……空耳かな?
さーて、おばあちゃんのお店の店番かぁ。そういえば初めてだ……うまくできるかなぁ。
うん!がんばろう!
2021/12/22 改行と一部表現を修正