旅の目的
今日の夕食は熊のレバーのハンバーガーもどきだ。
モグモグ……。
レバーは少しクセがあるな。胡椒を多めに振ったのでまぎれるが、好みがわかれるかもしれない。
それにちょっとパサついている。
寄生虫や細菌が怖いから、しっかり焼いたのは良いが、水分も油分もすっかり出てしまったようだ。
「二人はレバー、大丈夫か?」
俺はメグミとツムギに聞いた。
「うん!おいしいね。私、すっかり内臓好きになっちゃったよ。」
と、メグミが言う。
「おいしいです。でも、心臓……ハツでしたっけ?の、方が好きかもです。」
ツムギも、レバーがダメという事は特に無いようだ。
「ご馳走様。」
と、みんなで食後のあいさつをし、水を飲む。
少し塩辛かったので、水も甘く感じた。
「内臓は傷みやすいと思ってたけど、スラ子が空気に触れさせずにいてくれたおかげで大丈夫だったな。」
「ありがとうございます、マスター。なるべく日なたに出さないようにしておいたのもよかったのでしょう。」
「そうだな。でも、いつまでも持つわけじゃないだろうから、どんどん食べてしまおう。無くなってもスライム団子を作ってもらえるし。」
「では、熊の内臓を優先して消費する事にしましょう。スライム団子の生産は一時ストップします。」
「うん、それでいいと思う。」
食後には、この旅の目的の話になった。
「カヒトさん。この旅は各地のおいしいものを食べ歩くのが目的の、グルメ旅行という事で良いんですか?」
お腹が膨れて落ち着いたツムギが言った。
「ん……。あれ?そうなのか?」
「まあ、昨日カヒトがツムギちゃんに、『これよりうまいものを食べに行く』って言ってたよね。」
メグミが言う。
ちょっとニュアンスが違うんじゃないか?そんな『俺より強い奴に会いに行く』みたいな事言ってないけど。
「えーと……。うまいものを食べたいのは否定しないけど、目的は別なんじゃないかな……。」
「やっぱり、そうでしたか。いつ死ぬかも分からない旅なのに、ちょっとのんきすぎるなって思ってたんです。」
と、ツムギ。
「私がいる限り、マスターを危険な目に合わせたりしません。安心してグルメ漫遊をお楽しみください。」
「それはありがたいけど……。旅の目的か……。別に考えてなかったな。」
「私は二人について行くだけだから良いですけど……。メグミさんは、なぜ冒険者になったんですか?」
「私の事は、『おねえちゃん』でしょ?」
今日のメグミはちょっとめんどくさい。
「……メグミお姉ちゃん、の、旅の目的は、何かあるの?」
「うーん……。私もあんまり考えてないかなぁ……。」
「グダグダですね……。スラ子さんは?」
「私は常にマスターと共にあるだけです。マスターが旅を続けるというのなら、たとえ行き先がどこであってもついて行きます。」
「ですよね。」
「あ、あのね。旅の目的っていうか、冒険者になろうと思ったのは、『困っている人を助けたい』って事だと思うの。」
と、メグミが言う。
「メグミらしいな。」
「ホントです。……カヒトさんもそうしますか?人助けと世直しの旅。」
「世直しも付くのか。俺には荷が重い。……そうだなあ……。俺の目的は元の世界に帰る事にするかな。」
「えー?カヒトは帰っちゃうの?……でも、そうだよね。元の暮らしに戻れるなら……」
「何か、あてはあるんですか?」
と、ツムギ。
「いや、まったくない。……まあ、多分元の世界に帰る方法は無いと、最初から思ってる。達成できる見込みのない目標だ。」
「そうですか……。」
「ツムギは、失った記憶を取り戻さないとな。」
「あー……はい。まあ、そうですね。」
「あれ。……気にならない?」
「正直、あんまり。」
「……」
「でも、私も一応、それを目的ってことにしておきます。」
「あんまり中身のない話だったね。」
メグミが言う。まったくだ。
メグミとツムギはまあまあ話好きだ。途切れることなく何か話をしている。
ツムギは敬語になったり、やめたり。まだ、俺たちへの接し方を決めあぐねているらしい。メグミは、家族のように接して欲しがっているが、なかなか簡単ではないだろう。
俺は聞くともなく、2人の話を聞いている。
誰かが少し体を動かすと揺れる部屋のせいで少し船酔いみたいになってきた。あるいは、ただ眠くなってきただけか。
「スラ子、ちょっと窓を作ってくれないか。」
「はい、マスター。」
部屋の壁に丸く穴が開いて外が見える。
星は見えない。今日は曇りだ。当然外には何の明かりもないので真っ暗。何も見えなかった。
部屋の中に少し風が吹き込んできた。別に寒くはないが、外には見るものもないので窓は閉めてもらった。
「カヒト、もう寝る?」
メグミが言う。
「ああ、そうだな。やることもないし。」
「……一緒に寝る?ツムギちゃんも。」
「ええ?い、いや、その……。」
突然の提案にうろたえる。まあ、ツムギをほっといて二人で寝るということは無いけど。
「私は、いびきがうるさいでしょうから……。」
ツムギが言った。
「スラ子が鼻の通りを良くしてくれたから、いびきも治ってると思うけどな。」
と、俺。
「じゃあ、問題ないね。スラ子ちゃん、3人で一緒に寝れるベッドになってもらえないかな。」
「お任せください。」
スラ子がそう言うと、部屋の真ん中にキングサイズのベッドが現れる。
キングサイズ、と言うより、単純に普通のベッドを3つ並べたサイズだ。
「ええと……、いや、ほら、お、俺は一人で寝るよ。メグミとツムギが使ってくれ。」
「私なんかと一緒に寝たくないですか。やっぱり、いびきがうるさいから……しくしく……」
と、ツムギがわざとらしいウソ泣きをする。
「分かったって……じゃあ、3人仲良く川の字で寝るか……。」
「わーい!カワノジ!」
「カワノジー!……ってなに?」
ツムギを真ん中に、俺とメグミはその両脇に横になった。
メグミもツムギも何だかにこにこしている。
俺も、もちろん嬉しいが、何だか後ろめたい。決してやましい事をするつもりは無いけど。
おやすみのあいさつをして眠りにつく。
ツムギはすぐに寝てしまったようだ。やっぱりいびきは治って、すうすうと平和な寝息を立てている。
(カヒト……おやすみ。)
メグミが小声でそう言って、俺の方に顔を寄せてきた。
俺も挨拶を返して、ツムギの頭越しにメグミに顔を寄せる。
部屋がぐらりと、少し揺れた。




