メグミお姉ちゃんとハンバーガー
昼食の後はただただ歩いた。
山の上から見た限り、湿原は広い。今日中に抜けるのは無理だろう。
足場が悪いからなのか、見通しが良すぎるからなのか、動物もモンスターも見かけない。
平和でいいが、少し退屈だ。
メグミ達の方を見ると、メグミとツムギは手をつないで歩いている。随分と仲が良くなった。
「メグミさんはお姉さんがいるんですか。」
「うん。私のお母さんは私が小さい頃に死んじゃったから、お姉ちゃんがお母さん代わりだったね。」
「どんな人ですか?メグミさんのお姉さん。」
「ちょっとうるさいけど、やさしい人だよ。私、お父さんに、冒険者になる事を反対されたけど、お姉ちゃんはずっと応援してくれてた。」
「良いお姉さんですね。」
「うん……。私が6歳くらいの頃かなぁ。……弟か妹が欲しいって駄々をこねて、お父さんを困らせたことがあったっけ。」
「……。」
「その頃にはお母さんはもういなかったから……お父さんも、そんな事言われても困るよね。」
「……はい。」
「あのね、後から思い出して、何でそんな事言い始めたかって考えてみるとね、……私、お姉ちゃんになりたかったんだよね。お姉ちゃんって、ステキだなぁって思ってて、憧れて。」
「そうなんですか。」
「だからツムギちゃんが仲間になってくれて、すごく嬉しいの。念願の妹だーって。」
「そ、そんな。私なんかが……もったいないです。」
「ねえねえ、ツムギちゃん!私の事『お姉ちゃん』って呼んでくれないかな!」
「それは……その……。」
「じゃあ、一回だけ!ね?」
「……メグミさ……。お、お姉さん。」
「コラ。ツムギ?『お姉ちゃん』でしょ!」
ツムギが困ったように俺の方を振り向く。俺は何も言わずに笑った。
「メグミお姉ちゃん……。」
「ツムギちゃん。お姉ちゃんに、いっぱい甘えていいんだからね!」
「はい。うれしいです。私も、本当の姉が出来たみたいで。」
「それに、敬語じゃなくていいんだから。」
「そうですか。……分かりまし……うん、……分かった……。」
メグミはなかなか強引だ。しっかり者のツムギを妹キャラにしてしまうとは。
その日は何事もなく日が暮れた。
かなり歩いたと思うが湿原はまだ続きそうだ。
「マスター。また、部屋を作りましょうか?」
「ああ、スラ子。お願いするよ。」
「はい。お昼に休憩した小屋のような形にしますか。あるいは昨晩のような岩に偽装するかですが。」
タイミングの悪いことに今歩いている道の周りは湿原しかない。
近くに森があれば、その中に建物があっても不自然ではないかもしれないが、ここだと道端に突然小屋が立っているようになる。
「どっちにしろ不自然だけど……小屋だと誰かが訪ねてくるかもしれん。昨日のように岩になってくれるか。」
「了解です。地面が柔らかいので、床も作りましょう。」
すぐに道のわきに昨晩の岩の部屋にそっくりなものができた。それが湿原の水の上に浮かんでいる。
中身が空っぽなので浮いているのだろう。
これだけの高さの構造物が作れるようになったのは鉄スライムと石スライムのおかげだ。
細い柱や薄い壁で支えられる強さを手に入れた。
スラ子が岩の部屋に入口を開けてくれる。
入ってみると、中には何もない。ベッドなどはまだ必要ないからな。
スライム電球も、一見しただけでは見当たらなかったが、中は明るかった。
「スライム電球は眩しいとの事でしたので、直接は目に入らない位置にしました。」
と、スラ子が言う。
天井の隅の辺りから光が漏れている。一枚壁を隔てた、向こう側に電球があるらしい。
つまり間接照明にしてくれたわけだ。
落ち着いた空間になった。が、何だかムーディだ。「ていねいなくらし」感がある。
まず、俺から。と、足を踏み入れると、部屋全体がぐらっと揺れた。完全に水の上に浮いているらしい。
「メグミ、ツムギ。揺れるから気を付けて。」
「わわっ。す、すごい……。」
と、入ってきたメグミが言う。
「ひゃっ……。ちょっと怖いかも……。」
メグミに手を取ってもらいながら、ツムギも入った。
「これは、あんまり動き回らない方が良いな。スラ子、夕食の準備をしようか。」
「はい、マスター。外ではなく、部屋の中でよろしいですか?」
「流石に焚火はできないけどな。スラ子の電熱器と鍋があれば、ここで大丈夫だ。」
「マスターに電熱器を教えていただいたおかげです。またスープでよろしいでしょうか。」
「今回は鉄板で焼いてみよう。」
夕食の準備をする。今日は肝臓、つまりレバーを使ってみるか。
メグミにはレバーを大きめにスライスしてもらい、ツムギにはスライム団子を平たく伸ばしてもらった。
鍋は底が浅く、持ち手の有るフライパンにしてもらって、レバーと伸ばしたスライム団子をそれぞれ焼く。
レバーからは油が出るかな?と、期待したがほとんど出なかった。
レバーも団子も何度かフライパンに張り付いたがその度に、なべ底が波打って剥がしてくれる。
伸ばしたスライム団子でレバーを挟んだら完成だ。
「サンドイッチ……いや、ハンバーガーかな?」
と、俺が言うと、
「こういう料理は×××っていうね。ふつうはお団子じゃなくて、パンを使うけど。」
メグミが言った。×××は翻訳されず、そのままだ。
「じゃあ、スラ子。今メグミが言った単語を『ハンバーガー』で対応させてくれ。」
「かしこまりました、マスター。マスターの言葉で『ハンバーガー』、この世界の言葉で『×××』ですね。」
「カヒトさん、食べて良いですか?もうお腹ペコペコです!」
ツムギがハンバーガーに、今にも齧り付きそうになりながら言った。
「ああ、食べよう。いただきます。」
「いただきまーす。」
とメグミ。
「いただきまーふ。」
と、あいさつと食事を同時にこなそうとするツムギ。




