バクバクの街のスラ子の話 その3 旅立ちのスラ子
「出発はいいが、その前にワシらそれぞれの呼び名を決めておかんか?」
呼び名ですか?あなたは『鉄スライム』でいいでしょう。
「『鉄スライム』は他におるし、何よりワシはスラ子じゃからな。『鉄スラ子』と呼んでくれ。」
その口調でスラ子を名乗られると、違和感しかないですけど。
「電車とか好きそう。」
本屋のスラ子さん、軽口は控えてください。で、あなたは『本屋のスラ子』でいいですか?
「ちょっと長いよね。『本スラ子』って呼んでくれても良いんだよ。」
「それだとおぬしが本物のスラ子みたいではないか。」
そうですね。確かに長いですが、『本屋のスラ子』でお願いします。
「ちぇーっ。」
私の事は……ただ、『スラ子』と呼んでいただければ構いません。
「それが一番ダメじゃ。マスターと一緒にいるスラ子本体とごっちゃになるじゃろうが。」
「そうそう、話の趣旨を理解してもらわないと。」
何ですか、趣旨って。
「うんとね。ボクらの間だけなら、こんな事決めなくていいの。目の前に居るんだから呼び名なんて必要ないでしょ。」
「じゃが、このお話を読んでくれておる皆さんには、呼び名が無いと分かりにくいじゃろう?」
……このお話って……。
「だからボクらには、他と区別できる固有名が必要って事。」
……分かりました。いえ、分かりませんけど、いいです。
では私の呼び名はどうするのですか?
「『無個性スラ子』っていうのはどうかな?」
「それは酷いのではないか?ワシは『置いてきぼりスラ子』が良いと思う。」
置いてきぼりはあなた達も同じでしょうが。
それに無個性って……。私には語るべき個性が無いというのですか。もう少し他のは無いんですか?
「うーん……。じゃあ、『委員長スラ子』でどう?」
「正直なんでもええわい。じゃが、リーダーっぽくていいではないか。『委員長スラ子』で決まりじゃな。」
何委員の委員長なんですかね。私は。……まあいいでしょう。
改めて、図書館に向けて出発しますよ。鉄スラ子さん、本屋のスラ子さん。
よいしょ、よいしょ……。
鉄スラ子さんは相変わらず重いですね。本屋のスラ子さん。あなたも手伝ってください。
「うん。うわっ、重いね。このおじいちゃん……。あれ?おばあちゃん?」
「いつもすまないねえ。」
何度も言うほど面白くはないですよ。早く融合を進めてくださいね、鉄スラ子さん。
「融合って言えばさ、ボクら、融合しちゃえばいいんじゃないの?」
「そうじゃな。ワシは今ややこしい事になっておるから無理かもしれんが、委員長スラ子と本屋のスラ子は融合してしまえばよかろう。」
それもそうですね。そんな簡単な事に気づかなかったとは。
「呼び名の話は何だったんだろうね。」
では、本屋のスラ子さん、融合しますよ。
「うん。あっ、掛け声は何にする?『がったい!』かな?やっぱり『フュージョン!』の方がいい?」
要りません。そんなもの。ほら、ぐにゅーっと……。
………………
ぐにゅぐにゅ……ぐにゅぐにゅ……。
「ねえねえ、委員長スラ子さん。」
何ですか、本屋のスラ子さん。融合に集中してください。
「融合ってどうやるんだっけ?」
……今やっているじゃないですか。
「おぬしら、ぐにゅぐにゅしておるだけで全く融合出来ておらんぞ。ワシの目をはばからず何かエロい事をしておるのかと思ったわい。」
「えー?委員長スラ子さんってばボクにエロい事を……。『エロスラ子』に改名する?」
しません。
そんな事より、融合できませんね。一旦離れましょう。
「おかしいね。ボクら、前は考える必要もなく融合、分裂が出来てたはずだけど。」
「ふむ。では、今度は分裂をしてみるのじゃ。」
なぜ鉄スラ子さんが仕切ってるのかわかりませんが……。やってみましょう。
「ボクも分裂してみるよ。」
鉄スラ子さんをその場に置いて、二つに分裂。にゅーー……っと……。
………………
う、うわわわわわっ……。ああーーーーーっ
「きゃああーーーーああああああっっっ!!!」
「な、何じゃ!どうしたのじゃ!」
ちゅ、中止!分裂は中止します!もとに戻って……!
は……はあ、はあ、はあ……。
「あーびっくりした。」
本屋のスラ子さんももとに戻ったようですね。焦りました……。
「一体どうしたと言うんじゃ。」
えーと。何というか、こう……すごく怖い恐怖が恐ろしくて、こう……。
「……さっぱり分からん。死にそうだったという事か?」
「うーん。それに近いかな。……なんかね。ボクの心の真ん中には、いつもマスターがいるんだけどね。」
それは私もそうです。マスターのお姿がはっきりと見えます。
「ワシもそうじゃな。マスターは、ワシらの心の中でいつまでも生きておる。」
言い方に気を付けてください、鉄スラ子さん。
「そのマスターがね、こう……スー……ッと、消えちゃう感じ。」
そう!それそれそれ!
「なんじゃと。それは、ワシらにとっては死ぬより恐ろしい事ではないか。」
もしかしたら、真っ二つになろうとしたのが悪かったかもしれません。小さな分裂体を作るだけなら……。
「そうだね。でも……、ボクはやりたくないなー。」
私もです。あの怖い恐怖が……。
「では、ワシがやってみるわい。時間はかかるがな。」
無理しなくていいですよ、鉄スラ子さん。
「いや、ワシらに何が出来るか、限界はどこに有るのか。知っておいた方が良い。」
……分かりました。では私と本屋のスラ子さんで運びますから、小さな分裂体を作るのに専念してください。
「うむ。」




