バクバクの街のスラ子の話 その1 目覚めと出会い
ふと気が付くと、私は壁の一部でした。
……ん?あれ?ここは……
あ、そうだ。ここは鉱山の街バクバクの宿。その一室ですね。
私はスラ子。マスターにお仕えするスライムです。
まあ、私はその分裂体の一つですが。
疲労を癒すため、宿の壁になっておとなしくしていました。ついでにマスターのお金を隠していられるので一石二鳥です。
それでマスターは……。
あ、居ました。ベッドで眠っていますね……
って、誰だお前は。
ベッドで寝ているのは、女性二人です。どちらもマスターではありませんし、メグミさんでもありません。
…………………………
?え?どういう事?
えーと。ここがマスターとメグミさんの宿泊された部屋であることは間違いありません。
で、そこにマスターが居らず、知らない人が寝ていると……。
うんうん、なるほどなるほど……。
え?つまりどういう事?
……あ、とりあえず、私の本体を探しましょう。マスターと一緒に居るはずです。
……居ませんね。どこにも……。
じゃ、じゃあ、本体でなくてもいいです。私の分裂体は……。
あ、居ました。部屋の外の廊下の天井を、ちょうどこちらに向かって来ています。
ドアの隙間をぬるっと抜けて、部屋に入ってきましたね。
「おう。スラ子。やっと合流できたのう。」
えーと、あれ?あなたは私ですか?
「もちろんじゃ。」
それにしては、こうやって会話しなければ意思の疎通ができませんが。
「ワシは元々は鉱山に居た鉄スライムだからな。スラ子と融合し始めたばかりで多少混乱があるのだ。」
『ワシ』って……。え?鉄スライムって、なんの話ですか?
「なんだ、聞いておらんのか。……ふむ、なるほど。お前さんは今まで休んでたせいで情報にズレがあるのう。しょうがない、説明してやろう。」
私は元鉄スライムさんに経緯を聞きました。要は石スライム、鉱石スライムを大量に仲間にして融合したという事ですね。
完全に融合してしまえば分裂していても意識を共有できるのですが、この鉄スライムさんとはまだそれが出来ないようです。
「それで、マスターはどこじゃ?ここに居ると聞いてきたのだが。」
鉄スライムさんが言いました。それは私が聞きたいです。
……まずいです。鉄スライムさんが来て、何か情報が得られると思いましたが、何の解決にもなりそうにありません。
「ムムム。どうするんじゃ。ワシはマスターにお仕えするために、復讐を捨てたというのに。」
そんな事言われても困ります。復讐というのが何の話かは知りませんが。
「本体がいないのは仕方ない。分裂体は、他に居らんのか?」
ですから、そう思って探した分裂体があなたじゃないですか……。
ですが探しましょう。うーん……。あ、居ました。ここから少し離れていますが、間違いありません。
「居たか。では、ここへ来るように呼びかけるんじゃ。」
もうやってますよ。……え?イヤ?離れたくない?
は?何を言って……。え?忙しいから切るって……。ちょっと!
……。交信が切られました。
「どういう事じゃ?その分裂体も鉄スライムか、石スライムなのか?」
分かりません。
……。なんか腹が立ってきました。
鉄スライムさん、行きますよ。分裂体の所へ。
私は隠していた何枚かのコインを持って、するすると窓の方へ……。コインが窓の隙間を通りませんね。仕方ない、ドア下の隙間は広いので、そこを通りましょう。
鉄スライムさん。何をグズグズしているんですか。
「わ、ワシは動きが遅いんじゃ。だからほかの鉱石スライムに置いて行かれてしまったのじゃ。」
しょうがないですね。私があなたを運びます!
「スラ子や、いつもすまないねえ。」
おとっつぁん。それは初対面では言わない約束でしょう。
「何を言っとるんだ。お前は。」
こっちのセリフです。
相変わらず分裂体は呼びかけに応じません。が、位置は分かります。
うーん。鉄スライムさんは重いですね。何を食べたらこんなに重くなるんですか。
「鉄。」
……。
「無視はひどいぞ。」
……。
「ところでスラ子。何を大事そうに持っておるんじゃ?」
お金ですよ。マスターの物ですから、置いていく訳にはいきません。
「ほう、これは金じゃな。不純物は多いが……。食べていい?」
……。
「無視はひどいぞ。」




