スラ子とツムギの闇の取引
ツムギが一人部屋に入った後、俺とメグミは少しまったりしている。
しばらくして、俺も少し眠くなってきた。
焚火はほとんど燃え尽きて熾火になっている。
「スラ子。ツムギはもう寝たかな?」
「はい。少し前まで鼻をすすっていたようですが、今は静かです。」
「分かった。メグミ、俺たちも寝ようか。」
「うん。……一緒に寝る?」
「い、いやその……。ツムギがいるから……。」
「フフッ。また今度ね。」
部屋の出入り口を開けてもらい、静かに内に入る。
俺たちのベッドは既に用意されている。後は寝るだけだ。
「お休み、メグミ。」
と小さくささやくとメグミもお休みを返してくれる。スラ子が、ツムギには聞こえないようにしてくれているのだろう。
横になり、ウトウトしていると、
「グオー、グオー……」
という音が聞こえてきた。
ビクッとして頭を起こす。
部屋の奥の方を見ると、暗闇でメグミと目が合った。
どうやらツムギがいびきをかいているようだ。
あんなに小さい女の子がこんな野太いいびきをかくとは……。
……。
少しびっくりしたが、別に眠れないほどでもない。
ツムギのイメージが若干崩れたが……それだけだ。
一日歩いた疲れは抗い難い眠気になって俺を襲った。朝までぐっすりだろう。
と、思ったのだが、なんだか目が覚めた。
部屋の中は真っ暗で時間は分からないが、まだ朝ではないだろう。
「スラ子。ちょっと外に出るよ。」
隣で寝ているメグミやツムギに聞こえないように小さな声で言った。
「はい、マスター。外にモンスターの気配はありません。」
スラ子はそう言って出入り口を開けてくれた。
外は満天の星空だった。
わずかに欠けた月が大地を照らし、スライム電球無しでもよく見える。
異世界なのだから、月は2つか3つあるかと思っていたがそんなことはない。1つだけだ。
しかし地球で見る月よりもずっと大きく、きれいに輝いている。
圧倒され、月から目が離せないでいると、部屋の出入口が開きツムギが外に出てきた。
「ツムギ、起こしちゃったか。」
「いえ……。むしろ、私のいびきでカヒトさんを起こしてしまったかと。」
ツムギは自分のいびきに気が付いていたのか。
「俺が起きた時は聞こえてなかったよ。……その時はツムギも起きてたのか。」
「ですね。」
消えていたと思っていた焚火に、いつの間にか小さく火がついている。
その隣に、椅子ではなくベンチが生えてきた。二人で並んで座れと言う事か。
「ツムギ、座ろうか。」
「はい。」
焚火の火がパチパチとはぜている。
揺れる炎を、ただ黙って二人で見つめていた。
ツムギが呟くように言う。
「昼間……」
「……ん?」
「すみませんでした。……カヒトさんの事を、役立たずのように言ってしまって。」
役立たず……。ド直球だな。……別にいいけど。
「構わないよ。……事実だし。」
「いえ。カヒトさんがどれだけすごいのかは、スラ子さんから聞きました。デンキ……ですか。銀の背熊を仕留めた電撃や、スライム電球というものは、カヒトさんがやり方をスラ子さんに教えたと。」
「そこはまあ、スラ子を褒めるべきだけど。」
「もちろん、スラ子さんはすごいです。ですが、カヒトさんも、本当にすごいと思います。発想力と言いますか。」
「ただの知識だよ。俺がいた元の世界では普通の事だった。」
「そうなんですか。すごい所からいらしたんですね……。それに何より、私は自分の事を棚に上げて、偉そうなことを言ってしまいました。ごめんなさい。」
「気にするな。」
「……歌も……ステキでした。」
「歌?」
「はい。メグミさんの後に歌っておられた歌です。えっと……聞いていて、なんだかゆったりした気持ちになって……眠ってしまいました。」
「それは良かった。」
「それでその……また歌っていただけませんか?」
「……今?」
「はい。」
歌った。
恥ずかしいのは変わらないが、これでツムギが安心できるなら安いものだ。
もっとも、社交辞令で褒められたのかもしれないが。
歌っていると、ツムギが身を寄せてきた。俺の手を取り、小指をきゅっと握ってくる。小さい手だ。
2曲歌い終わったところでツムギを見ると、目を閉じて俺の腕に頭を預けている。眠ってしまったようだ。
『サイクロプスは歌に弱い』とか、そういう事じゃないだろうな。
ツムギが眠ったのを確認してからも、起こさないように注意しながら続けて2曲歌った。
「スラ子、また寝るよ。」
「はい、マスター。」
「ツムギをベッドまで操ってやってくれないか。」
「マスター。このような場合は、マスターが抱きかかえて運んであげるべきです。」
スラ子にそう言われたので仕方ない。うん。仕方ないな。
仕方なく、俺は小さな女の子をベッドへ運んだ。




