ツムギの後ろ向きな決意
商隊は魔法の明かりを灯したままつり橋を渡っていった。
俺たちは、なんだかぐったりと疲れてそれを眺める。
スラ子がまた椅子を生やしてくれたので、座り込んだ。
「メグミ、対応してくれてありがとう。」
「ううん。」
「全員、メグミさんしか見てませんでしたね。」
「ああ。まあ、メグミは可愛いからな。」
俺が言うと、ツムギは俺をにらむ。
「もちろん、ツムギも可愛いよ。」
そう続けるとツムギはプイっと横を向いてしまった。
「魔法使いはすごかったね。」
メグミが言った。
「そうだな。でも、あれならスラ子の方がすごいな。」
「そうだね。スラ子ちゃんはすごいよ。」
「はい。スラ子さんはすごいです。」
スラ子はさざ波を起こして喜ぶ。
唐突に、
「メグミさん、スラ子さん、カヒトさん。私、決めたことがあるんです。」
ツムギが目を伏せて言った。
「どうしたの?ツムギちゃん。」
「私、やっぱりバクバクの街に戻ります。」
俺とメグミは驚いてツムギを見る。
「私は、トマスが熊の代金として皆さんに支払った報酬です。その報酬がいなくなるのですから、代わりのお金を支払わせます。トマスはまだバクバクの街にいるでしょうから、話をしてきます。」
「つり橋を渡れないから、同行できないという事か?」
「……つり橋は……正直に言えば、渡れるかもしれません。おそらく、スラ子さんやお二人が助けてくれれば渡れるでしょう。」
「それなら良いじゃない。もちろん助けるよ。」
そんなメグミの言葉に対し、ツムギは首を振りながら言った。
「それでは、私は皆さんの重荷にしかなっていません。私に価値が無いのなら、皆さんは受け取る必要はありません。」
ツムギは厳しいな。他人にではなく、自分に厳しい。
その厳しさが、合理的な考え方と悪い意味でかみ合ってしまっている。
「ツムギちゃんに価値が無いなんてことは、絶対にないよ。一緒に居てほしいもの。」
メグミは優しいな。自分にではなく、人に優しい。
そして、メグミの考え方はどちらかと言えば直感的だ。ツムギのような性格の子を説得するには向いていない。
メグミとツムギはある意味で正反対、ある意味でとても似ている。まるで本当の姉妹のようだ。
この二人を引き離すつもりは当然無いが……。
「ツムギさんに価値が有るか無いか。それを決めるのはツムギさんではありません。」
スラ子は冷徹だ。俺の為になると思えば、スラ子自身すら簡単に犠牲にする。
他の人間は、多少便利な道具程度にしか思っていない節がある。表向きは。
ツムギの事も、本当に役に立たないと思えば見捨てるのかもしれないが……。
「カヒトも、ツムギちゃんと旅をしたいよね。」
メグミが俺に言った。少し泣きそうな顔だ。
「もちろん。俺たちは誰もツムギを追い出そうなんて思っていない。」
「ツムギ自身がこのパーティーに合ってないと思うなら仕方ないけどな。それにしても、まだツムギが仲間になって1日しか経ってない。バイトの試用期間だってもっと長いぞ。」
「結論を出すには早すぎる。最低でも1か月は一緒に過ごして、お互いを知ってから決めるべきことだ。」
俺はそう、まくし立て、自分でウンウンと頷いた。
「ツムギ、焼いたスライム団子はうまかったか?」
「……今まで食べた物の中で、一番おいしかったです。」
「もっとおいしい物も食べたいと思わないか?」
「……思います。」
「では、一緒に行こう。」
「……はい。……ありがとうございます。」
メグミがツムギをぎゅうっと抱きしめた。
ツムギもメグミの服の裾をきゅっとつかんでいる。
ひとしきりそうしていた後、ツムギはメグミから離れて言った。
「あの、すみませんが先に休ませていただいても宜しいでしょうか。」
「うん。今日は疲れたよな。スラ子、ベッドを準備してくれるか?」
「はい。ツムギさん、どうぞこちらへ。」
岩に偽装した部屋の壁に出入口ができる。
中を覗くと立派なベッドが一つ生えてきた。天井から生えたスライム電球が部屋の中を照らしている。
「では、申し訳ございませんが先に休ませていただきます。」
ツムギが言う。目が少し赤くなっているようだ。
「ゆっくり休んでくれ。」
「お休み。ツムギちゃん。」
俺とメグミは並んでツムギを見送る。
別に俺たちももう寝てしまってもいいのだが、少しツムギを一人にしてやるべきだろう。
ツムギが部屋に入りぺこりと頭を下げると、出入口の穴がきゅっとすぼまる。
それを確認すると、メグミが今度は俺に抱きついてきた。
俺はドギマギしながらも、メグミの背中に腕を回す。
メグミは小さく「大好き」と呟くと、さらに力を込めて俺を抱きしめる。
照れ隠しはいいけど……。く、苦しい。女の子の力とは思えない。
焚火にあたりながら、俺たちは少しの間イチャイチャしていた。




