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商隊と魔法使いと

 黄昏時(たそがれどき)。何者かが俺たちのキャンプに近づいてきた。


 音が止まった。向こうもこちらを認めて立ち止まったようだ。

「おーい!こっちは冒険者のパーティーでーす!」

 メグミが大きな声で呼びかける。

 なるほど。

 俺たちにしてみれば「怪しい奴らが近づいてきた」と考えるが、向こうから見れば「怪しい奴らが待ち伏せしている」ように見える。

 もちろん本当に待ち伏せするのなら焚火など焚かないが、向こうが警戒するのは当然だ。


 俺はランタンになったスライム電球を取り上げ頭の上で左右に振った。

 メグミの呼びかけと合わせて、こちらに敵意が無いことは伝わるだろう。

 果たしてガラガラという音は再び近づいてきた。


「俺たちはこんな所でキャンプしているのは怪しかったかな。もっと奥まった場所にするべきだったかも。」

 俺はメグミに言った。

「そうすると、もっと怪しくなっちゃうかもね。ほぼ山賊だよ。」

「確かに。」


 賑やかな音の一行は俺たちのすぐそばまで来た。

 音の正体は馬車だ。

 俺の背丈より大きな馬が(ほろ)のついた馬車を引いている。西部劇で見るような奴だ。

 スラ子の言う「大きな動物」はこの馬の事だろう。


「やあ。」

 一行の先頭を歩く男が言った。

「こんばんは。」

 メグミが挨拶を返す。


 一行は確かに5人。1人は御者として馬車に乗っており、残りは歩いている。一人を除いて大きな荷物を背負って。


「俺たちは商隊だ。と言っても、馬車1台の小さな商隊だがね。君らはここでキャンプか?」

「はい。無理せずに、と思いまして。」

 メグミが対応してくれている。

「そうだな。少しでも暗くなったら橋は渡らない方がいい。」

「では、皆さんもこのあたりでキャンプされるんですか?」

「いや、俺たちは向こう岸へ渡ってからだな。少し急ぎでね。」

「大丈夫ですか?暗くなってからつり橋を渡るのは怖いですけど。それに、馬車も渡るんですか?」

「ああ、つり橋を渡るための少し小さい馬車なんだ。それに慣れてるからな。こいつも、何度も渡っている。」

 男はそう言って馬の首をポンポンと叩いた。


「……という事は、君らはバクバクから来たのか?」

 あごの無精ひげをザリザリと擦りながら男が言った。

「はい。今朝、バクバクの街を出ました。」

「そうなのか。俺たちは右手熊が討伐されたと聞いてすぐに出発したんだが、先を越されているとは……。」

 メグミは曖昧(あいまい)にうなずいている。


「モノは相談なんだが、君らもこの商隊の護衛に加わってくれないか?」

 男の発言に、俺たちは顔を見合わせた。

「別に今の戦力に不足があるって訳じゃないけどな。しかし、君らにとっても人数が多い方が安全だろう。それにただ移動するよりは、少しは稼げた方がいいんじゃないかな?」

 商隊の他のメンバーも、うんうんと(うなず)いている。


 うーん、これは……例のヤツだ。メグミとお近づきになりたいだけという。

 ツムギもそんな空気を察したのか、露骨(ろこつ)に見下したような視線を男たちに投げる。


「折角ですがお断りします。」

 メグミはすっぱりと断った。もちろんだ。特に相談の必要もない。

「そ、そうか。いや、済まなかった。」

 男は素直に引き下がる。

「こちらこそ、お急ぎの所引き留めてしまいました。本当に橋を渡るのは大丈夫ですか?もう暗くなってしまいましたけど。」

 メグミの言葉の通り、あっという間に暗くなってしまった。橋よりもまず、道を踏み外して川に落ちそうだ。


「はっはっはっはっは!心配ない!」

 馬車の横にいた男がずいっと進み出て言った。

 この男は一人だけ荷物を背負っていない。

 ゆったりとしたローブをまとい、手には長い杖を持って、頭には大きな三角帽子をかぶっている。

 いかにも「魔法を使います!」という風だ。


 ローブの男は、皆が注目したのを確認するかのように周りをぐるっと見回すと、杖を(かか)げて言った。


「光よ!」

 男の杖の先からふわっと光の球が浮き上がる。

 スライム電球よりも柔らかい光があたりを照らした。


「「「おおーっ!」」」

 俺とメグミ、ツムギの三人は感嘆(かんたん)の声を上げた。すごいぞ!

「ええ!もしかして、魔法使いなんですか?!」

 メグミが弾んだ声で言う。

 魔法使いは満足そうに、ふふんっと鼻息を吐き、ぐっと胸を張った。


 俺は男が魔法で作り出した光の球を見つめる。

 その場の全員の顔を確認できるくらい明るいのに、あまり眩しい感じがしない。今まで見たことのない光だ。

 と、思っていると、その光がチカチカと瞬き、だんだん暗くなってきた。切れかけの蛍光灯そっくり。


 魔法使いは顔をしかめ、杖を掲げてフンッと気合を入れる。

 再び光の球は明るさを取り戻す。男はそのまま意識を集中している感じだ。

 男は光の球を気にしながらチラチラとメグミを見て、言った。

「どうだ!素晴らしい魔法だと思わんかね!」


「はい。すごいですね。」

 メグミのテンションが明らかに下がった。ギリギリ失礼ではない程度に。

 男はそれに気がつかないようで、続けて言う。

「さきほどの話、考え直してはくれないかな?ぜひ隊に加わって欲しい。なんなら君だけでも。」


 ……。

 あちゃー……。みたいな雰囲気が商隊のメンバーに広がる。

 最初に話をしていたリーダー風の男もそこまで露骨ではなかったのに。

 リーダー風の男や、商隊の他のメンバーを見ると、じっとりとした目で魔法使いを(にら)んでいる。


 その目には見覚えがある。ツムギのジト目と同じだ。

 ツムギをチラッと見ると、さすが本家(ほんけ)本元(ほんもと)。その目のじっとり加減は他を圧倒するかのようだ。


 魔法使いがメグミの方を向く度に光の球はチラチラと不安定に(またた)く。ちゃんと集中してほしい。


「いえ。お断りします。」

 メグミは再度きっぱりと断った。取り付く島もない感じだ。

 もしかして『気』を飛ばしてないか?


「長々と邪魔して悪かった。では、気をつけてな。」

 何かを言おうとしている魔法使いを押しのけ、リーダー風の男が強引に話を終わらせた。

「皆さんもお気をつけて。道中の無事を願っています。」

 メグミの言葉に商隊のメンバーは舞い上がり、口々にメグミに別れの挨拶をして、手を振っている。

 ガラガラと馬車が動き出しても、ずっとこちらを向いて手を振り続けているな。やれやれ。


 商隊が行ってしまうと、俺たちは大きなため息をついた。

 ふーーーー……。

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