熊ハツ串と何者かの接近
つり橋を渡るのは明日にして、夕食の準備だ。
串を何本か作り、スライム団子を刺して火にかざす。
内臓の準備もしてしまおう。今回は熊の心臓を食べる。心臓、つまりハツだな。
熊の心臓はかなりでかい。ラグビーボールより一回り大きいくらいか。
3人なら半分でいいだろう。
大きめのサイコロ状に切ったハツを3つずつ、串に刺していく。
「スラ子、岩塩と胡椒を砕いて、これに振りかけてくれるか。」
「かしこまりました。」
そうしてできた熊ハツ串も火であぶる。
「わー。なんだかおいしそうに見える。串焼きは普通に屋台とかであるしね。」
メグミが言った。
「もちろんうまいさ。期待しててくれ。」
スライム団子と熊ハツ串から香ばしい香りが立ち始めると、ツムギが目を覚ました。
「あ。す、すみません。食事の準備は私がやらないといけない事なのに。」
「気にすることないよ。環境が変わって気疲れしてたんじゃないかな。休んでて大丈夫だよ。」
メグミがそう言って、ツムギの頭をなでる。
「そうだな。準備と言っても大した事してないし……。そろそろ焼けた頃だ。食事にしよう。」
俺たちは食前のあいさつをして食べ始めた。
炙ったスライム団子は相変わらずうまい。これにも塩を掛けてもいいかもしれない。
ハツもうまいな。肉汁があふれるという感じではないが、歯ごたえがありつつしっとりとしている。
塩胡椒の味付けも丁度いい。
うん。これはお金取れる味だ。
「おいしー!スライム団子はやっぱり焼くのがいいね。熊の内臓もすっごいおいしい!」
メグミもハツが気に入ったようだ。
「おいしいです。このお肉は、どの部分なんですか?」
ツムギが言う。
「心臓の部分だな。」
俺がそう言うと、少し嫌そうな顔をしたがすぐにハツに齧り付いた。
「スラ子も食べてみないか?団子は、もちろんスラ子が作ったんだから成分は知っているだろうけど、焼くと味が変わるんだ。」
肩のマスコットスラ子に焼いたスライム団子を近づけて言った。
「はい、マスター。食べてみます。」
透明なマスコットスラ子の中に白い小さな塊がいくつか現れた。
歯だ。
小石のような小さな歯が上下に2列並んでいる。
外側から見える歯はちょっと気持ち悪いな。でもちょっと可愛い。
スラ子はその歯で団子を小さく噛みちぎり、咀嚼した。
「味は分かるか?」
「焼く前と成分が変わっているのは分かります。マスターはこれがお好きですか?」
「そうだな。焼いたスライム団子はおいしいよ。」
「私にはおいしい味というのは、やっぱりよく分からないようです。ですがマスターの好みは知っておきたいと思います。」
スラ子は食事を楽しむことはできないのだろうか。少し残念だ。
「マスターに喜んでいただくことが、私の喜びです。私のスライム団子を楽しんでいただけたのならよかったです。」
スラ子は熊ハツ串も少し食べた。感想は団子と似たようなものだった。
十分に満足できる食事を終えた。
太陽は傾き、夕焼けが遠くの山を染め始める。
スラ子が3メートル位の高さの柱を立て、そのてっぺんにスライム電球を灯した。まるで街灯だ。
食事の余韻と美しい風景でまったりしていると、スラ子が少し緊張した声で言った。
「マスター、皆さん。誰かが近づいてきます。」
「『誰か』って、人か?モンスターじゃなくて?」
「はい。人数は5人。そして、モンスターではないと思いますが大きな動物もいます。」
「危険な感じなのか?」
「おそらく危険は無いかと。冒険者のパーティーのようにも見えます。私たちが来た道を通って近づいて来ています。」
俺はメグミと顔を見合わせた。
「隠れたりする必要は、無いよな。」
「うん。変な事しない方がいいかもね。スラ子ちゃんの能力で隠れることはできても、焚火と食事の匂いが残ってたら不自然だから。」
「分かった。スラ子、スライム電球はランタンの形になって地面に置いてくれ。あと、テントを立てて、荷物を中に。」
「かしこまりました。マスター。」
「ツムギ、俺たちの後ろにいろ。」
「はい。ですが、万一の時は私も戦いますので。」
ツムギがこん棒を持ち上げ、言った。
「もちろん、頼りにしている。まあ、今回は大丈夫そうだが。」
「スラ子、近づいてくるのが危ない連中だった場合は、電撃ボールで気絶させてくれ。殺すなよ。」
「了解です。私の分裂体がすでに相手の荷物に紛れ込んでいますので、いつでもやれます。」
うん。殺らないようにして欲しいんだが。
しばらく待つと、ガラガラギシギシと賑やかな音が近づいてきた。
音の方を見ると幾人かのシルエットが見える。
日が落ち、薄暗くなってきた。いわゆる黄昏時。
(誰そ彼)とも書く通り、人がいるのは分かるがどんな風貌かは分からない。
「偽装ランタン」のスキルを獲得しました!




