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歌う男と焚火と

 スラ子のおかげで安全な寝床ができた。

 ベッドや布団はまだ無いが、寝る時になったらすぐに地面から()やしてくれるそうだ。


「焚火できるように焚き木を集めようよ。ツムギちゃんにも焼いたスライム団子のおいしさを知って欲しいな。」

 メグミが言った。

「そうだな。熊の内臓も、焼いたらもっとうまいと思うぞ。」

「あー……。内臓もあったんだっけ。せっかく忘れてたのに……。」

「そう言うなよ。絶対うまいから。」


 そんな話をしながら焚き木を集めた。

 ツムギが深く考え込んでしまっているようで心配だが、こんな時は(はげ)ましたりするより別の事を考えてもらう方がいいだろう。

 バクバクの街のあたりに比べてここは木が少なく大変だったが、スラ子が広く探してくれたので十分な量が集まった。


 しかし夕食の準備を始めるにはさすがに早すぎる。

 手持ち無沙汰になった俺にスラ子が言った。

「マスター。久しぶりに、歌を歌っていただけませんか?」

「う、歌か?」

「はい。もし(よろ)しければですが。」

「あ、私も聞きたいな。異世界の歌でしょ?」

「そうだけど……。メグミも聞くのか?」

「うん。いいじゃない。あ、じゃあ、私から歌おうか。」

「それは興味深いです。」

 スラ子がそんなことを言っている。

 やめてほしい。その流れは断れないヤツじゃないか。


 俺たちはスラ子が作った部屋の外で車座(くるまざ)になって座った。

 座るのに適当な石が見当たらないので、スラ子が椅子になってくれた。地面からニュルッと生えてくる3つの椅子。


「じゃあ、歌うね。」

 メグミは少し照れながらも歌い始めた。


 ちょっと不思議だが、どこかで聞いた事があるような気もするリズムだ。

 スラ子は「歌は翻訳するものではない」と思っているのか、歌詞の同時通訳は流石にできないのかは不明だが、なにもせず静かに聞いている。

 なので歌の内容は分からない。

 分からないが、飛び跳ねるような抑揚(よくよう)を付け、踊るように歌っている。楽しい歌なんだろう。


 歌の長さは3分くらいか。

 盛り上がった、と思ったところでパッと終わった。

 歌い終えたメグミは、照れ隠しかニカッと笑う。

 見とれていた俺は慌ててパチパチと手を叩く。

「おおーっ。上手だったな。」

「メグミさん。素敵な歌声でした。」

 俺の肩でマスコットスラ子がぽよぽよと跳ねながら言う。

「素敵でした。」

 ツムギも、少し笑顔が戻っている。良かった。


「はい。次はカヒトの番。」

 メグミは容赦なくそう言った。


 まあ、そうなるよな。

 メグミの目が、「私にだけ歌わせるなんて事は無いよね」と言っている。


 うーん、失敗だった。

 メグミの歌は本当に上手だ。

 こんなにハードルを上げられる前に、先に歌ってしまえばよかった。


 まあいいか。

 大した歌じゃなくてメグミとツムギはがっかりするだろうけど、俺はスラ子の為に歌えばいい。


 コホンと一つ咳払いをしてから、小さい頃に好きだったバンドの歌を歌う。

 昔覚えた歌なのに、なぜか今でも歌詞を忘れずにいる。

 最近の歌はなかなか覚えられないのに、不思議だ。


 歌いだしてしまえば、後は気楽だ。

 別にうまいわけではないが、歌うことは好きだ。

 前の世界でもカラオケにはよく行っていた。好きな歌を好きに歌う。


 1曲、2曲、3曲……。

 段々ノッてきた俺は続けて歌う。

 つっかえる事もあるが気にせず歌う。音を外しても、高音が裏声になっても気にしない。


 何曲くらい歌ったのか。

 目を開けると、メグミはこちらを見てニコニコしている。

 そんなメグミにもたれ掛かり、ツムギは寝ていた。

 まあ、そんなものだろう。


 メグミは俺と目が合うと言った。

「そろそろ晩御飯の準備をしようか。」

「そうだな。メグミはそのままで大丈夫。任せてくれ。」


 集めた焚き木を積み、火打石で火をつける。

 スラ子が電球の応用で点けようとしてくれるが、せっかく買った火打石だ。なるべく使うようにしたい。

 うん。前よりは手際よくなった。


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