スライムは部屋になる
そんな話をしていると、遠くに橋が見えてきた。
崖の両岸に太く長い木の柱が何本か打ち込まれており、これまた太いロープが張り巡らされている。
地図の通り、つり橋だ。かなり立派な。
柱は太い。この辺りにはあんなに太い木は生えていないので、かなり遠くから運んできたのだろう。それだけで大変な労力だ。
手すりになっているロープも太い。
踏板は分厚く、板同士の隙間もほんの僅かにしか開いていない。これなら馬でも渡れそうだ。
俺はそのつり橋を見て、ほっと一安心した。メグミも大丈夫そうだ。
しかしツムギはダメだった。つり橋に近づかない。
それどころかつり橋を視界に入れることさえ拒否し、ずっと後ろを向いたまま小さく震えていた。
俺はメグミにツムギの事を頼み、スラ子と一緒に少し近くまで行ってみた。
なぜ街からこんなに離れた場所に橋を架けたのかと言えば、川幅の問題だろう。
より上流に行けばもっと狭くなる所もあるようだが、利便性と橋を架ける難度の兼ね合いでここにしたのだと思う。
この辺りの川幅は10メートル位。つまり、つり橋の長さも10メートル。
「スラ子、このつり橋は頑丈そうだな。」
「はい。地盤もしっかりしています。崖が崩れることなど無いでしょう。ロープにもほつれた箇所などはありません。」
「渡るときに、命綱を付けてもらえるか?」
「上に掛かっている太いロープから触手を伸ばし、皆さんを支えられます。そうしなくても落ちる心配はないと思いますが。」
「そうだな。でも命綱の有る無しでは安心感が違う。」
「その安心感で、ツムギさんも渡れるでしょうか?」
「うーん……。」
俺はそれには答えず、二人の所に戻ろうとだけ言った。
俺だってつり橋は怖い。その怖さは渡っている途中でつり橋が崩れ、川に落ちて溺れ死ぬ怖さだ。
ツムギの場合はそれとはちょっと違うように思える。
つり橋自体が怖いのだ。まるでつり橋が牙をむいて襲い掛かって来るとでも言うように。
戻ってみると、2人は100メートルほど来た道を後退していた。大きめの岩が目隠しになり、つり橋が見えない位置だ。
「あ、ゴメンね、カヒト。ツムギちゃんが怖がって……。」
「うん。メグミ、ツムギ、ちょっと早いけどキャンプの準備をしよう。」
「……ちょっとどころか、かなり早いけど……そうしよっか。ね、ツムギちゃん。」
「……はい……」
ツムギはやっぱり震えている。目が潤み、今にも泣きだしそうだ。
こうして見ると本当に小さな子供だ。ツムギの実年齢は本人にもわからないだろうが、おそらく見た目通りだと思う。
「マスター。ここでキャンプですか。」
「ああ、スラ子。テントを頼む。」
「テントもいいですが、マスターは、街で宿泊されていたような、部屋の方が落ち着きますか?」
「?それはまあ、そうだな。天井があって、四方を壁で囲まれていると安心できる。」
「では、テントではなく部屋を作りましょう。」
スラ子がそう言うと、俺たちの横にあった岩がこちらに向かってきた。
何が起きたのかわからず、「ぶつかる!」と驚く間もなく、俺たちは岩の中に取り込まれていた。
真っ暗だ。
岩が突然転がり、押しつぶされて死んだのかと思ったがそんな事はない。
頭の上でパッと明かりがつき周りが見えた。スライム電球だ。ちょっとまぶしすぎる。
周りを見るとメグミが臨戦態勢で身構えている。
そしてツムギは不安気に俺の腕にしがみついていた。見えるようになるとすぐに離れてしまったが。
「スラ子。これが部屋という事か。」
「はい。いかがでしょうか。」
スラ子が作った部屋の広さは、俺とメグミが泊まっていた部屋よりも少し広い。ベッドが3つ分という事だろう。
壁に触れてみると、なかなかしっかりしている。材質は木ではない。石スライムで出来ているらしい。
下は地面のままだ。
悪くない。悪くはないが、密閉されてないか?
空気の通り道が無いと窒息してしまうのだが。
「スラ子。出入口は無いのか?」
俺がそう言うと、壁の一部に突然穴が開いた。その穴が縦に伸び、ちょうど人が通れる大きさになる。
こういうの、何かのマンガで見たな。
外に出て、スラ子が作った部屋を見た。
岩だ。大きな岩が転がっている。
ただし、さっき見た時より横幅が2倍以上になっている。
元々あった岩の横に壁と天井を作り、空間にしたのだ。質感を岩に似せて。
なるほど、出入口を塞いでしまえば本当に岩にしか見えない。
「いいじゃないか。うん、すごくいい。」
「ありがとうございます。」
「メグミ、ツムギ。これなら人に見つかる心配はないし、モンスターにだって気づかれないだろう。」
「うん。さすがスラ子ちゃんだね。」
「……はい。」
ツムギの返事は弱々しい。
「部屋」に擬態するスキルを獲得しました!




