熊のもつ鍋
少し早い昼食。
鍋になってくれたスラ子で、熊のモツを茹でて食おうとする俺に、女性陣は全力拒否の構え。
どうやら不評のようだ。
ギルドで解体された右手熊も内臓は捨てられていたし、この世界ではモツを食べる習慣がないのだろう。
「大丈夫だって。スラ子がきれいに処理してくれたし、鮮度抜群なんだから。まあ、寄生虫は心配だから、ちゃんと火を通さないとだけど。」
元の世界では内臓は普通に食べられていた事を力説し、何とか一部を茹でる事になった。ただし、スライム団子と一緒に茹でるのは禁止された。
「スラ子、腸の部分、その長いやつを3人前切ってくれ。」
「お任せください、マスター。」
スラ子が手際よくナイフで小腸を一口大に切り刻む。見る限り汚れなどは残っていない。スーパーに並べられているものと変わりなく、うまそうだ。
茹でられていたスライム団子はすべて引き上げられ、空になった鍋にスラ子が小腸を入れる。
メグミとツムギはうわー、という目でそれを見ている。大丈夫だってば。
俺はバックパックから塩を取り出し、小さな塊を鍋に入れた。
塩は岩塩だ。大小の塊が麻袋に入っているのを買ってきた。
鍋の中の小腸は見る見るうちに縮んでいく。割とすぐに火が通りそうだ。
鍋から立ち上る湯気がだんだん匂うようになってきた。
これは……けもの臭い。二人はさらにうわー、となり、のけ反っている。
一応長めに、5分位経ってから俺は言った。
「もう良さそうだ。スラ子、俺のお椀によそってくれ。」
鍋から伸びたストロー状の触手の中を通って、モツが手元のお椀に入ってくる。
モツはホカホカと湯気と立て、肉の匂いをさせている。
うん、うまそうだ。間違いなくうまそうだ。絶対にうまそうだ。
「よし。いただきます。」
フォークで掬って口へ運ぶ。
ぐにぐに……。固いな。ゴムのようで、噛み切れない。
「うわー!食べちゃった。カヒト、無理しなくていいよ。ペッしなさい。」
メグミがそんなことを言っている。
俺はいつまでも口に残るモツを噛みながら、ぐっと親指を立てた。
ツムギは俺をジトーッとした目で見ている。
その目をやめなさい。興奮してくるだろう。
ごっくんと飲み込み、言った。
「うん、なかなかうまいぞ。二人も食べてみろ。」
スラ子が問答無用で二人のお椀にモツをよそう。
「うわぁ……。いただきます……。」
と、メグミ。
「こんな事になるなら、逃げればよかった……。」
と、つぶやくツムギ。
二人は目をつむってモツを口に運ぶ。
モグモグモグモグ。
「どうだ?」
「うん……。美味しいかも……。普通に。」
「はい、食べられます。というか、美味しいです……。普通に。」
俺たち3人はハフハフと残りを平らげた。うん。うまかった。
「ご馳走様、スラ子。団子もモツも旨かった。」
「スラ子ちゃん、ご馳走様。」
「ご馳走様でした。」
「……えっと、内臓なんて食べて、後で具合が悪くなったりしないかな。」
「大丈夫、大丈夫。それに、まだまだいっぱいあるからな。」
「う、うん……。ツムギちゃん。仕方ないね。覚悟を決めよう。」
「はい……。」
そんな、この世の終わりみたいな顔をしなくてもいいと思うけどな。
ただ、内臓は肉よりは足が早いだろう。
冬とはいえ、全部を食べきる前に悪くなってしまいそうだ。そうなったら残りは捨てるしかないかな。
「さあ行こう。先はまだまだ長いだろうからな。」
「うん。ブロートコーブまでは歩いて5日って話だね。ギルドの情報では。」
荷物を背負って歩き出す。
「そういえば、そろそろ川を渡るんだったか?」
俺は歩きながらメグミに声を掛ける。ギルドで配布されていた周辺地図を持ってきたのだ。
「そうだね。といっても、これが半日の距離なのか、一日歩くのか。地図からじゃ分からないけど。」
メグミの隣に行って手元の地図を覗く。
うーん。本当に簡単な地図だ。走り書きと言っていい。
無いよりましだが、もう少しまともな地図は無いんだろうか。
「……このマークは、吊り橋ですね。」
ツムギも向こう側から地図を見て、そう言った。
一応、地図記号があるのか。で、吊り橋か。
ツムギがピタッと止まる。
「ん?ツムギちゃん、どうしたの?」
「ええっと、その……ちょっと用事を思い出しました。さ、先に行っててください。」
俺はメグミと顔を見合わせる。
ツムギの目が泳いでいる。
何だかいかにもワザとらしい言い訳だ。用事なんてあるとは思えない。




