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別れと荷造りと

 大八車のような簡単なつくりの荷車が5人の冒険者と共にやってきた時、ちょうど熊の解体が終わった。


「いやー、すみません。お待たせいたしました。」

「今、終わった所だよ。」

「なんと!早いですね。素晴らしい!」

「ああ、いい練習になった。」

「では、いただいていきます。ふーむ、解体の現場というのは(くさ)いものと相場が決まっているのですが、全然匂いがしませんね。」

 トマスが言った。俺はあいまいに返事をしておく。


 冒険者の一人が近づいてくる。

「これかい。ふーん。見事な処理だな。運びやすくて助かるぜ。」

「はい。積み込みの方、よろしくお願いします。」

 トマスは連れてきた冒険者たちに言った。


 冒険者たちは手際よく熊の肉を荷車に積み上げ、毛皮をその上にかぶせた。

「確かに銀の背熊だ。よく倒せたものだ……。しかしなんだ?この毛皮の模様は……?」

 冒険者のリーダー風の男が言った。

 熊の毛皮には、ちょうど雷のようなギザギザの焦げ跡がついている。

「このダメージだと、毛皮に価値はないかもな。もちろん討伐の証拠としては問題ないが。」

「ええ、毛皮商は買い取ってくれないでしょう。ですが、このダメージがあってこその商売のやり方もあるのですよ。」

「フフン。商人は手ごわいな。」

 冒険者たちはさらに、熊の頭を積んだ荷物のてっぺんに乗せている。ちょっと悪趣味な荷造りじゃないか?


「そうだ。熊の内臓は貰おうかと思うんだが、かまわないか?」

 俺はトマスに聞く。

「内臓ですか?ええ、普通は捨ててしまいますから。ところで、命を助けていただいたお礼なのですが。」

「いや、さっき言ったように、要らないよ。」

「ありがとうございます。では、せめてこれをお受け取りください。」

 トマスはそう言って俺に小さな箱を渡してきた。

 なかなか凝った装飾がなされている。宝箱か、宝石箱のような見た目だ。

「こちらの品はですね……」

 そう言いかけるトマスの背中に、冒険者の声が掛かる。

「おーい!置いてっちまうぞー!」

 見ると荷車はもうガラガラと大きな音を立てて動き出している。


「ではっ僕はこれで失礼します。本当にありがとうございました。縁があったらまた会いましょう! あ、ま、待ってくださーーいっ!」

 トマスはここに置いていった大きなバックパックを軽々と背負い、冒険者たちの後を追った。

 木立が走っていくトマスの姿を隠して、少ししてから。

「ツムギーー!元気でなーっ!」

 その声はしばらくの間、木霊(こだま)した。


 辺りがしんっと静まり返る。

 ツムギはトマスが走り去った方をまっすぐに見つめ、ぐすっと鼻をすする。涙をこらえているのだろう。

「泣くなツムギ。別れは辛いが、生きてればまた会うこともあるさ。」

「そうそう、縁があればね。」

「いえ、ずっと鼻が悪くて……。風邪気味なのかもしれません。」


 ……ギャグマンガならズッコケている所だ。


「ちゃんとお別れをしたかったという後悔はありますけど……。こちらも出発しましょう。」

 そう言ってツムギは俺とメグミを見上げる。

「改めまして、カヒト様、メグミ様。今後ともよろしくお願いいたします。」

「こちらこそよろしくね。ツムギちゃん。でも、私の事は呼び捨てでいいんだよ。」

「さすがに呼び捨てにはできません。では、メグミさんとお呼びいたします。」


「俺の事も呼び捨てでいいよ。あと、挨拶する相手はもう一人……というか、居るんだ。」

「スラ子様……ですか。どちらにいらっしゃるのでしょうか。カヒトさん。」


 俺の呼び方もさん付けになったようだ。特に問題はない。

 そして流石にスラ子の存在は気づいたらしい。あれだけ露骨(ろこつ)だったのだから当然か。


「初めまして、ツムギさん。私はスライムのスラ子です。どうぞよろしくお願いします。」

 俺の肩にポヨンッとこぶし大の、透明なマスコットスラ子が出てきて、そう言った。

『眼』に見える黒い球が一つだけその中央に浮かび、ぱちぱちと(まばた)きしている。

 ツムギの一つ目に対抗しているみたいだ。


 心配だったのは石スライム、鉱石スライムの復讐(ふくしゅう)の件だ。

「一つ目の巨人」と見なされてもおかしくないツムギと出会ったことで復讐を思い出すかもしれないと思っていた。


「え……スライム……。あ。ご、ご挨拶が遅れました。スラ子さん、よろしくお願いいたします。」

 ペコリと頭を下げるツムギ。

 当然、復讐の話はツムギの方には心当たりは無い。どうやら普通のファーストコンタクトで済んだみたいだ。


「スラ子は本当に凄いんだ。熊を吊り上げたり、内臓を取り出してくれていたのがスラ子だ。」

 俺はそう言いながらツムギの手を取り、スラ子をその手の上に乗せた。

 こんな事をしなくてもスラ子は上手くやってくれるだろうけど、普通に考えればモンスターであるスライムは警戒されてもおかしくはない。ツムギには少しでも早くスラ子と馴染んでほしい。


 スラ子とツムギが少し話をしている間、俺とメグミは出発の準備をする。

 メグミが放り出していたバックパックはすでにスラ子がすぐそばまで運んでいた。

 俺はバックパック(に変形したスラ子)を取り、熊の内臓を入れる。

 もともと入っていたのはスライム団子と火打石、お金、魔法薬、塩胡椒、そしてテントと寝袋だ。


 テントなんかは別にその形になっていてもらう必要はない。バックパックから出て、索敵担当に混ざってもらおう。

 熊の内臓はそうして空いたスペースにを詰め込む。

 流石に全部は背負えそうもない。スラ子がアシストしてくれるとは言え、さすがに厳しい。

 半分は俺。メグミとツムギに4分の1ずつ持ってもらおう。

 ツムギのバックパックは無い。のでスラ子にもう一つ変形してもらう。


「ツムギ。これを背負えるか?」

 そういって差し出した荷物だが、でかい。

 前の世界の、本格的な登山家の荷物くらいだ。

 ツムギの小学生程度、よくて中学生に見える体格からしたらとてもじゃないが背負えるとは思えないが、スラ子が7割は負担してくれるのなら大丈夫だろう。

「はい、かしこまりました。このバックパックも、明らかに今出現しましたよね。」

「スラ子にかかれば、造作もないことだ。」


 ツムギはバックパックを背負う。持っていたこん棒をバックパックの側面に(かか)げると、そのあたりからしゅるりと触手が出てきてこん棒に巻き付き、固定した。

 ツムギはその様子を見ながら小さくスラ子に礼を言っている。

 うんうん。ちゃんとやっていけそうだ。

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