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スライムナイフは超振動する

 熊は放浪商人トマスに譲ったが、練習として解体をしている俺たち。

 血抜きをして、腹を裂いた所だ。


 腹の切れ目から肉と皮の間にナイフを入れ剥いでいく。

 皮下脂肪は少なめに見える。

 あまり皮に脂肪が残るとよくないそうだが、こちらは3人とも初心者なのだ。多少は大目に見てもらおう。

 ツムギはだんだん要領(ようりょう)をつかんできたようで、ザクザクと切り進めている。

 脇腹の辺りにきたとき、ツムギが言った。

「ここは少し固いです……。」

「無理するなよ。」

「はい。……えいっ。」

 ツムギがグッと力を込めた時、ボキッと鈍い音がした。

 ツムギが申し訳なさそうにこちらを見る。その手にはナイフの柄しかなかった。

「カヒトさま、申し訳ありません。ナイフを折ってしまいました。」

「あー。まあしょうがない。ケガはないか?」

「はい。ですが、仲間にしていただいて、すぐにこんな失敗をしてしまうなんて……。」

「気にするなって。頑張ってくれた証拠だ。」

「ツムギちゃん大丈夫だよ。まだ私のナイフもあるし。」

「そうだな。メグミ、そのナイフで左側を剥いでいってくれ。ツムギはメグミのサポートを頼む。」

「はい。かしこまりました。」

「俺は右側を剥いでいく。」

 俺の手にはいつのまにかナイフが握られている。新品のナイフだ。


「ええ……?そのナイフ。さっきまでは無かったですよね?」

 ツムギが言った。さすがに見てなかったフリはできないようだ。

「魔法だ。……今のところは。」

「はあ。」

 じとりと俺を見るツムギ。

「ツムギちゃん。ここを引っ張って。」

 とメグミが言う。まあ、後でちゃんと説明する。


 俺の手にあるのは確かに無かったナイフだ。「つい先ほど完成した」と、スラ子が言っている。

 鉱石スライムから鉄だけを集合させ、ナイフの形にしたのだ。手触りからして、しっかりとした固さがわかる。以前のはったりナイフとは違う。

 スラ子にサポートしてもらいながら、俺は熊の右側の皮と肉の間にスライムナイフを差し込んでいった。

 ぐぐぐ……。うーん……切れ味、あんまり良くないな。

 ナイフにはしっかりと刃がついている。見た目は何の問題もない。しかし、普通刃物って鉄ではなく(はがね)で作るんじゃないか?それに、焼き入れとかも必要だと思うが。


 ないものねだりしても仕方ない。今はこれで何とかしよう。とナイフを持った手に力を込めると、ぐにっとナイフは曲がってしまった。

 まずいっと思い、力を抜くと、曲がったナイフがゆっくりと元に戻った。

 うーん。どうしよう。

 ……そうだ。いつだったかマンガで見た、あれを試そう。


 俺はスラ子に(ささや)く。

「スラ子、スライムナイフを細かく振動させることはできないか?」

「ナイフを振動させるのですか。」

「ああ、なるべく細かく、早く振動させてみてくれ。」

「はい。」

 スライムナイフがぶるぶるをうごめき始めた。持っている手がくすぐったいほどだ。

 耳をふさぎたくなるような高音が聞こえたと思ったら、すぐに消えた。

「カヒト!今の何?!」

 メグミが驚いて言った。

「あ、すまん。えーと、後で説明する。」

 そしてツムギのジト目。うん、すまない。後で説明するから。


 手にしたナイフが少しぼやけている。注文通りに高速で振動しているようだ。

 そのナイフを熊の皮と肉の間に差し込んでみると……するりとナイフが入っていく。

 抵抗が全くない。と言ったら言い過ぎだがほとんど力が要らないくらいだ。

「スラ子、いいぞ。これが『(ちょう)振動(しんどう)ナイフ』だ。」

「相変わらず素晴らしいです、マスター。」

「メグミのナイフにも同じことができるか?」

「いえ、これはスライムナイフだからできる事です。」


 超振動ナイフでスイスイと皮を剥ぐ。

 上半身は終わり、スラ子に頼んで熊の体を下ろしてもらい、下半身も皮を剥いでいく。

 熊の右側はほとんど終わってしまった。

「カヒトすごいね。こっちはもうちょっとかかるよ。」

「わかった。俺は熊の首を切り落としてしまおう。」


 首の骨を外そうと、関節目がけてナイフを差し込んだ時、極端にナイフが重くなった。刺さったまま全く動かない。

「マスター、すみません。少し休憩させてください。」

「あ、疲れちゃったのか。ごめん。」

「スライムナイフは鉄スライムですので簡単に交代できません。超振動はあまり長時間続けられないようです。」

 元々のスラ子は水を主成分とするため、自在に素早く変形できる。そのおかげで、一部の細胞が疲れても、元気な細胞と交代して動作を続けられる。

 しかし鉄の部分は動きが鈍く、しかもしっかりと結合しているので交代は難しいのだそうだ。

「どのくらい休憩が必要だろうか。」

「1時間ほどでしょうか。すみません。」

 1時間か。困ったな。もうメグミの方も、熊の左側の皮を剥ぎ終わりそうだ。

「マスター、こちらをお使いください。」

 スラ子が俺に新しいナイフを渡してきた。今度のナイフはシンプルだ。ほとんど薄い鉄の板にしか見えない。急いで作ったのだろう。

「超振動します。」

「ありがとう、スラ子。超振動は刃の部分だけで大丈夫だからな。」


 熊の首に刺さったままのナイフはスラ子が強引に引き抜いた。そこへ新しいナイフを差し込む。

 いきなり首の関節を外すのは難しいな。

 まずは首の皮をぐるりと切り、筋肉や腱を剥いで骨をむき出しにする。


 超振動ナイフといっても固いものが切れるようになるわけではない。鉄より硬いものはどうやっても鉄のナイフでは切れない。

 超振動ナイフは、刃が高速で振動することでその刃の側面(そくめん)に張り付く肉を引きはがすのだ。張り付く物がなければ必要な力は最小限になる。

 つまり、もともとナイフで骨は切れないし、それは超振動していても同じだ。

 だから関節を外す。


 そう思ったのだが、ナイフが通るような関節の隙間は無かった。

 首の関節というのは、単にだるま落としが重なったような作りではない。複雑に組み合わされているのだ。

「うーん。しょうがない。三人で熊の頭をもって、ねじり切ってしまおう。」

 メグミとツムギもすでに左側の皮を剥ぎ終わっている。


 赤剥けになった熊は仰向けの状態で地面に寝かされている。

 三人で熊の(あご)をぐいぐいと押していくと……。ポロっと頭が取れた。

 熊の頭蓋骨から上だけがうまく取れた。

 ゴロンと転がった頭は、それだけで大の大人が抱えるくらいの大きさだ。

 改めて、とんでもない怪物だ。


 次に、スラ子が熊の内臓をごっそりと抱え込み、まとめて取り出した。

 空気に触れないから匂うこともない。


 腸は食べられるだろう。もつ鍋は俺の好物だ。レバーや心臓も、好みはあるだろうが食べられるはずだ。

 その他の内臓はよくわからないが全部スラ子に持っていてもらう。袋になったスラ子に入れておき、バックパックに詰める。

 ただし、変な色の体液は吸収分解してもらおう。


 その様子を見ていたツムギは言った。

「……これは魔法ではありません。」

「うん、えー。……話すと長いんだが。」

「そうですか。では、後にしましょう。急がないと、冒険者たちがきてしまいますよ。」

 確かにそうだな。


 ツムギはちゃんと空気が読めるし、融通も利くようだ。

 俺はメグミと目配せし、良い仲間が増えたことを喜んだ。


 さあ、後は肉を各部位にバラすだけだ。

 肩や股関節などを首の時と同じ要領で外して分けていく。

 肉は所々、煮えたように白くなっている。スラ子の電撃を浴びた為だ。

 動物が感電した場合、普通は心臓が止まり、死亡すると思う。

 この熊はそれだけで飽き足らず、高温で筋肉のタンパク質が凝固してしまっている。


 途中、2本目のスライムナイフが疲れてしまい、3本目に交代した。


 そろそろ終わりという所でスラ子が言った。

「商人が戻ってきました。荷車も無事手配できたようです。」


挿絵(By みてみん)

「超振動ナイフ」のスキルを獲得しました!

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