スライムは炎を吹く
俺はメグミの隣に並んだ。
「あいつの狙いを何とかしてこっちに向けるんだ!」
「うん!あたしに任せて!」
メグミがそう言う。
その瞬間、スラ子が震えた。
俺を覆っているスラ子、服になっているスラ子が大きく波打つ。
まるでメグミの方から吹き付ける強風に煽られているみたいだ。
なんだ?!
メグミは剣を両手に構え、とてつもない気迫で熊を睨みつける。
その視線で敵を射殺そうとしているかのようだ。
内側からの大きな力に押し上げられ、メグミの髪がふわりと膨らむ。
その髪が、バッと大きく広がった瞬間、スラ子がひときわ大きく震え、俺は引きずられるように、しりもちをついた。
まさにその時、二人組の小柄な方をたたき伏せようと腕を振り上げていた熊は、メグミの気迫に気づき、びくりとこちらに向き直った。
大きく吠える熊!
「グオオオオオオオッッッ!!!!」
熊は、傍らの二人組の存在を、まるで忘れてしまったかのようにメグミだけに集中する。
メグミも、熊以外の何も見えていないかのようだ。
一人と一頭の間に張り詰めた空気。ぴりぴりと肌を刺すような緊張感の中、俺は行動を起こした。
ブンッ!
手のひらに乗ったボールを熊めがけて投げつける。
熊は俺に全く注意を払っていない。投げつけたボールは熊の胸元に当たり、バシャッと中の液体をぶちまけた。
熊はやっと俺に気が付いたようだ。メグミに向けていた敵意を丸ごと俺に叩きつけてくる。
横槍を入れられた事に、かなりいら立っているな。だが、こちらも命を懸けて生きているのだ。その程度の威嚇に今更気圧されたりしない。
俺を睨みつけながらも、熊は鼻をしかめている。
野生動物にはきつい匂いだろう。俺なんてそのにおいだけで酔っぱらってしまう。
そう、ボールの中身は火酒だ。スラ子に火酒を包んでもらい、それを俺が投げつけた。
もちろん熊を酔わせるのが目的ではない。その狙いは。
「スラ子!次だ!」
「はい!」
俺は右手を熊に向かって突き出す。その腕に沿って長い触手がさらに長く突き出した。
ストローになった触手の先から、ビューっと火酒が噴き出す。熊はうざったそうに前足でそれを受け止めた。
避けなかったのがお前の運の尽きだ。
火酒を吹き出す触手の近くに、いつの間にか爪より小さな黒い棒が現れている。
棒の両端には銅線が巻かれており、そこへ電気を流せば……!
「点火!」
ぼおおおおぉぉ!!!
辺りを染める朝焼けよりもまばゆく、俺の右手が炎を吐いた。
メグミが小さく悲鳴を上げ、退いたのが見える。
熊の姿は見えない。炎で隠れている。
しかしその巨大な叫びは、俺の攻撃が抜群の効果を発揮したことを物語っていた。
触手から噴き出す火酒が尽きる。熊が燃えている。そして地面も。
落ち葉でいっぱいの森は乾燥し、山火事を起こすには絶好の環境だろう。
アルコールを吸った落ち葉はここぞとばかりに燃え出した。
しかし俺は慌てない。もちろん想定内だ。
「スラ子!水だ!」
今度は両手を突き出し、その両手に沿って生えた触手から大量の水を吹き出す。
火酒とは量が違う。あらかじめ川で汲んできてもらっていたのだ。
ババババッと、まるで無尽蔵であるかのように水は辺りを濡らす。
地面に落ちた水はスラ子が再度吸収している。それを俺のもとに送り届けているので、実際限りなく水を撒く事ができる。
落ち葉に引火した火は消え、山火事は避けられた。しかし、熊を燃やしていた炎もすっかり消えてしまっている。
黒焦げになった体毛をわなわなと震わせ、熊が俺に向かって歩き始めた。
その目が言っている。
「この人間だけは、絶対に許さない」と。
残念ながら、こっちの勝ちだ。
俺はズイッと右腕を真上に上げ、すぐ横に生えている木の梢を指さした。
熊は目をそらさない。
もう何があろうと、俺を叩き潰す事だけを考えているのだろう。
見なくてもいい。どちらにしろ、結果は変わらない。
いつの間にか、その木の梢には大きな透明なカタマリがある。
もちろん木の実などではない。スラ子だ。
俺が腕を振り下ろすと、それを合図にスラ子は音もなく熊の頭上に落ちてきた。
気配を感じ取ったのだろう。熊は顔を上げた。
その頭に、直径2メートルにはなろうかというスラ子の電撃ボールが触れた瞬間……。
「火炎放射」のスキルを獲得しました!




