スライム・パワーアシスト・スーツ
バクバクの街を出てブロートコーブへ向かう。
街道に出るという銀の背熊を警戒して、あえて森へ入る。
辺りは徐々に明るくなってきた。
メグミの方を向くと目が合う。そして目が合うとニッコリと笑ってくれる。やっぱりかわいいな。
森へ入って30分も経っていない頃だろうか。スラ子がいつもの調子で言った。
「マスター。前方に二人の人がいます。そして熊です。」
「銀の背熊か!?」
「分かりません。大きさは、ギルドで解体されていた熊よりわずかに小さいようですが。」
「二人組が襲われているのか?」
「そのようです。二人組に勝ち目があるようには見えません。」
「カヒト!行こう!」
メグミは、そう言うと返事も待たずに走り出した。素早くバックパックを下して身軽になっている。
「ま、待った!メグミ!一人で行くな!」
そう叫びながら俺も走り出す。
「スラ子!電撃ボール!いつでも撃てるようにしてくれ!あと、例の『アレ』も!」
「了解です!メグミさんの援護もお任せください!」
走る!全力で。
しかし、メグミが速い!もう見えなくなっている。
ちょっと人間の速度としておかしくないか?
俺もこの世界に来てから運動が多くはなってきたが、前の世界では普通のサラリーマンだったのだ。
全力疾走はきつい。と、思っていると俺の走る速さもなんだか異常に速くなってきた。
手足がとてつもなく軽く感じる。
「マスターの動きをアシストします。」
スラ子が言った。
なるほど。今のスラ子はパワーアシスト・スーツだ。ファンタジーかと思っていたらSFだったとは。
しかし走っている最中に手足の動きを増幅させられると転びそうだな。
そう思った途端、その通りに転んだ。
振った腕に引っ張られ体が変にねじれ、バランスを崩したまま足が宙を蹴って体が横倒しになる。
スピードに乗った俺はふわりを一瞬浮かび、目の前には地面が迫っていた。
すわっ、顔から着地か!と思うやいなや、俺の両手は勝手に前へ突き出され地面を受け止めた。
腕での着地は、顔からよりはましだろうが普通に考えて骨折ものだ。
しかし俺の両手は難なく着地の衝撃を受け止め、更にはそのまま腕でジャンプした。
またもや空中に浮かんだ俺は何とか体勢を立て直し、やっとのことで足から着地する。
スラ子は俺の動きを増幅するだけでなく、自動で動かすこともしてくれるようだ。以前にもあったが。
藪を抜けた先でメグミを見つけた。その向こうに二人の人影と大きな熊。
ギルドで解体されていた右手熊より小さい?とてもそうは思えない。
熊は二本足で立ちあがり、メグミに警戒しつつも目の前の二人に襲い掛かろうとしている。
黒い毛並み。
両前足の爪はまさにベアクローの名にふさわしく、太く、鋭い。
歯をむき出しにして、笑っているかのように見える顔は、人間を獲物としか見ていない。
その姿は今まで生きてきた中で飛びぬけて恐ろしく、とても人間のかなう相手とは思えなかった。
その恐怖が急ブレーキとなり、俺はその場に立ち止まった。
メグミまでは20メートル、熊までは30メートルほどだ。
逃げるか?
そうだ、スラ子のパワーアシストがある。十分逃げ切る事はできるはずだ。
メグミも、あの速さはスラ子のアシストのおかげだろう。
あれには勝てない。逃げよう!
そう思ってメグミの方を見た。
その横顔。
微塵も怯えてなどいない。誇り高く、闘志に満ちた表情。
俺はその横顔を見た。
ーーー逃げられない。
そう、逃げるわけにはいかない。
メグミに失望されるような真似は絶対にできない。そんなことをすれば、スラ子も俺を見捨てるだろう。それはすべての終わりを意味する。
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