カプフェル鉱山大盛況
あけましておめでとうございます
今年もスラ子をよろしくお願いいたします
その日も朝食を終えてカプフェル鉱山へ向かった。他に予定もない。
鉱山の入り口はひどく混雑していた。
数日前の閑散とした様子が嘘のようだ。
鉱石買取のテントが所狭しと並べられ、そのテントに採掘者であろう冒険者たちが群がっている。
俺たちはその人混みを遠巻きに眺め途方に暮れていた。
「……人がいっぱいだね……。」
「ああ……しかし、いったい何で……?」
「私たちが昨日鉱石をたくさん採掘したから?」
「そうなのかな……」
そんな俺たちの耳に冒険者たちの会話が聞こえてきた。
「とんでもねえ人混みだな。」
「ああ、トンネルアントの巣が見つかったとか言ってたか。そのおかげですげえ儲かるらしい。」
「おおっ!」
「グ・エルド鉱山に入ってた奴らが流れて来たって話もある。」
「あっちで何かあったのか?」
「知らねぇ。」
どうやら俺たちのせいでもないらしい。
「しかし参ったな。これじゃあ、あの縦穴へは入れないな。」
「うん。スラ子ちゃんのことバレちゃうよね。」
そこへ赤ら顔のドワーフがやってきた。
「おおっ!お前たちか!すまんが今日はゆっくり相手してる時間がなくてな」
「ああ、見ればわかる。忙しそうだな。」
「グ・エルド鉱山にサイクロプスが来たって話だ。それを嫌ってこっちに流れて来たらしい。」
「サイクロプス?」
「一つ目の巨人だよ。でも、そんなのおとぎ話じゃないの?」
と、メグミ。
「巨人?街中に現れたってことか?それならもっと大騒ぎになっていてもおかしくないが。」
俺が言った。
「おとぎ話ではなくちゃんと居る。最も巨人とは限らんがな。この街の古い住人はサイクロプスを嫌っとる。訳は聞くなよ。ワシも知らんからな!おっと、こうしちゃおれん。工房から追加の採掘道具を持ってくるんだった。じゃあな!」
赤ら顔のドワーフはそう言うとさっさと行ってしまった。
俺はメグミと顔を見合わせる。
「よくわかんないけど、今日はここでの採掘は無理そうだね。」
「そうだな……。ちょっとグ・エルド鉱山に行ってみないか?逆に向こうが空いてるならグ・エルドで採掘するのもいいかもしれない。」
「うん。そうしようか。」
グ・エルド鉱山はここからだと街の反対側だ。別に急ぐ事もない。ゆっくり歩いて向かった。
この街にはまっすぐな道というものがない。目的地にたどり着くためには全く反対方向へ行かなくちゃならないこともざらだ。
グ・エルド鉱山についた。が、最初、場所を間違えたのかと思った。人が全くいないのだ。
「あれ?スラ子。グ・エルドはここじゃなかったか?」
「マスター、ここがグ・エルド鉱山で間違いありません。」
「だよな……。」
「誰もいないね。」
まるで数日前のカプフェル鉱山だ。いや、数日前でもドワーフ三人組は居たのだから、それ以下だ。
「うーん。勝手に入っても問題ないだろうけど……。」
「ねえ、カヒト。あそこの食堂にはいらない?何か話を聞けるんじゃないかな。」
「そんなこと言って、もう腹が減っただけじゃないのか?」
「えへへ。まあ、いいじゃない!行こ!」
食堂の看板には読めない文字とお茶碗のようなものが書いてある。
「『金の盃亭』です。マスター。」
と、スラ子が教えてくれる。
「それは豪華だな。」
メグミがドアを開け中に入っていく。
バクバク亭に比べると狭い。小料理屋か場末のスナックみたいな感じだ。
客は誰もおらず、もしかして開店前だろうかと思った。
「えっと、二人なんですけど。」
メグミが言う。
「いらっしゃい。どうぞ座って。」
カウンターの向こうの恰幅のいいおばちゃんが人懐っこい笑顔でそういった。俺たちはカウンター席に座る。
「食事を二人分お願いします。」
「はいよ!ちょっと待っとくれ!」
おばちゃんは俺たちの前に水の入ったコップを置き手際よく料理を用意し始めた。
メグミによると食堂でお冷を出してくれるかどうかは半々くらいだそうだ。
メグミの経験ではお冷が出る食堂のほうが美味しいらしい。そういえばバクバク亭でもお冷が出たな。
すぐに料理が来た。シチューのようなとろみのあるスープとパン。それと漬物のような何かだ。
うん。シチューはシチューだ。と言っても前の世界のシチューほど手間はかかって無さそうだが、でかい肉が入っているのがうれしい。
漬物は酸っぱい葉野菜。ザワークラウトに近いだろうか。色が真っ青なのが気になるが、箸休めにいい。
「ねえ、女将さん。グ・エルド鉱山は賑わってるって聞いてたんだけど、誰もいないんだね。」
メグミがおばちゃん聞いている。こういうことはメグミに任せよう。
「そーなのよ~。こっちも商売あがったりでね~。」
おばちゃんは『まさにその話がしたかった!』とでも言うように話に乗ってきた。
「サイクロプスが来たから……とかってウワサで聞いたんですけど。」
「ええ、昨日来たって。でも、サイクロプスが来たからって何なのかしらね。」
「サイクロプスはこの街の古い住人から嫌われてるって……。」
「そうなの?……私は南の、ちょっと離れた街の出身でね。そこには何人かサイクロプスがいたわよ。別に悪いうわさも聞かなかったけどね。」
「え?怖い巨人じゃないんですか?サイクロプスって。」
「うーん。怖い人もいたわね。おっきい一つ目でね、睨まれると身がすくむって話だったわ。でも、それとは関係なく、グ・エルドはちょっと前からだんだん人が減っていってたのよ。」
「そうなんですか?」
「鉱石買取人のやり口がズルくてね。みーんな嫌気がさしてよそへ移ってたのよ。サイクロプスの件はあんまり関係ないんじゃないかしらね。」
「……えっと、鉱山に入っても構わないんですよね。」
俺が聞いてみた。
「構わないわよ~。誰のものって訳じゃないもの。まあ、入って鉱石が取れても買い取ってくれる工房とかまで持っていくのも手間だものね。だから人が来ないのよね~。困るわ~。」
「……」




