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熊の解体ともう少し色っぽい話

 滑車を使い、何とか熊が吊り上がった。

「ふう……これ以上は無理だな。」

「十分さ。助かったよ!」

「カヒト、すごいね!」

「いや、知ってたってだけだよ。」

「さてと、ここからはアタシの出番だね。アンタも見ていきな。」

 おばさんは俺の肩をたたきながら言った。


 おばさんは大きなナイフを持ち熊の解体を始めた。腹を裂き内臓を取り出す。すごい匂いだ。血と動物のフンの混ざった匂い。はっきり言って臭い。

 後から後から血が吹き出てくる。床はすでに血の海だ。

 いきなりのスプラッタ展開で、ある程度覚悟はしていたが気持ちが悪くなってきた。せめて匂いだけでも何とかなればいいが。

「スラ子、匂いだけ取り除けないかな?」

「匂いだけ……ですか。どうすればいいでしょうか。」

「スラ子が一度空気を取り込んで、匂い以外だけ俺の鼻に送ってくれないか?」

「……やってみます。」

 スラ子がそう言うと、俺は鼻が詰まったような感じになった。無理やり鼻をすするようにすると空気が入ってくる。


 おお、臭くない。既に匂いで鼻がバカになっているので、まったくの無臭かどうかはわからないが明らかに匂いが減った。

 メグミについているスラちゃんも同じようにしているようだ。メグミがこっちを見て驚いたような顔をしている。

 そうなるとおばさんだけ仲間外れのようで申し訳ない。

 と思っておばさんを見るといつの間にか洗濯バサミのようなもので鼻を摘んでいる。

 ……いつの間に。と言うか、そんなものがあるなら俺たちにも貸してくれと言いたい。

「は、ハンハはひ、ハハふまんへなはひほ。(アンタたち、鼻摘んでなさいよ)」

 おばさんが鼻声で言った。……いや、遅いよ。

「……もう臭すぎて、逆に臭くないからいいよ。」

「そ、そうだね。」

 俺の嘘にメグミが合わせてくれる。


 おばさんは俺たちに手伝わせ、床にデロンとこぼれた熊の内臓を巨大な桶に入れた。

 何もかも一緒くただ。心臓や熊の()なんかがあるのだろうが、フンまみれになっている。どうするんだろうか。

 そんな作業をしているとようやく血が噴き出すのも止まったようだ。普通、血抜きをしてから持ち込むものじゃないのか?あまり口出しばかりしたくないので言わないが。


 おばさんは作業しながら、どこを切るだとか、ここは引っ張ればとれるだとか教えてくれる。しかし単に内臓を取り出す事しか考えて無いようだ。見た感じ、内臓は要らない部分だと思っているみたいだ。


 次に皮を剥ぎ始める。

 俺とメグミで皮のふちを持ち、おばさんが肉と皮の間にナイフを入れていく。

 皮下脂肪がすごい。冬眠に向けて脂肪を蓄えていたのだろう。

 なるべく皮のほうに脂肪を残さないようにするのがコツだそうだ。


 おばさんはかなり手際がいい。熊の上半身の皮を剥ぎ、首を切り落とす。これにはナタだけでは歯が立たず、ノコギリで首の骨を切る必要があった。


 下半身の皮を剥ぐために吊り下げた熊をおろさなければいけない。

 熊の上半身にロープを掛け、作業台の上に載るようにおばさんとメグミが引っ張りながらウィンチを緩める。

 腰のあたりまでが作業台に乗り、下半身は吊り上げたままだ。その方が皮を剥ぎやすいそうだ。


 下半身の皮も剥ぐと最後にロープをほどき、完全に作業台の上にのせてから後ろ脚の皮を剥ぐ。全体が1枚につながったまますべての皮ははがれた。これはたたんで隅に置いておく。


 さて、作業台の上には丸裸になった首のない熊が残った。

 次は脂肪を切り取っていく。これは適当でいいらしい。なるべく脂肪だけを切り取り、きれいにした桶に入れていく。

 すごい量だ。熊が大きいだけに、脂肪だけで大人1人分くらいの重さになった。


 肉は関節を切り離し前足、後ろ足というように大まかなブロックに分けていく。一つ一つが重い。が、やっと何とか一人で持てる程度になった。ブロックはそのまま肉屋に卸されるそうだ。

 最後に、そこら中に飛び散った血や汚物を洗い流し、使った道具類の手入れをしたら完了だそうだ。


 やれやれ、疲れた。昨日の採掘よりよっぽど重労働だった。

「いや、すっかり手伝わせちゃったね。助かったよ。」

 おばさんが言った。

「こっちこそ、解体の勉強ができてよかった。」

「カヒト、お疲れ様。来てくれて、ありがと。」

「ああ、お疲れ様。解体は大変だな。」

「うん。でも、これで今度からは自分で狩ったモンスターを解体できるよね。」

「そうだな、この熊はさすがに厳しいが、狼くらいならできそうだ。」


「実際、ある程度は解体して持ち込んでもらえると有難いよ。内臓を出しておいて貰えるだけでずいぶん違うね。」

「なるほど。所であの内臓はどうするんだ?捨てるのか?」

「ああ、もちろん。捨てるにしてもいい加減にその辺に捨てれば臭いし、他のモンスターを寄せちまうしで、厄介だよ。」

 うーん。動物の内臓が食べられないという事は無いと思うがな。もちろん十分に火を通さないと寄生虫が怖いが。

 発想が無いだけなのか、あるいは本当に食べられないし活用法もないのか。


「さてと、クエストの報酬を渡さないとね。今日はずいぶん無理させちゃったから少し多めにね。はい、アンタも。」

 おばさんはメグミと俺に小さな袋を渡してきた。コインが入っているらしい。

「いや、俺はいいよ。クエストを受けてもいないし。」

「アンタが来てくれなかったら仕事ができなかったからね。それに、滑車の使い方も教えてくれたし。もう少し渡したいんだけどこっちも苦しくてね。これで勘弁しておくれ。」

 おばさんは俺の手を取って無理やり金の袋を乗せた。ありがたくいただこう。


 メグミが俺をにらんでいる。おばさんに手を取られたからか?別に何もやましいことはないと思うが。

「ついでに熊の肉をちょっと持ってくかい?」

「それは持ち込んだ冒険者のものじゃないのか?」

「いや、ギルドが丸ごと買い取った形だからね。それにちょっとなら構いやしないさ。」

 気持ちは嬉しいが、貰っても持て余すからと言って遠慮した。旅に出る直前なら受け取っただろうけど。


 おばさんに別れを言って俺とメグミは外へ出た。もう日が暮れている。くたびれるはずだ。

「さて、メグミ。食堂に行こうか。」

「うん。でも、私たち……臭くないかな?」

 確かに。手足は用意してもらったお湯で洗ったが、匂いがこびりついていそうだ。

 俺は、スラ子に言って匂いの除去を止めてもらった。

 予想に反して匂いはない。メグミも俺に鼻を近づけ匂いを嗅いでいるが大丈夫だそうだ。いい匂いとか言われても困るが。

「お二人の体についた汚れは即座に私が吸収しています。匂いも全部分解してしまいました。」

「そうなんだ。スラ子ちゃん、ありがとう。」

「ありがとう、スラ子。いつもながら頼りになるな。」

「マスターには及びません。」

「俺は別に頼りにならないと思うけど。」

「滑車とウィンチの扱いはお見事でした。私も今後活用してみようと思います。」

「そうだよね。カヒトも相変わらずすごいよ。さすが。」

「あ、ありがとう。」


 いつものバクバク亭で夕食をとり、宿へ戻った。

 帰り道、メグミは俺の腕に抱き身を寄せてくる。歩きにくい。とは、もちろん言わないが。やたらと甘えてくる。

 酒は飲んでないのに赤くなり、口数が少ない。どうにも色っぽい雰囲気だ。

 宿のカウンターではさすがに手を放してくれたがそのあとはすぐに腕を絡めてくる。

 困った。逃げられそうもない。いや、逃げる必要なんて無いのだが。


 部屋に入り扉を閉めるとメグミは俺の胸に飛び込んできた。メグミは俺の背中に腕を回しギュッと抱きしめてくる。

 情けないが俺はそのまま固まった。

 俺もメグミを抱きしめていいのだろうか。俺の腕は不自然な位置で止まったままだ。


「……今夜は……一緒に寝ようね……」

 メグミが言った。

 俺は返事をする代わりにメグミの体を強く抱きしめた。


挿絵(By みてみん)

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