秘密の部屋への秘密の階段
足早に通路を行くルイ。
通路には様々な展示品が並んでいた。
ドラゴンほどではないが、恐ろしげなモンスターの骨やはく製。どうやって作られているのか分からないような精緻なモンスターの模型もある。それぞれの展示品にはプレートがつけられ、その生息地域や生態、脅威度などの説明文が書かれているようだ。
スラ子は律義に、それらの文章を日本語に翻訳して『拡張現実』で表示してくれる。足早に通り抜けるだけなので、さすがに読んでいる余裕が無い。申し訳ないと思ったが、スラ子は特に負担もないので気にしないで欲しいと言ってくれた。
展示品はモンスターや動物についてだけではない。他にも美しい宝石や金でできたネックレスや腕輪、耳飾り等が並んでいるコーナーもあった。
この辺りは、日本の博物館でもおなじみのラインナップだ。歴史的、文化的価値のある装飾品なのだろう。
俺にもおなじみ。と思ったのだが、さすがは異世界。見たこともないような構造のものもある。
宝石が、宙に浮いていた。ネックレスの金の鎖に沿うようにふわふわと真っ赤なルビーのような石が浮かぶ。
俺は一瞬目を疑い、その場に立ち止まった。
上から糸で吊っている?いや違う。透明な台座があるわけでもない。そのルビーは鎖の上を、まるでレールに沿って走るようにゆっくりと動いている。
思わず手を伸ばすと、ルビーは俺の手から逃げるようにふっと軌道を変える。気まぐれな小鳥のようだ。
「カヒト、行くよ。」
遅れていた俺を待っていたメグミに声をかけられ、やっと我を取り戻した。小走りにみんなを追いかける。
「面白い所だ。」
「カヒトはこういうの、好きなんだ。」
「そうだな。モンスターの生態とかの事も知れるだろうし、興味深いよ。」
「ふーん。」
「アクセサリーもきれいだ。メグミもああいうの、欲しかったりする?」
「あはは。まあ、きれいだとは思うけどね。さすがに身に着けたいとは思わないよ。」
「そういうもんか。」
「アクセサリーに興味無いわけじゃないけど。」
それなら、後で、何か買ってプレゼントしようかな。いや、アクセサリーをプレゼントって、意味深じゃないか?どうだろうか。
博物館はかなり広く、様々なジャンルの歴史的、資料的に価値のある品を収蔵しているようだ。正直言って、じっくりと見て回りたい欲求に駆られる。でも、我慢だ、がまん。
ルイはいくつもの展示室を足早に通り抜ける。
その向かう先には目立たない、職員用らしい廊下だ。歩調を緩めず、その飾り気のない廊下を通り向こうのドアに入った。
そこは、今は展示していない品を保管している部屋なのだろう。バックヤードという場所だ。
ルイは歩調を変えず、その部屋もどんどん通り抜ける。建物のかなり深い場所まで入って来たはずだ。
一つの扉の前で、ルイがやっと止まった。案内人が進み出て、懐から鍵の束をとりだし開錠する。
ルイは、一度俺たちの方を振り返り、しかし何も言わずに扉を開けた。
軽くきしんだ音を立て、扉が開く。
暗い。
扉の向こうには窓がないらしく、こちらから差し込む光では、ほとんど真っ暗だ。
「階段だね。」
それでも問題なく見えているらしいツムギが言う。
「地下室ですか?」
「ううん。上への階段。」
ルイに聞いたつもりだった俺の問いに、ツムギが答える。
上か。
まあ、背の高い建物だし、2階以上があってもおかしくはない。だが、そのための階段がこんな分かりにくい場所にあるのは不思議だ。不便だろうに。
「この階段の先にはね、一つの部屋があるのよ。その部屋へは、このルートからしかいけないの。」
「秘密の部屋ですか。」
「秘密というほどではありません。ですが、限られた者しかこの部屋には入れません。」
案内人が言った。
「そこが目的地よ。」
と、言いながら暗闇に向けてルイが軽く指を振る。すると、光の塊がふわりと浮かび上がり、辺りを照らした。ゴンザレスがやっていたような光の魔法だ。あれよりもはるかに洗練されているらしい。
魔法の光に照らされ、階段が姿を現した。




