王立博物館へ
舗装された石畳の道を、馬車は滑らかに走っていく。
窓から見える街の風景はなかなか興味深いものだ。
大きなガラス張りのあの店は、カフェだろうか。通りまでテーブルが並び、モーニングをゆっくりと楽しむ老夫婦の姿がある。
その隣の店は花屋らしい。溢れるような生花が並び、人々の目を楽しませていた。
屋台もたくさん出ているようだ。あちこちからいいにおいが漂う。
豊かで平穏な街の風景が流れていく。
「平和ねえ……。」
目を細め、ルイが呟く。優しい声だ。
「まあ、数日後にどうなっているかは分からないけれど。」
「……。」
「そんなに厳しい状況なんですか。」
「うーん。多分ね。」
「それにしては、お二人に危機感は無さそうですけど。」
「そんなこと無いわよ。」
のんびりとした声でルイが言う。
「私はもう長く生きたからいいけど、町長には死んでもらいたくないと思っているわ。」
「僕だって、ルイのいなくなった世界なんて嫌だな。」
「あら、あなたったら。うふふ。」
うふふしてる場合か……。
「強い力とか、強大な魔力で解決できる問題ならいいのだけれど。」
「今回はそうではないと。」
「おそらくね。だから、あまり焦ったりしてもしょうがないわ。」
ルイは俺たちをビビらせたいのか安心させたいのか、どっちなんだ。まあ、両方か。
俺は仲間たちの顔を見渡す。
メグミは少し不安げだ。俺も不安だが、目を合わせるとメグミは少し微笑んでくれた。俺もつられて笑い、少し不安が和らぐ。
ツムギは……なんだろう。ほっぺたを膨らませて天井辺りを見あげて。ちょっとふてくされてる?
そのツムギの顔から上に目をやると、ユカリのニコニコ顔がある。ツムギを抱っこできてうれしそうだ。
……そうか、ツムギの表情。あれは無理やり抱っこされた猫の顔だな。しばらくの辛抱だぞ、ツムギ。
リホを見ると、こっちは優しい笑顔。リホはいつも、年齢に似つかわしくない落ち着きがある。
「きっと大丈夫ですわ。」
ルイの話は分かったはずなのに、それに動じる様子も見せない。むしろ俺やメグミの不安を和らげようとしてくれている。
町長じゃないが、彼女たちのいない世界なんて想像することも出来ない。
大切な仲間も、この街の平和な風景も、守られるべき大切なものだ。
でもそのために、俺に、いったい何が出来るのだろうか。
しばらくして、馬車が止まったのは大きな建物の前だった。
高い石柱がいくつも立ち並び、大理石か何かでできた屋根を支えている。
建物の前は庭園になっている。そこには前足を上げ、今にも駆け出しそうな馬の彫像。馬の背に乗った騎士は大きく口を開けて何かを叫んでいるようだ。
庭園は鉄の柵でぐるりと囲まれ、簡単には越えられそうにない。
馬車が止まったのは、これもまた鉄でできた門の前だった。
門は閉ざされ、鎖がかけられている。
門の左右にいるのは衛兵だろう。揃いの制服を身に着け、油断なく辺りに目を光らせていた。
「本日は、臨時閉館……?」
メグミが、門に掲げられた張り紙のようなものを見ながら言った。
「閉館?」
「えっとね。ここ、博物館みたい。」
へえ。この世界にも、そういう物があるのか。
そして、今日は閉まっていると。まあ、閉館なのは、一目瞭然だ。
「開門せよ。」
「はっ!」
町長とルイを迎えに来た案内人が命じると、衛兵は即座に応じた。
馬車は静かに門を通過する。
馬車が博物館の敷地に入ると、再び門は閉ざされ鎖が掛けられた。厳重な警備を敷いているらしい。
「では、行きましょうか。」
馬車を降り、ルイが先導して建物へと向かった。
「あのー。……ここは?」
「王立博物館よ。」
何か言わなければいけないような気がして聞くと、ルイが答えてくれた。
正面には高さ5メートルはあるような大扉。今はぴたりと閉じている。
その扉を開けるのかと思ったが、ルイはその前を横切り、扉の脇へと向かった。目立たないように、小さな通用口がある。案内人がカギを取り出して通用口を開き、俺たちを中へと招き入れた。




