出迎え
町長もルイも、いろいろと疑問があったと思う。
旅人に馬を貸した後、馬車をどうやってハーフェンまで到着させたのか。ハーフェンの街で馬車を牽いていたという馬は、どこから調達したのか。大体、譲った馬車は、今どこにあるのか。
特に最後の疑問は軽視できないはずだ。馬車の幌には、ブロートコーブの紋章が入っている。見る人が見れば、関係者であることは一目瞭然。
俺たちを信用して、そんな紋章を入れてくれたのに、もしも「失くしました」なんて事になったら大変だ。拾った者が悪用する可能性は、無視できるほど小さくはない。
だが、二人は馬車について何も聞いてはこなかった。
俺たちを信用してくれているのだろう。
あるいはどうでもいいのかもしれない。「畑も国も似たようなもの」と言えるヒトのことだし。
「あの……。ルイさん。」
食事の後、お茶を飲みながらしばらく続いた沈黙を破り、メグミがおずおずと口を開いた。
「何かしら。」
「先ほど、たくさんのヒトが亡くなっちゃう。みたいなことを仰ってましたけど……。」
「そうね。その事で、皆さんに来てもらったのだけれど。」
「どんなお話なんですか。」
「詳細は、明日現地に行ってからにしようかと思っていたのよ。……気になっちゃうかしら。」
メグミがこくこくとうなずく。気にならないわけがない、と言うように。
「……皆さんは、『写し鏡の悪魔』を知っているかしら?」
「ええ。魔法具ですよね。」
つい最近、と言うより今朝聞いた単語だ。さすがの俺でも覚えている。
「ブロートコーブの冒険者ギルドにも設置されているのだけれど、とても便利な魔法具だわ。必要な案件なら、割と気軽に使えるしね。」
気軽に使えるのはルイの立場があっての事だろうけど。と思いつつ、だが別に話の腰を折るつもりもないので、曖昧にうなずき続きを待つ。
「でも、数日前に私宛に届いた出頭要請には、『写し鏡の悪魔』は使われなかった。」
出頭要請?つまり、ルイも誰かに呼び出されたと言う事か。それはまあ、そうか。
「”緊急 重要”って、真っ赤なインクで大きく書かれた封筒に入っていたのだけれど、早馬で届けられたわ。」
詳しくは知らないが、魔法具ならばタイムラグなしで情報を伝達できるはず。そんな話を聞いた気がする。
急ぎの用なのであれば、尚更『写し鏡の悪魔』を使うべきだ。なのに、使われなかった。
俺には考え付かない理由があるのだ。
「うーん……。とにかく明日、一緒に行きましょう。そこへ。」
ルイはそう言って話を終わらせた。ほとんどメグミの質問に答えていない。
42日目
翌朝。
朝食後に宿屋を出ると、通りには馬車が停まっていた。
馬車の前には、身なりの良い男がピシッと姿勢を正し頭を下げている。
「ブロード様、ルイ様。お迎えにあがりました。」
「ご苦労様。」
町長が答える。
……ブロード?
「あ、ブロードって、僕の名前だよ。言ってかなったよね。」
大体みんな、彼の事は”町長”と呼んでいた。俺たちもそれに倣っていたし。
「まあ、今まで通り”町長”でいいよ。」
呼び方を気にするヒトじゃないよな。
「それに今回、僕はルイのおまけだしね。」
馬車は見事な意匠を凝らした美しいものだった。ボックスタイプとでも言うのか、しっかりした屋根が付いている。
大きさはまあ、軽自動車位だろう。別に小さいものでもない。
だが、町長とルイ、そして俺たち5人を乗せるのはさすがに厳しく、ツムギはユカリの膝の上に、リホはメグミの膝に乗った。
……俺の膝も空いてるよ?
「馬車で向かうという事は、目的地は結構遠いのですか?」
「ううん。すぐ近くよ。でも、歩いて行くには少し遠いかしら。飛んでいくわけにもいかないしね。」
町長を抱えたまま飛べるほどの魔法を使うルイ。が、ヒトの多い街中だからな。さすがに遠慮するらしい。




