見慣れぬ街での再会
改めて周りを見回してみると、俺は広くも狭くもない部屋のベッドに寝かされていたようだ。
おそらくどこかの宿屋だろう。同じ目的の施設は、やはりどこか共通した特徴があるように思う。
壁は天井と同じく柔らかな白だ。大きめの窓から差し込んでくる光が、優しい陰影の模様を作り出していた。
「今、何時頃かな……。」
誰にともなくつぶやいてみると、スラ子が反応してくれた。
「夕方ですね。そろそろ暗くなる頃かと。」
窓の外は人通りの多い道路なんだろう。にぎやかな喧騒が聞こえてくる。
道路の向こうには4階か、5階建て程度の建物が立ち並んでいるのが見える。建物の様式は砂漠のそれと全く異なる。しっかりと元の国に戻ってきたようだ。
部屋のドアがノックされた。
「やあ、よかった。目覚めましたね。」
俺の返事も待たず、ドアを開けて入ってきたのはメグミたちではない。
若い男が、にこやかに声をかけてきた。
ええと……誰だ。
「ブロートコーブの町長です。マスター。」
ああ、そうか。
「どうも……。」
意外な人物の登場に、俺は何と反応すべきか分からず、ぼんやりとした挨拶をする。
「私もいるわよ。」
と、町長の隣に顔を出した女性。
さすがに彼女が誰かは分かる。町長の奥さん。エルフのルイだ。
町長と、その奥さんがいると言う事は、ここはブロートコーブなのだろう。
そうか。ブロートコーブか。
別にグルカは教えてくれなかったし、こちらから聞いてもいないが、転移先はブロートコーブだったのか。
……?
いや、おかしいな。
グルカはこの国にきて、ブロートコーブを目指していた。正確に言えば、ブロートコーブに住むルイに会うことを目的としていたはずだ。
マドセンから直接ブロートコーブへ転移できるのであれば、お姫様が森の中で迷子になる必要なんて、何もないはずだが。
「あ、カヒト。目が覚めたね。」
パタパタと足音を響かせ、少し遅れてやってきたのはメグミだ。
その顔を見ると、俺はホッと安心できた。
「良かった。初めての場所で、ちょっと心細かったんだよね。」
緊張していたのはメグミも同じか。
……始めて?
「ここって、ブロートコーブじゃ……?」
「違うわよ。」
ルイが代わりに答える。
「うん。あのね、カヒト。ここはね。」
「外に出てみた方が早いわよ。」
女性二人がそんなやり取りをして、俺は部屋の外へと連れ出された。
マドセンに到着した時と同じパターンだ。
部屋を出て廊下を歩き、玄関扉の前へ。
外への扉を大きく開くと、冷たい風が吹き込んできた。
目の前には、見慣れぬ街が広がっていた。
夕日に赤く染まる街。
窓から眺めたのと少し印象が違う気がする。恐らくそれは、ここをブロートコーブだと思い込んでいたからだろう。
少し背の高い、アパートのような建物が、まるでコピーペーストを繰り返したかのようにずらりと通りの左右に並んでいる。人口密度が高そうだ。
と言っても、無機質な雰囲気はない。
窓の外を飾る鉢植えや、はためく洗濯物がとてもカラフルに街を彩っている。建物に住むヒトたちの活気が窓から溢れているみたいだ。
確かにこの街並みはブロートコーブではない。ではどこかと聞かれても、心当たりはないが。




