表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
311/320

スライムは望遠鏡になれる

 スラ子の新しいスキル『望遠鏡』で街を見下ろした。

 適当な街角に視点を合わせ意識を集中する。

 わずかに視界が揺れたかと思うと、街の風景がどんどん間近に迫ってきた。

 建物が拡大し、通りが拡大し、そこに行きかう人々が拡大した。一人ひとりの表情まで確認できるほどだ。

 スラ子は『レンズの組み合わせ』と言っていたので、俺の目の前にはそのレンズがあるのだろうが、とてもそうとは思えない。

 重さも感じず、視界のゆがみや色味のずれなんかもない。素晴らしいスキルだ。



 街の人々を見ると、みんな明るい表情だ。笑いあい、喜び合っている。

 何かいいことがあったのだろう。

 誰かが何かを指さして、称えるように両手を広げる。周りのヒトもそれに呼応する。

 何かあるのか?と、指し示された方を見ると、通りの一角に背の高いオブジェがあるのが分かった。

 像だ。

 ヒトを象った石造りの石像。

 石像の顔に視線を向けると、そこには毎日見ている顔がある。

 像は台座の上に立っており、台座には文字を刻んだプレートがはめ込まれているのが見えた。

「……スラ子。」

「はい。」

「あのプレートに、何が書いてあるのか分かるか。」

「はい、マスター。『勇者(ゆうしゃ)ユカリの像』、そう書いてあります。」

 そうか。

 ……よくできてるなー。

 すらりとした細身のプロポーション。凛々(りり)しい表情。(ひたい)の小さな角まで丁寧に再現されている。

 パレードで披露した鎧を着た姿で、立派な槍を持っている。『光の槍』だ。

 あの時に、どうやってか姿を記録して像を作ったわけだ。

 ……仕事が早すぎないか?

 もしかしたら、像を作るための魔法具があるのかもしれないな。そうでもなければ説明がつかない。

 とにかく、あれをユカリに見せる訳にはいかないな。それどころか、ユカリはもう街を歩けないだろう。注目の的になってしまう。

 …………。

 それが今朝の事。

 急いでマドセンを離れる事になったのは、かえって好都合かもしれない。



 浮遊城のどこかの部屋へと導かれ、俺たちは転移魔法陣を踏んだ。

「そう言えば、これをお返ししなくてはいけませんね。」

 グルカが差し出してきたのは、銀色の短い杖。

 かつて森の中でグルカとニケと出会い、そのままマドセンへと転移を試みたのだった。しかし、一度は魔法の発動に失敗した。

 このロッドを貸し、使ってもらった結果、転移が成功したのだった。

「しかし、杖なしで転移はうまくいきますか?」

 と、俺は不躾(ぶしつけ)な事を聞いてしまう。

「あの時は魔法具の転移魔法陣でしたので、ロッドの助けを借りて成功させましたが、この魔法陣には魔石が使われています。私でも転移は問題ありません。」

 グルカは、特に怒った様子もなくそう答えてくれた。

 魔法の杖を俺が持っていてもしょうがないし、何ならグルカにあげてしまっても良かったかもしれないが……。そうもいかないようなので、素直に受け取った。



「では。」

 手を組み、半眼(はんがん)の視線をはるか遠くに向け、グルカは魔法陣にマナを送り込んだようだ。俺には何も分からないが。

 ぬるいお湯に包まれたような浮遊(ふゆう)感が体を支配する。

 何か、巨大で(あらが)いがたい力が俺を(わし)づかみにした。

 ああ。また……。

 目の前が暗くなる。世界から音が消える……。



 ……。

 ……………。

 ……………………。

 目を開けた時、初めて俺は今まで目を瞑っていた事に気が付いた。

 どれくらい時間が経ったのだろう。

 見あげる天井は、乳白色で美しい。おそらく、漆喰(しっくい)か何かが()られているのだろう。

 すぐそばに人の気配を感じ、首を回してそちらを見た。

「あ、おはようございます、カヒトさん。良かった。目が覚めましたわね。」

 リホが枕元で椅子に腰かけている。ホッとした表情を見せてくれた。

「……やっぱり、転移は苦手だ。」

 低くつぶやいて、体を起こした。

 我ながら陰気(いんき)な口調だが、そのわりに体の調子は悪くない。

 俺は転移されると、必ずと言っていいほど気を失ってしまうようだ。

 だが、別に後遺症が出るほどじゃないらしい。それだけは救いだ。

「みんなで心配していたの。今、呼んできますね。」

 リホはそういって部屋を出て行った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

↓↓↓クリックしていただくと外部のランキングサイトにて投票されます↓↓↓
ただし、外部サイトへジャンプしてしまうのでご注意ください

小説家になろう 勝手にランキング
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ