スライムは人の精神に影響を及ぼす?
俺はカプフェル鉱山を離れる。ちょっと街を歩くか。
「マスター。あの冒険者達、縦穴に入ろうとしたら妨害しましょうか。」
「ええ?い、いや、そんな事しなくていいんじゃないか?別に俺たちは縦穴を見つけたってだけで、所有権があるわけでもないし。それにスラ子に危ない目にあってほしくない。」
「そうですか。出過ぎた真似をしてしまい申し訳ございません。」
「謝らなくていいって。気持ちはありがたい。……それより、今朝はその……済まなかった。」
「今朝ですか。何かありましたでしょうか。」
「えーと……その……メグミと……くっついていただろ。スラ子が嫌な思いをしてなかったらいいんだけど。」
俺の中ではスラ子は女の子だ。これまでの話からしてスライムに性別は無いようなので、実際には無性なんだろうが。
スラ子が女の子で俺に好意持ってくれているとすれば、他の女性であるメグミと仲良くしているのは面白くないだろう。しかも目の前で堂々といちゃついているのは面白くないはずだ。
「嫌な思いなどしておりません。むしろ、マスターとメグミさんが仲良くされているのは私にとって大変喜ばしいことです。」
「そ、そうなのか。」
「はい。私はマスターを心から敬愛しております。が、やはり同族ではありませんので、私のご奉仕も限界があると思います。最も、スライムだからこそできるがご奉仕があると自負しておいますが。」
「……ありがとう。」
「メグミさんはすてきな女性です。マスターにふさわしいお相手かと。それに、メグミさんについているスラちゃんを彼女の全身を覆う程のサイズにしてからというものの、何といいますか、私はメグミさんと一体であるかのように感じています。……先ほどの口づけは、私自身がマスターとしたかのように感じ、幸せで心が震えました。」
「一体であるかのように?……えっと、メグミの身体を乗っ取ってるとか、そういう事じゃないよな?」
「はい。メグミさんに一切危害は加えておりません。ただ、メグミさんに精神的な影響を与えているのではないかと。」
「え?どういう事だ?」
「私の、マスターへの愛がメグミさんに伝わっているかもしれません。確証は無いのですが。」
つまり、メグミが急速に俺に距離を詰めてきたのはスラ子の影響かもしれないという事らしい。
なるほど。俺はそれを不自然に感じていたが、スラ子としても少しおかしいと思ったようだ。それが自分のせいではないかと。
そしてメグミの感情をスラ子は我が事のように感じるようだ。まさに一心同体。
「……スラ子。確証はないんだよな。」
「はい。そういった例を聞いたこともありません。正直、ただの思いつきでしかないのですが。」
「分かった。……あー、でも、メグミにもやんわりと伝えておいた方がいいな。」
「はい。私からお伝えします。」
「あ、ああ。メグミの仕事の邪魔にならないようにな。」
スラ子が接触した人に精神的影響を与えるとすると、俺にも何らかの形で影響が出ているのだろうか。まあ、それは自覚できるようなものではないだろうからな。
あ、そうだ。先ほどのドワーフ達に相談したいことがあったのだ。
今から戻るのも面倒なのでせめて金属精製の工房に行くことにした。
行ってみると無口な男が居た。
数分前はカプフェル鉱山にいたのに、追い抜かれたのか。足が速い。
向こうも、さっきの今なので妙な顔をしている。
「あんたに聞いて意味があるかわからないが……厚みが薄くて、軽い鍋は無いのかな。」
我ながらちょっとしつこいが、諦めきれない。
鉄は前の世界と同じなんだから、鍋も前の世界と似たものが作れそうなものだ。いや、前の世界でも鉄鍋はそれなりに重さがあるか。
「鍋?うちでも作ってるが……」
「ここで、鉄製品を作るのか?」
「鍋は鋳物だからな。刃物なんかは鍛冶師の領分だが。」
「鋳物か……」
確かに昨日店で見た鍋も鋳物だった。ダッチオーブンのような鍋だ。
鋳物は砂で作った型に溶けた金属を流し込み形を作る事だ。
比較的、大量生産に向いているがあまり細かい造形は出来ない。必然的に一定以上の厚みになる。
「鍛冶師に鍋を作ってもらえないかな?」
「……よほど親しいならともかく、大した面識もない奴にそんな事を言われたらケンカ売ってるとしか思えんだろう。」
冒険者の命を守る装備品を作ってる鍛冶師に鍋を打てというのはプライドを傷つけるという事らしい。言われてみれば確かにそうだ。
そして時間をかけて鍋を作ったところで値段が安いので労力に見合わないそうだ。
どうやら本格的にあきらめるしかなさそうだ。
俺は無口なドワーフに礼を言ってその場を後にした。
ちょっと本屋に寄るか。
スラ子が文字を読めるようになったのでもっと勉強したいと言う。
全く頭が下がる思いだ。俺もこっちの言葉や文字を勉強しなくてはいけないのだが……
本屋ではスラ子に選ばせて何冊か買った。
別に内容に興味があるわけではない。何でもいいのだ。
ジャンルがバラバラで、店主が怪訝な顔をしていた。ついでにカウンターそばにあったメモ帳を買う。ありがたいことに筆記具がセットだ。
腰を下ろせる場所を考え、結局冒険者ギルドに入る。ここならだれでも使える椅子とテーブルがある。
買ってきた本をテーブルに置く。が、これは人目を気にしなくていいような本なんだろうか。スラ子に聞く限り、問題なさそうだ。
一冊を開いてみると文字がびっしりだ。見ても手書きなのか印刷なのか分からない。そんなに高価だった訳ではないので手書きという事は無いだろう。紙も上等とは言えない。
スラ子の指示を受け、俺はページをどんどんめくっていく。
もし俺が文字が分かってもこんな速さでは読めない。しかしスラ子は問題なく読めているそうだ。
大した時間を掛けずに買ってきた4冊を読み終えてしまった。
「スラ子は、これで内容が全部わかったのか?」
「いえ、さすがに全部は無理です。しかしすべて覚えましたのでこれから時間のある時に理解を進めて行けばいいだけです。」
「え?覚えたのか……全部?」
「はい、マスター。」
「そ、そうか。すごいな……そうするとこの本は……」
「……もう必要ないですね……すみません。買わなくても良かったですね。」
スラ子が俺の顔を左に向けた。首の所だけを操ったのだ。
隅の方に本棚がある。今初めて気が付いた。
「マスター。本棚の上に『閲覧自由・持ち出し禁止』と書いてあります。」
つまり内容を問わなければある程度の本は無料で読めるのだ。最初からここに来れば良かった。
「マスター、申し訳ございません。」
「気にすることは無い。スラ子の為を思えば大した出費じゃない。」
俺は買ってきた本は閲覧自由の本棚に入れた。誰かが読むだろう。
今はほかの本は読まない。やることがある。
「精神干渉」のスキルを取得?!




