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芋虫……の事は置いといて

 41日目



 浮遊城(ふゆうじょう)の客室で目を覚ますのも2度目。少しは慣れて来たように思う。

 みんなも落ち着いて……と言うより、ちょっと退屈しているようだ。



「そういえば、あの子はどこに行ったのでしょう。」

 朝食の時にリホが言った。

「あの子って?」

「ツムギさん。ほら、下の街の宿で目を覚ました時の、あの子。」

「……ああ。あの子ね。」

 何の話だろう。二人では通じ合っているようだけど。

「マスター。スラ耕栽培(さいばい)の野菜についていた芋虫がいたのを覚えておられますか。」

「芋虫?……ええと、ユカリが気に入ってたやつか。」

「マスターとメグミさん、ユカリさんが舞踏(ぶとう)会へ出かけた後、あの芋虫が現れたのです。そして、ゴーレム出現と火事の事を知らせてくれました。」

「へえ……え?連れてきていたのか?」

 てっきり、馬車の(ほろ)の上の畑に置いてきたのかと思っていた。

「いえ。こちらへ転移したときは、確かにいませんでした。」

「あの時もスラ子さん、そう言ってたね。」

「それなら、別の芋虫なんじゃない?」

「いいえ、メグミさん。それはあり得ません。」

 虫とは言え、スラ子が個体識別(しきべつ)を誤るとは思えないものな。

「いずれにしても、そいつが居なくなったと。」

「はい。マスター。」

 いつの間にか現れて、いつの間にか消えた芋虫。

 別に、下街の宿に置き去りにしたわけでは無いらしい。

 気になる話だ。

 しかし、気にはなるが出来ることは何も無い。

 少し心配ではあるが。



 特に予定があるわけでもないので、食後にまったりしていると、突然、扉が勢いよく開かれた。

宗主(そうしゅ)様からの連絡が入りました!」

 開いた扉の向こうに居たのは、グルカだ。随分(ずいぶん)興奮(こうふん)した様子。

「ええと……。おはようございます。」

 どう答えたものか分からず、あいさつでお茶を(にご)す。

「皆さん、おはようございます!ですが、それどころではありません!」

「あの、グルカさん。落ち着いて。」

「これが落ち着いていられますか!宗主様ですよ!」

 …………。

 全くわからん。興奮しすぎて何を言ってるのか。

 俺たちは困惑し、グルカの後ろに控えるニケに視線を向ける。

「ニケさん。何があったのですか?」

「うーん。私が出しゃばる話ではないのだが……。まあ仕方ない。」

 そう言って説明をしてくれた。

「宗主様というのは、この国を(つく)られた方だ。」

 それは知っている。

「エルフなのでとても長命で、今はブロートコーブという街で暮らしていると聞いている。『ルイ』と名乗っておられるそうだ。」

「ああ。やっぱり、ルイさんのことでしたか。」

 ルイさんとは、ブロートコーブの町長の奥さん。

 彼女が『宗主様』なのだろうとは察してはいたが、間違いないらしい。

「お前たちは宗主様と面識(めんしき)があるのだったな。それが理由なのかは分からないが……。」

「連絡が来たのですよ!」

 冷静になるどころか、ますます落ち着きのないグルカ。部屋の中をぐるぐると歩き回っている。

「連絡?」

「内容はこうだ。『そちらに”スライムさん”が居たら、こっちに来るように伝えてね。以上』」

「す、スライムですか。」

「お前たちのパーティーネームは確か、スライムがどうとかだっただろう。姫はそれを思い出されたのだ。」

 ああ、なんだ。パーティーネームの事か。

 てっきり、スラ子のことがばれていたのかと思ってビビってしまった。

「ルイさんが俺たちを呼んでいると。でも……連絡って、どうやって?」

「『写し鏡の悪魔』と呼ばれる魔法具がある。」

「ああ、知っています。」

 あれ?メグミは知っているのか。いや。そういえば、聞いたことがあるような。

「なんだっけ。」

「もう忘れたの?しょうがないなぁ。」

「いや、聞き覚えはあるんだけど。」

「ハーフェンの冒険者ギルドで聞いたでしょ。情報伝達の魔法具。」

 港町のハーフェンか。

 ええと。

「マスター。オークが村を襲撃(しゅうげき)しているというクエストで、その魔法具の話題が出ていました。」

 スラ子のフォローがありがたい。確かに聞いたことがある。

 冒険者ギルドは、離れた街の間でクエストの情報なんかを、その魔法具で交換しているという話だったな。確か。

「我が国は小国ゆえ、冒険者ギルドこそ無いが、城には一つ『写し鏡の悪魔』がある。」

「ルイさん……。ええと、宗主様は俺たちがマドセンにいることを知っているという事ですか?」

「いや、知らないだろう。今回のようなヒト探しの場合、目的の人物が何処(どこ)にいても問題ない所が『写し鏡の悪魔』の優れた点だからな。」

 どういう意味なのかよくわからない。

 詳しく聞くと、『写し鏡の悪魔』はたくさんあり、各地のギルドや主要な施設(しせつ)に設置されているとのこと。

 そのうちの一つに情報を映せば、他のすべての鏡にその情報が伝えられるようだ。

 ルイさんとしては、俺たちがどこかの街の冒険者ギルドに顔を出してさえいれば、伝言を伝えられると言う事になる。

 優れている……かなぁ。

 それを電子メールに例えれば、あらゆるすべてのメールアドレスに一斉送信するようなものだ。一斉送信しかできない、とも言える。

「便利と言えば便利だけど……同時に不便でもありますね。秘密のやり取りとか出来ないし。」

「秘密のやり取りが出来ないからこそ、この魔法具は普及した面もあるそうだ。」

 そういうものか。

「マドセンが開発した魔法具なのですか?」

「『写し鏡の悪魔』か?いや、我が国で作られたものではない。」

「マドセンは100年と少しの歴史がありますけど、鏡の魔法具はもっと以前から用いられていたそうですよ。一説によれば、最古の魔法具だとか。それよりも、宗主様が皆さんの到着を待っておられるのです。どうか、宗主様のお力になってください。さあ!出発の準備を!」

 グルカに追い立てられる。

 呼ばれたからと言って、はいそうですかと行かなくてもいい気がするのだが……。こっちの都合(つごう)もあるのに。

 だが、ルイからの招集(しょうしゅう)を受けて行かない選択肢は、グルカにはないらしい。

 まあいいけど。

 この国に来た目的は達した。出発するにはいい頃合いだろう。

 バタバタと(あわ)ただしく身支度を整える。

 と言っても、相変わらず準備なんて特に無い。スラ子任せだ。

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