新魔法具 誕生の日
お城の地下で、王妃様とお会いした。
グルカが俺たちをここへ連れてきたのは、母親に紹介したかったからだろうか。
「おお、愛しのアリアナよ。今日も美しい。」
扉の方から声がした。
振り返らなくても分かる。王様だ。
「グルカ様に、皆様もこちらでしたか。好都合でございます。」
ケイ大臣も一緒だ。
「何が都合がいいのですか。」
「はい。異国の冒険者の皆様にも聞いていただきたいのですが。」
何か相談事らしい。
「儂から話そう。知っての通り、ゴーレムを破壊したのはユカリ殿や冒険者の皆だ。」
「ええ。感謝してもしきれませんわね。」
「しかし、ケイ大臣は、国民に対し、儂の発明した魔法具による攻撃だと説明してしまった。」
「『光の槍』でしたかしら。」
「うむ。」
「致し方ないことでございますので、方便を使わせて頂きました。」
「まあ、今回の事はこれで切り抜けたかもしれぬ。しかし、もしも強力なモンスターが我が国を襲って来たら、どうなるか。」
「そうねえ……。『王様。再び光の槍にて、敵を打倒してください』となるかしらね。」
なるほど。当然そうなるな。
「しかし、実際には『光の槍』なる魔法具は……。」
「ありませんね。」
「もしもユカリ殿がこの国に滞在してくれるのなら、問題はないのだが……。」
そう言いながらユカリをチラ見する王様。
ユカリは縮こまって、俺の後ろに隠れた。いかにも嫌そうに。
「無理らしいからな。どうにかしてごまかすか……一番良いのは実際に作ることだ。何か良い案はないか。」
それを相談しに来たわけか。
「浮遊城から、地上の標的を攻撃する魔法具ですか。……単に槍を、投げ落としたらいかが?」
「お母様、それは危なすぎますわ。それに、どうやって的に当てるのですか。」
「そうねぇ。」
「グルカ様、空を飛ぶ魔法があるのですよね。それを応用するとか、出来ませんか?」
リホも興味を持ったようで、意見を出した。
「意思のない物体を操るのはむずかしいですね。それだけで立派な発明になります。」
「うむ。それに浮遊城の周囲には、飛行魔法を阻害する結界がある。それを解除するわけにはいかんし、そもそも解除方法すらわからん。」
「そうですね。飛行魔法は妨害されています。でも、ユカリさんは浮遊城から飛ばれたと聞いていますわ。あと、ほかのどなたかも。話が交錯していて分からないのですが。」
「うむ。儂の聞いた報告によると、まず最初にユカリ殿が飛んだわけだが、それはカヒト殿の変装だったとか。」
「え、ええ。」
心なしか、王様の視線が痛い。
「次にメグミ殿。そして、飛んだのは確認していないが、最後にユカリ殿が飛んだはず。」
かなり正確に把握されているようだ。
「3人は飛行魔法を使ったのだな。そんなことは出来ないはずだが。」
「ええと。何と言いましょうか。」
スラ子のことは言えないよな。
「圧縮した空気を噴き出して飛んだんです。」
とツムギが言った。正直、驚いた。
しかし、うーむ……。
それを言ってしまうと、ほぼ秘密を話すことになるのだが……。まあ、ごまかすのは難しいか。
「アッシュク?クウキ?」
「カヒトさんの魔法です。」
そういって俺に話を振ってきた。
「……ええとですね……私たちの周りには空気というものがあります。うちわであおぐと風が吹きますよね。風とは空気が動くことなんです。」
「ほう。」
「その空気を小さな入れ物の中にどんどん詰めていく事を圧縮といいます。圧縮した空気を、小さな入れ物から出してやると強い風が吹きますよね。私たちは、その力で空を飛んだのです。」
液体水素と液体酸素の燃焼については触れない方がいいだろう。ややこしくなるだけだ。
「空気を圧縮することはカヒトさんしかできませんけど、それを噴き出して強い風を生み出すことは誰でもできるのです。」
エッヘンと胸を張りながら、ツムギが説明を引き取る。
誰でもという事はないかな。スラ子が付いているヒトじゃないと出来ない。
「確かに、お前たちが下りてくる時や飛び上がる時に強い風が吹いていたな。それが圧縮した空気というものなのか。」
「なるほど。飛行魔法ではないから問題なく発動したのですね。」
問題なくはなかった。結界のせいでスラ子のパラシュートがうまく機能しなかったのだ。
「興味深いお話ですけど、それを『光の槍』に組み込むことは。」
「ううむ……。」
王様は一言唸り、考え込んでしまった。
「あと、圧縮空気を利用したクーラー服っていうのもあるんですよ。」
「くーらー服?」
「すごく涼しいんです。ユカリさん暑いの苦手だけど、クーラー服のおかげで平気なんだから。」
突然話題を振られ、ユカリがビクッとする。
「ほう。そう言えば、オーガ族は暑さが苦手なはず。たしかにユカリ殿がわが国で普通に過ごしているのは不思議な話だ。」
「体を冷やす魔法という事かしら。私も、暑いのは好きじゃないです。どんな方法なのですか。」
王様も王妃様も、クーラー服が気になるようだ。光の槍よりずっと興味を持ってる。
特に王妃様が身を乗り出してきた。
しかし、やっぱり説明は難しい。
俺も、スラ子がどうやって空気を圧縮しているのか、正確に知っているわけではない。本物の魔法で再現できるのかも分からない。
それでも王妃様の情熱に負け、どうにか説明をした。まあ、ほぼスラ子が代わりに話してくれたのだが。
王妃様はさすが独特の発想を持つといわれるだけのことはあるようで、説明を聞きながら、応用するアイデアを次々と出していった。
王様も、王妃様と議論を交わし、実用に向けて考えているようだ。
何だか、すごくイキイキとしているな、二人とも。王族よりも職人の方が似合っているんじゃないかな。
時間を忘れて話をする。
地下なので時間が分からないがツムギとリホはすっかり寝てしまった。
メグミは退屈そう。
ユカリは結構集中して話を聞いている。発言はしないけど。
俺からの説明が一通り終わると、王様と王妃様だけで熱心に話をしている。その内容は俺にはよくわからない。魔法の理論についてらしいことが辛うじてわかるだけだ。
つまり、すごく難しい話だ。
…………。
……はっ。
いつの間にか眠っていた。
すぐ隣にはメグミが、俺にもたれかかり、目を閉じて静かな寝息を立てている。
最近にはないほどの接近に、ついドギマギしてしまう。やっぱりかわいいな。
見れば、ツムギやユカリ、リホも折り重なるように寝ている。
みんなに囲まれ、ひとりドキドキしていると、王様と目が合った。
「おお。目が覚めたか。」
「す、すいません!つい、居眠りを!」
飛び起きながら、俺が言う。
「なに。構わんよ。」
「こちらこそ、二人だけで話をしてしまって申し訳なかったですわね。」
「うむ。だが、おかげで開発の道筋が見えた。」
「皆さんに相談して正解でしたね。あなた。」
「実用までは長い時間が掛かるかもしれんがな。……アリアナ、手伝ってもらえるか。」
「ええ。もちろん。」
何だか分からないが、王様と王妃様は手ごたえを感じたようだ。役に立てたのなら良かった。
「一日も早く開発し、国民に快適に過ごしてもらわなくてはな。」
……。
「はい、あなた。頑張って作りましょう。」
作るのって……。
「「クーラー服。」」
「……あのー……。」
「ん?どうした。」
「ええと、『光の槍』は、いいのですか?」
「あ。……忘れていた。」




