地下の秘密
朝食をとった後、お茶を飲みながらまったりとしていた俺たちの所へグルカとニケがやってきた。
「皆さん、おはようございます。朝食はお口に合いましたかしら。」
「おはようございます。姫様。」
「姫はやめてくださいな。今まで通りグルカで構いません。ところで、皆さんお暇ではありませんか?よろしければ、浮遊城をご案内しようかと思いますが。」
断る理由もないので、グルカの提案に甘えることにした。
しかし、客を案内するにしても王女自らがすることは無い。そう思うのだが、どうもグルカも割と暇しているらしい。
「時間があるときは下街に行くことも多いのですが、やはりこのような立場ですのであまり自由はありません。護衛も、ニケだけ連れて行けばよいという訳にはいきませんし。」
「あの時も、お説教されてましたね。」
「数日前に喫茶店の前でお会いした時ですね。シロガネが、なぜか口うるさくなってしまったと思っていたのですが、あれもお父様だったのですよね。」
「娘を気遣う父親の言葉だったんですね。」
「どの口が言うのかって、今は思いますけどね。」
たしかに。
グルカに連れられて歩き回ると、このお城は広いようでそんなに大きくはないことが分かる。
浮遊島自体は直径数百メートルの円形をしている。その浮遊島には、お城以外にも広い庭園やほかの建物がいくらかあるようだ。貴族のお屋敷や教会など。
王城は島の中心に建っているが、面積としては島の10分の1くらいを占めているという所だろう。
大きくはないとは言え、尖塔をいくつも持ち、複雑な階層構造をしている。案内されたグルカの部屋などは、何度も階段を上り下りして、今自分がどこにいるのか分からなくなるような道順をたどった。
お城の厨房や兵舎、中庭の家庭菜園や眺めの良い高い塔の一室。
おおよそ来客を案内するような場所ではないが、グルカの案内はなかなかに興味深かった。
「次は王家の秘密の場所なのですが、行ってみましょうか。」
王家の秘密。
そんな所に案内していいのか。まあ、今更か。
螺旋階段を降りる。
随分長く降りている。
上った高さよりも確実に降りているな、これは。つまり、今は地下にいるという事だ。
地下というか、浮遊城の岩盤部分の中なのだろう。
やっとでたどり着いたのは、お城には似つかわしくない埃っぽい扉。
大きいが装飾は何もなく、実用一点張りな、頑丈そうな扉だ。
その扉を、ニケが苦労して開けると、広い部屋があった。
広く、所狭しと並んでいる大きな機械、工具、何だか分からない道具たち。
どこかで見たような雰囲気だ。
「おや、グルカ。ここに来るなんて珍しいわね。」
一人の女性が声をかけてきた。一見すると男かと見紛う背の高さだが、長い髪を大雑把に束ね、どことなく優雅な身のこなし。
「お母様は相変わらずここに籠っておられますのね。」
「まあね。娘を寂しがらせているのは心苦しいけど。」
「ご冗談を。」
……娘?
「皆さん。ご紹介させていただきますわ。こちら、私の母です。お母様、こちらの方々は異国の冒険者です。ご存じでしょうけど。」
「もちろん知ってますよ。皆さんには夫の不始末でご迷惑をお掛けしてしまったようで。でも、ありがとう。」
「え、えっと……、グルカ様のお母様?」
「そうよ。お初にお目にかかります。グルカの母、アリアナと申します。」
「これはご丁寧に……。ええと、つまり……王様の奥様。」
「ええ。」
「それっていわゆる、王妃様。」
「ふふ。そうね。でも、そう呼ばれるのも、なかなか慣れないわ。」
「グルカさん。お母様って、前に王様が言っていた……?」
メグミがこっそり聞いている。
「はい。異国の食堂で……という話の。」
「あら。あの人ってば、そんな話までしてたの?そう。私は王族でも貴族でもない、普通の庶民の出ですから、皆さんも余りかしこまらないでくださいね。」
「あ、ありがとうございます……。」
王妃の割にフランクな人だ。と言うか、……健在だったのか。
失礼ながら、王様の話しぶりから、亡くなっているものだとばかり思っていた。
……と、言うことは……王様は、普通に奥さんがいるのに、ユカリを口説いたり外国に行こうとしてたのか。
……確かに王様には向いてないのかも。
「それで、ここは……。」
「魔法具の開発をしている工房です。ほぼ、お母様専用ですけど。」
「たしか、白銀工房が王室御用達だとか言う話ではなかったでしたっけ。」
「結婚して、余りに退屈だったので用意してもらったのです。白銀工房ほど本格的な研究をしているのではなく、趣味の延長程度ですわ。」
「ご謙遜を。お母様の発明は工房の方たちからも好評なんですよ。」
「それはすごい。」
「独創的って言われてますわ。ヘンなモノばかり作るから。」
どんなモノなんだろ。
「魔法具は我が国の主要産業ですから、開発に力を注ぐのはいいのですが……。」
「ええ。」
「それはそれとして、お母様には公務として舞踏会をはじめ、公の場にもう少し出ていただきたいものです。」
「私は庶民の出身ですから。そう言うのは肌に合わなくって。」
などとグルカと王妃は話をする。
ツムギなどは飽きて、そのあたりの机の上を物色し始めた。




