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勇者ユカリ

 結局、今回の騒動の最大功労者(こうろうしゃ)は王様。という事になったようだ。なった、と言うより、それがケイ大臣とシロガネの用意したシナリオ。それを国民に知らせるためのパレードだったわけだ。事実はとにかく。

 まあ、いいだろう。

 大臣は元から『隠蔽(いんぺい)』という歯に衣着せぬ物言いをしていた。おかしな話だがある意味、誠実だった。

 最も注目される役を王様に譲ったとはいえ、ユカリも『勇者』という称号を与えられているのだ。俺としては不満はない。

 メグミもツムギもリホも、大変な困難を乗り越え、晴れ晴れとした表情をしている。それが何よりだろう。



「公には出来ませんが、今回の件を全面的に解決に(みちび)いてくださったのは皆さまです。もちろん相応の報酬(ほうしゅう)を受け取っていただきたいと思います。が、まだその内容までは決めておりませんので、しばらくは我が国でゆっくりしていただくのが良いでしょう。」

 パレードも終わり、再びケイ大臣の別邸(べってい)へ戻ると、大臣は俺たちにそんなことを言った。

「そうですわね。いろいろとご迷惑をおかけしてしまいましたが、この国を楽しんでいただきたいです。あ、そうだわ。いっそ浮遊城に滞在(たいざい)していただくのがいいのではないかしら。」

「うむ。さすがわが娘だ。良いことを言う。ぜひともそうしたまえ。」

「お父様はユカリさんの近くに居たいだけでしょう。いい加減になさってください。」

「まあよいではないか。話は決まりだ。浮遊城へ帰るとするか。」

 王様とグルカの掛け合いで、あれよあれよという間にそんな話に決まってしまった。

 王城に滞在とは。

 そんな待遇を受けていいのだろうか。



 結局、浮遊城へのお誘いを断れなかった。

 王様やグルカの強い要望もあったが、何より街のヒトたちの反応が主な原因だ。パレードで俺たちの顔は国全体に知れ渡ることになってしまった。

 そんな中で平然と宿に宿泊するほど俺の神経は太くないし、何よりユカリがいる。自分が『勇者』だなんて()めたたえられ、注目の的になっていると知ったらどうなることやら。

 浮遊城への避難も致し方なし。



 転移魔法陣の復旧が思いのほか早かったのは、シロガネのおかげだったらしい。

 シロガネは、クーデターの計画段階から、魔法陣を使用不能にする事を分かっていた。そして、それを速やかに復旧するための準備も(おこた)りなく進めていたそうだ。

 予備の魔石の準備、微調整に関するメモをまとめておいたのだとか。

 割と勢いで行動する王様を影から補佐する、縁の下の力持ち的な働きをしているらしい。さすがは大臣の息子。

 ただし、復旧した転移魔法陣も、特に俺にやさしくなったという事はない。転移の度に気を失いかける点については相変わらずだ。

 気を失いかける俺。そんな俺と対照的に、ユカリは浮遊城へと転移したタイミングで意識を取り戻した。

「ユカリちゃん。気が付いた?」

「気分が悪かったりしませんか?」

 いきなり別の場所で目を覚まし、驚いた表情で固まっているユカリ。メグミたちがスラ子を通じて気遣うと、こくこくと小刻みに(うなず)いた。元気そうだ。

「こ、ここって、浮遊城……?な、何で?」

「ええとね……。色々あって……。」

「まあ、後で話すよ。」



 その後、疲れているだろうからと早々に客室へ通された。

 その部屋は、さすがの一言に尽きる。

 高い天井。広々とした部屋の隅々まで明るいのは、魔法の光だけではなく、自然光をふんだんに取り入れるデザインに寄るものだろう。

 俺たち全員でも広すぎる客室だが、1人につき1部屋ずつ、使っていいのだと言われる。

 それぞれに割り振られた個室に入ると、俺は誘惑(ゆうわく)(あらが)えず、ベッドに倒れこみ、そのまま眠ってしまった。



 40日目



 次の日の朝。

 俺は一人で使うには広すぎる部屋の、これまた一人で寝るには大きすぎるベッドの上で目を覚ました。

 寝室のドアを出ると、そこには大きなテーブルがあり、料理が並んでいた。

 メグミたちが少し眠そうな顔で椅子に腰かけている。

「カヒト、おはよう。」

「カヒトさん、おはよ。遅いよ。」

「お、おはよう……。」

「おはようございます。」

「おはよう。ゴメン。待たせちゃったな。」

「ううん。私たちも今起きたところ。メイドさん達が、『朝食どうぞ』って、用意してくれたの。」

「王様とか、グルカは?」

「別々らしいよ。私たちだけの方がゆっくり出来るだろうからって。」

「ありがたいな。じゃあ、頂こう。」

「うん。」



 おいしい朝食をとりながら話をする。

「何だか、こんなにゆったりするの、久しぶりだね。」

「この国に来てから、ずっとバタバタしていましたものね。」

「みんな。今回の件では大変だったな。お疲れ様。」

「結局、クーデターは本当じゃなかったんだよね。私たち、要らなかったね。」

「実際。舞踏会の時は、何にもできなかったよね。」

「でも、私たちが居なかったら、ゴーレムの暴走は止められませんでしたわ。」

「そうだな。来てよかったよ。リホがゴーレムの弱点を探してくれなかったら、何も出来なかったし、メグミとツムギの攻撃がなかったら攻略法も分からなかった。」

「それをスラ子ちゃんが伝えて、ユカリちゃんの攻撃でとどめになったんだもんね。皆で力を合わせた勝利だね。」

「まあ、俺は何も出来なかったが。」

「そんな事ないよ。カヒト、舞踏会場のテラスから何の躊躇(ちゅうちょ)もなく飛んだじゃない。」

「まあ、必死だったから。」

「カヒトが先に飛んでくれたから、私、勇気が出たんだから。」

「ボ、ボクも……。」

「だよね。あんなに高いところから飛び降りるの、すっごく怖かったんだから。」

 俺もひっそりと活躍していたらしい。

「ユカリは、高いところも苦手だったのか?悪い事したな。」

「う、ううん。高い所は別に、平気。」

「前に言ってたね。ユカリちゃんの故郷では、高い山から飛び降りたりしてたんだっけ。」

「そう。で、でも、さすがに、浮遊城みたいな高いところから普通に落ちたら、し、死んじゃうけど。」

「え?!」

「ど、どうしたの?」

「普通に落ちるどころか、むしろ加速してたよな。……何で無事だったんだ?」

「スラ子ちゃんが、くれた水をの、飲んだの。」

「スラ子がくれた水?」

 水はまあ、いつもスラ子に貰っているが。

噴水(ふんすい)の水です。あの水は湖からくみ上げたというものでした。あれを飲んでいただいたのです。」

「噴水?……ああ、マナが豊富(ほうふ)に含まれているとか何とか。」

「それを、飲んだら……す、すごく力が湧いてきて。いつもより、皮膚を固くできたの。」

 そんな秘密があったとは知らなかった。

「さっすが、ユカリさん。勇者って呼ばれるだけの事はあるね。」

「え……。な、なんの話?」

 ユカリは一人、困惑するのだった。

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