パレードの終わり
広場に集まったヒトたちからは絶えず歓声が上がっている。
バンザイの声や、王様やグルカを称える叫びがあちこちから聞こえてくる。
正直、居心地はすこぶる悪い、が逃げ出すわけにはいかない。とりあえず、終わるまでは観念してやり過ごすしかないな。
それはいいのだが、これからどうするんだろう。
何がどうなったら終わりになるのかも分からない。
そんな事が気になったが、すぐそばにいるシロガネに聞いてみるのも難しい。ちょっと正面から視線を逸らすと、本人から叱責が飛ぶのだ。
別に、そんな俺の不満に答えたからでもないだろうけど、観衆の声が少しずつ落ち着いてきた。そうしてざわめきが収まるのを待っていたのだろう。ケイ大臣はゆっくりと立ち上がり、前へと進み出る。
「皆も、昨夜の大事故の事は知っていよう。」
思いのほか良く通る声で大臣が話し始めると、観衆は先ほどまでとは打って変わって静寂に包まれた。一言も聞き漏らさないように、とでも言うように。
「街外れの魔法具研究所にて、不運にも巨大なゴーレムが暴走を始めてしまった。」
「制御を外れたゴーレムは建物をなぎ倒し、人々に襲いかかった。暴れまわる巨人を止める術など、我々にはないかに思われた。この国の終焉を迎えたのかと。」
「…………。」
息を飲むことさえ憚られるような、痛いほどの静寂。
「だが!」
大臣はこぶしを握り、声に力を込める。
「我らの王には備えがあった。こんなこともあろうかと、予め国外より有能な冒険者を招致していたのだ!」
大げさなセリフと共に、大げさなしぐさで俺たちを指し示すケイ大臣。風貌と似つかわしくないくらいに役者だ。
スポットライトこそないが、俺たちに注目が集まる。
シロガネに促され、おずおずと椅子から立つ。
すると、大きな拍手とともに、再びあちこちから歓声が上がった。一躍時の人だ。
すごい。
何だか知らないが、めちゃくちゃ褒められている。
まあ、王様に招かれたというのは嘘だが。
グルカは王族なので、広い意味では合っているかもしれないが、別にゴーレムの為に来たわけではない。
「更に!王はゴーレム出現の報を受けると、即座にわが息子であるシロガネを現場に派遣した。避難誘導の指揮をとらせるためだ。なぜ、このような迅速な対応が可能だったのか!?」
なぜも何もないな。
ゴーレムが暴走したという事以外は、王様が計画していたことだからだ。国外逃亡のために。
シロガネと言っているのは、シロガネの変装をした王様の事だな。シロガネの姿の王様が現場に行ったのは、浮遊城から逃げ出したからだ。
これで舞踏会での襲撃の件はうやむやにする気らしい。
結構、強引だな。
「王は昨夜のような事故を以前から想定しておられたのだ。ゴーレムの暴走に対する備えは、既に整っていたのだ!」
おおー!!
ここぞとばかりに沸き立つ会場。
しかし俺は思わず心の中でツッコミを入れてしまう。前から想定していたのなら、起きた場合の対処より、未然に防ぐことを考えろよ。
「王の備えはそれだけではない。そう、暴走せしゴーレムを調伏する為の武器の開発をも、王は進めておられた。」
その言葉に王様が眉を上げる。
いかにも『初耳だ』『聞いていないぞ』と言いたげな表情で大臣を睨む。
大臣の方はと言えば、そんな視線などどこ吹く風とばかりに演説を続ける。
「ただし!」
「その武器はあまりに強力。攻撃対象のそばにいれば、その余波でケガをする事は間違いない。そのような悲劇を避けるため、王は露払いとして、わが息子シロガネを送ったのだ。」
ここでシロガネが立ち上がり、片手を挙げて見せた。さすがに絵になるな。
「では紹介しよう。王の作りし武器を携え、浮遊城より飛び立ち、果敢にゴーレムへと立ち向かったオーガ族の勇者!ユカリ殿!」
声にこたえ、ユカリは堂々と立ち上がった。
人見知りのユカリにあるまじき立ち振る舞い。それもそのはず。立ち上がらせているのはユカリの体についているスラ子だ。ユカリを操り人形のごとく操っている。
当のユカリは気を失っているから出来る芸当だ。
再度、観衆が沸き立つ。
金の鎧に身を包んだユカリは、まさに『勇者』の貫禄に溢れている。微笑を湛えたその視線を受けた女性には、黄色い声を上げる子も少なくないようだ。
確かに、ユカリはイケメンだ。
もうずっと気絶したままの方がいいんじゃないかな。もしも起きていたなら、眉間に深いしわを寄せ、視線で射殺さんばかりに睨みつける事間違いないからな。
「そして!」
大きな歓声に負けない声で、大臣が言葉を続ける。
「勇者ユカリが使い、ゴーレムを打ち砕いた武器こそ!」
……ゴクリ……。
「我らが王の作りし、神器!『光の槍』である!」
ユカリが右手に持った槍を掲げる。
会場は最高の盛り上がりを見せた。あまりの歓声に耳を押さえたくなるほどだ。圧倒されすぎて、そんなことは出来ないが。
にしても、パレードの前にユカリが手に持たされていたあの巨大な槍が、ゴーレム撃破の決め手だったとは……。
って、違った。
そんなわけはない。ユカリは武器は使っていない。ただの飛び蹴りを放ったのだ。いわばユカリ本人が武器。
あれを『光の槍』と言っているのは、象徴があった方が分かりやすいからだろう。
しかし、槍か。俺はむしろ『光の矢』だと思ったけど……。
歓声の中、ケイ大臣が王様に何か耳打ちしている。同時にシロガネもユカリのそばに近づき何かを指示しているようだ。まあ、それを聞いているのはスラ子なのだが。
指示を聞いたユカリ……を操っているスラ子は、槍を掲げるのを止め、王様の方へ向き直った。そして、おもむろに跪く。
「マドセン王より預かりしこの『光の槍』、ここにお返し申し上げます。」
そう言って恭しく槍を差し出す。
王も両手でそれを受け取る。
武器を返す儀式という感じ。
武器の授与の儀式というのはなじみがあるが。逆でもまあ、絵になるな。
「我らの国は、我らの王が守ってくださる。王を称えよ!」
轟くような歓声。
王様はかなり重そうに槍を持つ。さすがに頭上に掲げることは出来ないらしく、観衆へは、空いている方の手を振り、声援にこたえた。




