砂漠の街のパレード
馬車の荷台は思ったよりも高くなっていて、上がってみると割と遠くまで見通しがきく。
門の正面は大きな通りに面しており、通りの両側にはみっちりとヒトがひしめいていた。
朝日を受け、人々が頭に被っているターバンのような白い布が輝く。みんなこちらに笑顔を向けて手を振っている。
すごい熱気だ。
「さあ、皆さん。馬車が動く。胸を張り、民に手を振って。」
シロガネが言った。
この指示のために俺たちと同じ馬車に乗ったのか。
先導の騎士団が道路へ進み、王を乗せた馬車が続く。俺たちの乗った馬車も遅れずに大通りへと進み出した。
わああああ……!
暑さを吹き飛ばすような大きな歓声。通りの両側の建物からは花びらが撒かれ、否が応にも気分が盛り上がる。
ツムギやリホは飛び上がって喜んでいる。俺とメグミはぎこちない笑顔を作り、所在なく手を振るくらいだけど。
ユカリは微動だにしない。
馬車の真ん中に立ち、片手に大槍を持ち、まっすぐに前を見つめている。
堂々と、立派に見えるが……まるでよくできた人形みたいにも見える。
まあ、笑顔で愛嬌を振りまくのをユカリに望むのは無理がある。体育座りで丸まられるよりはましだろう。
「あの、シロガネさん。」
「ほら!笑顔!」
おずおずと話しかけた俺に、シロガネは小声で容赦なく言い放つ。
俺はビクッと人々の方へ向き直り、ぎこちない笑顔を顔に張り付けた。
そのままで質問を続ける。
「これって、なんのパレードなんですか?別に、俺たちが参加しなくても……。」
「そうはいかない。皆さんは、このパレードの主役の一方なのだからな。」
「主役?」
「の、一方?」
俺とメグミは思わずシロガネを見る。
「笑顔っ!」
小声ながら、容赦ないシロガネ。
有無を言わせぬ迫力がある。
馬車は通りを進んでいく。
明確な説明は無いが、俺は大まかに状況を把握し始めた。
あわただしくせっつかれ、始まったので理解が追い付かなかったが、ただ座って手を振るだけの今なら考えをまとめることが出来る。
このパレードはまあ、要するに昨夜のゴーレムを撃破したことを祝うものなのだろう。
あのゴーレムがどの程度に国にとって脅威だったのかは分からない。が、まあ下手をすれば大勢の人死にが出てもおかしくなかった。それをほぼ未然に防いだのだ。お祝いの一つや二つはしてもよさそうだ。
だが、それにしてもこのパレードの規模はどうなんだろう。
街を上げて……いや、この国の都市はこのマドセンだけなのだから、実質国を挙げた大パレードということになる。
ここまでするものなのかな。まあ、するものなのだろう。
それと、ゴーレム撃破をたたえるという事であれば、主役は俺たち、というか、メインはユカリだろう。俺たちの乗る馬車が前でもおかしくない気がする。
まあ、前の馬車にはグルカだけではなく王様が乗っているのだ。いくらユカリがゴーレムを打倒した英雄とは言え、王様はそれ以上の扱いというわけだ。おかしくはない。
おかしくは無いが、シロガネはまだ何かを黙っているような感じだった。
パレードは湖の周りの環状大通りをぐるっと回ると、湖を背にした広場へと到着した。
位置的に浮遊城の影になっている事もあり、かなり涼しい。パレードの間は日差しで汗が止まらなかったからな。すごくホッとする。
広場には続々とヒトが集まってくる。
観客たちはパレードの後ろからついてきていたのだ。そのすべてではないだろうが、数えきれないくらいの国民がこの広場に集まっているようだ。
先鋒と殿を務めていた騎士団は湖を背にきれいに列をなし、その手前に王様の乗った馬車と、俺たちの馬車が横並びになる。馬車を牽いていた馬はいつの間にか外され、馬車の車体だけが残った。車体は一段高い舞台のような趣きだ。
あれよあれよという間に、こんなところに連れ出されてしまった。
何だか騙されたような。というか、実際騙されている気がするが……。だが、別に悪いことではない。
ゴーレムの件では何もしていない俺はとにかく、勇敢に戦ったメグミたちや、とどめを刺したユカリの功績を称えてくれるのであれば受け入れる。
ツムギとリホは最初から楽しんでいる。メグミは観念したのか、ただただ笑顔で手を振っている。まあ、俺もだが。
こいつらは問題ないだろう。
ただ、ユカリが心配だ。人見知りの激しいユカリがこんな大勢の前に連れ出され、注目の的になっている。
「ユカリ。大丈夫か?」
スラ子を通じて内緒話だ。
「…………。」
返事がない。代わりにスラ子が答えてくれた。
「どうやら、ユカリさんは気を失っているようですね。」
……そうか。
というか、そんなに?
「むしろ、気絶していて良かったかもしれません。」
「ええ?」
何だか物騒なことをスラ子は言う。
「これから、ユカリさんにとってはパレードより大変なことが始まるようですから。」
「……確かにな。」
実際に何をするのかは知らないが、今よりもっと注目を浴びるのは間違いないだろう。
「スラ子。いざという時はフォローを頼む。」
「はい、マスター。お任せください。」




