本物のしろがね
本物のシロガネと顔を合わせたのは今回が初めてだったようだ。
昨日までシロガネだと思っていたのは王様だった。喫茶店を出たところで会ったのも、既に王様が変装していたのだとか。と言うより、数か月前から二人は入れ替わっていたらしい。昨日の計画のために。
用意周到なことだ。
グルカは二人が入れ替わっている事には気づかなかったが、シロガネに違和感を感じてはいたようだ。「急に口うるさくなったのは、そのせいでしたか」とか言っていた。
「シロガネや。万事抜かりないかね。」
「はい。父上。」
と、ケイ大臣とシロガネのやり取り。
なんだろう?
「準備は整っております。皆様、どうぞこちらへ。」
シロガネは俺たちをどこかへ連れ出すようだ。
俺たちだけではない。王様やグルカ、ニケが先行して部屋を出る。
この屋敷の入り口には、広い玄関ホールがあるが、そこには鎧姿の騎士が列をなしていた。おそらく、昨日の夜に偽の王様を守り、襲撃者を追っていた騎士たちだろう。
浮遊城にいたはずのシロガネが下街であるここにいることからわかる通り、転移の魔法陣は復旧したようだ。シロガネは騎士と一緒に転移してきたのだろう。
そのほかにも、執事やメイドらしきヒトがたくさん待機していた。シロガネに続いて王様がホールへ入っていくと、メイドたちは慣れた手つきで、素早くその周りに集まり、
あっという間に王様やグルカ達はドレスアップされた。
きらびやかなシャツに豪華な刺繍の施されたマントを羽織り、頭には冠を頂く。先ほどまでの、高級だがシンプルな部屋着の上に重ねているので、結構厚着だ。
こうしてきれいな衣装を着ていると、さすが王族は威厳がある。王様もグルカも、近寄りがたい空気をまとっている。
見惚れていると、メイドたちは俺たちの方にも近づいてきた。
「失礼いたします。こちらを身に着けていただけますようにお願いいたします。」
あっという間に囲まれ、なすすべなくマントを被せられた。さらに何かを腰に巻いてくると思ったら、こちらもキラキラとしたサーベルか何かを腰に取り付けられた。多分、儀式用の剣だろう。
「ね、ねえ。なんだろ、これ。」
メグミが戸惑っている。
「分からない。」
ツムギもリホもされるがままだ。
ユカリを見ると、何だかすごいことになっていた。
金色の、鎧?だろうか。
ユカリは知らないヒトに取り囲まれて固まっている。それをいいことに、メイドたちはテキパキと鎧を装備させていく。
細かなレリーフが浮き彫りになっているプレートメイルやガントレット、ロングブーツも金ぴかだ。
極めつけは手に持たされた武器。
ものすごい槍だ。恐ろしく巨大。
長さはユカリの身長の2倍はありそうだ。柄には細かな彫金細工で飾られ、穂先に取り付けられた槍は、ブロードソードを彷彿とさせる威容を誇る。
俺なんかが持ったら、さぞかし滑稽なことになるだろうが、背の高いユカリが持つとしっくりくる。軽々と振り回せそうだ。
金の鎧に大槍を持ったユカリは、歴戦の勇者と言われても違和感がない。
シロガネやケイ大臣も、思わず目を離せない様子だ。王様はまあ、女性としてのユカリに見とれているだけかもしれないが。
一通りの着替えが終わったらしく、執事やメイドたちが離れていく。それを見計らって王様が言った。
「そろそろ説明いたせ。何が始まるのだ。」
「は。ですが、見ていただくのが早いでしょう。」
シロガネはそう言って扉の方へ合図をする。
両開きの扉には、予め二人の男が左右に位置取っている。
合図を受け扉を開くと、外からは朝の光と共に人々の歓声が聞こえてくる。
扉の外、すぐ近くに何台かの馬車が目に入った。
これまたきらびやかな装飾がされているが、幌のない荷台だけの馬車が並んでいる。
「陛下。どうぞお乗りください。」
シロガネは跪いて王様を促す。
「パレードか。」
「は。」
確かに、パレードだ。
馬車の前方。門の前にも騎士の列が見える。
先導というか、露払いというやつだろうか。
その後ろに王族や俺たちが乗った馬車が並び、さらに殿の騎士団が続くように配置されているようだ。
王様やグルカが馬車に乗り街を練り歩くという事だろう。
割と小国とはいえ、王を間近に見る機会は多くないのだろう。まだ始まってもいないのに、沿道はかなり盛り上がっている様子。
「なぜ、いきなりパレードなのだ。」
王様は、問いただすようにケイ大臣に詰め寄る。
あれ?いきなりなのか。
以前から予定されていたわけではないらしい。
何だかわからず、俺はグルカを見つめた。
グルカは首を振る。「私にも何だかわかりません。」その目が言っていた。
「陛下、説明は道中で。民は今か今かと王の登場を待っておりますぞ。」
王様は押し出されるように馬車へ乗り込み、グルカとニケ、ケイ大臣が続く。
俺たちも、後ろの馬車へと誘導され乗せられる。シロガネが同乗するようだ。




