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王の退陣要求

「ははあ。そうすると、現在の王様の発明というのは。」

「むう……。」

 王様が不機嫌そうに(うな)る。

「皆様も昨日見ておられます。」

 昨日?

 何か見たかな。

「あ、転移魔法の魔法陣ですか。」

「いいえ。」

「そうすると……。明かりの魔法具?」

「違います。」

 メグミとツムギの予想はハズレか。

 あとは何があったか……。

「お分かりになりませんか。」

「ゴーレムでしょう。私たちが昨日見た魔法具と言えば、それですわ。」

 と、リホ。

 ああ、そうだ。

 王様はいかにもこの話題を嫌がっている。失敗作のゴーレムが自分の功績では、胸も張れないか。

「いえ。ゴーレムではありません。」

 違った。

 そうすると、なんだ?

 言うべきことが見当たらず、俺たちは王様を見る。

「……『映し身の衣』 だ。」

 王様がぼそりと言った。

「ああ……。」

「…………。」

「あれかぁ……。」

 気まずい空気が流れる。

 つまり王様は、歴代の王と比べてコンプレックスを抱いているのだろうか。

 一国の食糧を(まかな)うようなものすごい魔法具と比べてしまえば、変装が出来るというだけの魔法具は若干……いや、かなり見劣りがする。あるいは、ちょっと恥ずかしい魔法具が自分の作品だということで、侮られていると感じているのかもしれない。

 堂々とした態度の王様かと思ったけど、いろいろ悩みもあるのだろう。

 

  「ええと、それで……。」

 王様は難しい表情で目をつむり黙ってしまい、グルカも先を(うなが)さないので仕方なく俺は口を開いた。うまい言葉は出てこないが、話を続けてほしいのだが。

「……まあ、つまるところ、儂には王としての才覚がないという事だ。それだけではないが……。」

「と言いますと?」

「王というものは……どうにも退屈でな。やってられんのだ。」

「お父様。それは無責任すぎるというものです。」

「…………。」

「はあ……。相変わらずでございますな。」

 それまで静かに事を見守っていた大臣が、口を開く。

「グルカ様。グルカ様はご存じないでしょうが、陛下はこれまでも度々城を抜け出しておられたのですよ。」

「ええ?」

「下街をふらつくなど日常茶飯事。国外へ行ったまま数か月戻らないことも幾度(いくど)となくございました。」

「お父様……。」

「それでも、大事になる前にお戻り頂けておりましたのでお小言で済ませておりましたが、今回は(ひど)うございます。」

「うむ。為政者(いせいしゃ)としてあるまじき行いであったろう。これを機に、儂は王座を降りようと思う。」

 王様はサラッととんでもないことを言い出す。

 いや、確かに酷いことになったのだ。数件の建物をつぶして火事を出した。

 死者も重傷者もいないとは聞いているが、それもただの幸運。王がその座を追われる理由としては十分なのかも。

「そうはまいりません。」

 納得していないのはケイ大臣。

「事実を公表されるおつもりですか?そんなことをすれば、国民はもちろん、他国からも笑いものになります。そんなことは出来ません。」

「仕方なかろう。」

「リチャード様という一個人が笑いものになるだけであれば仕方ないで済むでしょう。ですが、陛下はこの国そのものなのです。それはいけません。」

「むう……。」

「幸い事実を知るものはこの場に集まっています。隠蔽(いんぺい)してしまいましょう。」

 こちらも、とんでもないことをあっさりと。

 それに対して王様は、こちらをちらっと見てから、

「ユカリ殿、いや、冒険者は他国の者たちだ。我が国の利害など気にはしまい。」

 妙なことを言い出した。

 俺たちが事実を言いふらしてしまうから隠蔽は無理と言いたいわけか。

「い、いえ。ことさらにこの国を混乱させようなどとは思いません。黙っていろと言うのなら、黙っていますよ。」

 悪役にされてはたまらない。

「あの、一つお聞きしたいのですが。」

「はい。メグミさん。」

メグミの言葉にグルカが答える。

「ええと、カヒトの言う通り、別に言いふらすつもりは無いです。王様も悪気があるわけじゃないって分かりましたし。」

「ですね。お父様も基本的には、国の事を第一に考えています。」

「ゴーレムの事は良いですけど、浮遊城で起きた王様へのクーデターについてはどうするんですか?すごくたくさんの人が目撃していたと思うんですけど。」

そう言えばそうだ。

あの場に居合わせたのは10人や20人ではない。その人たちすべてに箝口令(かんこうれい)を敷くのは難しいんじゃないか。

「問題ありません。昨日あの場で私が言った通り、あれはショーですから。」

大臣が答えた。

確かにそう言っていたが……。

それで押し通すのだろうか。まあ、押し通すのだろう。



俺たちからは他に意見はない。その事を確認した大臣は、王様への追及を再開する。

「陛下。退陣は諦めてくださいますよう。」

「…………。」

 王様はいろいろ理由をつけて王座から降りたいようだが、大臣はそれを許さない。

 どうにも王様のほうが旗色(はたいろ)が悪い。計画は失敗だな。

「……だが、国民にはどう説明するのだ。ゴーレムの出現は、すでに街中に知られておるだろう。」

 夜中とはいえ、あれだけデカいのが動き回っていたのだからな。俺たちはとにかく、街のヒトの口止めなんて現実的に無理な話だ。

「それについては、すでに手は打っております。ご安心ください。」

「どんな手です?大臣。お父様を甘やかすような事でしたら困りますよ。」

「ご安心ください、グルカ様。私が陛下を甘やかすことはあり得ませんので。」

 辛辣(しんらつ)な二人だ。

「……そろそろだと思いますが。」

 大臣がそうつぶやくと、部屋の扉がノックされ、男が入室してきた。

 その顔を見て、ちょっと動揺(どうよう)してしまった。

「シロガネでございます。陛下、グルカ様も、ご機嫌(うるわ)しゅう。」

「あ。シロガネ……さん。……本物?」

 思わずメグミが声を出す。

「ええ、異国の冒険者の方々。皆には初めてお目にかかる。ケイ大臣の息子、シロガネと申す。」

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