王の試練
「やあ、ユカリ殿。おはよう。」
王様がフランクに挨拶をする。
俺やメグミが出来るだけ丁寧に返事をする中、名指しされたユカリは一番後ろでおずおずと頭を下げている。なかなか慣れないらしい。
ユカリはこういうグイグイ来るヒトが苦手だからな。俺にはどうしようもない。
王様のほうも、ユカリからの挨拶が無いことを別に気にした様子はない。ホッとした。
通された部屋は、いわゆるダイニングなのだろう。美しい模様の絨毯が床と言わず壁と言わず敷き詰められ、大きなクッションがいくつも置かれている。やはりテーブルとイスは使わないらしく、床の上のお盆にお茶のセットが用意されていた。
王様のほかには昨日の面々が座っている。グルカをはじめ、ニケ、ケイ大臣。白金工房のゴーレム技師の姿もある。
「皆さん、おはようございます。朝早くにお呼びだてしてしまい、すみません。」
グルカが何だか申し訳なさそうに言った。
「いえいえ。全然大丈夫ですよ。」
グルカは王族で、国王本人もここにいる。対して俺たちは一介の冒険者なのだ。いくらでも呼び出せばいい。
「皆さんを巻き込んだのは、本をただせば私の早とちりだったわけですし、これ以上面倒ごとに関わっていただく必要もないかと思ったのですが。」
「巻き込んだからこそ、話の顛末まで関わってもらわねばな。中途半端は良くないだろう。」
「お父様はユカリさんに会いたかっただけでしょう。……まったく。」
「これからの話は、シンプルに儂の恥なのだ。美しい女性に対し、恥をさらさねばならん父に同情してくれても良かろう。」
美しい女性云々はともかくとして、自分の悪だくみの説明を自分でしなくてはいけないのだ。確かに同情の余地もある。と、思っていると、グルカがユカリに耳打ちしている。
「ああやって弱みを見せて気を引こうとしているのです。娘として恥ずかしいです。」
……母性を刺激してるわけだ。女性はそういうのにキュンと来るのだろうか。とりあえず、ツムギがジト目になっているのは分かる。
「さて、お父様。なぜ国を出ようなどと?」
「うむ……。」
「民からの信頼も篤く、国の運営においても不満は上がっておりません。いったい、何が気に入らないのですか。」
「民からの信頼などは……特になかろう。国民は水にも食べるものにも困ってはいないであろうが……それだけだ。」
「十分ではありませんか。王が民を飢えさせていない。これは、称賛されてしかるべきでしょう。」
「しかし、それは儂の功績ではない。」
「そんなことは……。」
「ユカリ殿は……いや、異国の方々は知らぬであろうが、この国の食糧事情は多少特殊でな。」
「はあ。」
「浮遊城の中核にはこの国でも最大、最重要の魔法具がある。特に名などは無いのだが、モノを複製することのできる魔法具だ。」
「陛下。それは、重要機密ですが。」
ケイ大臣が眉をひそめて言った。
「公然の秘密であろう。」
落ち着いて大臣を諭し、説明を続ける王様。
「なんでも、とはいかんが、食料に関してはその魔法具を使用し複製することで生産している。この国では過去数十年餓死する者はおらんが、その魔法具のおかげだ。」
尽きない米びつがあるようなものか。それは当然重要な秘密だな。
すごい魔法具なのだとは思うが、まあ実際街の喫茶店でも話題になるような話だ。国民がみんな知っている、公然の秘密なのだろう。 詳細は初耳だが、 俺たちも大枠は知っていたし。
「その魔法具により食糧を生産するのが、代々の王の重要な仕事ではありませんか。誰でも出来ることではありません。それが王の功績でなくて何なのです。」
「誰にでもできることだ。確かにクセの強い道具だし、微妙な調整が必要だ。魔法のセンスが求められるのは間違いない。」
「でしょう。」
「だが、それはすでにある道具の扱いの巧さの話。7代目様のように、魔法具そのものの発明に比べれば、儂など何もしていないに等しかろう。」
「お父様だって、新しい魔法具を発明されたではありませんか。」
「それは。……言わんでよい。」
「あ、皆様に説明いたしましょう。わが国では、新しく国王の座につこうとする者には試練があります。」
「試練ですか。」
「まあ、試練は言い過ぎかもしれませんが要するに、力を証明しなければいけないのです。」
「あー……。その話はいいではないか。あくまで形だけのものだ。」
「いいえ。皆様は異国の方々ですから、細かい文化の説明もしなくてはいけません。それで、試練と言いますのは、新しい魔法具の発明です。」
「なるほど。」
「歴史を紐解きますと、国王ではありませんが、宗主様は湖の水をくみ上げる装置を作り、浮遊島に畑を作られました。先ほどお父様からありました通り、7代目様は複製の魔法具を作り、国王に就任されました。」
魔法使いすらかなり希少らしいし、国王の座に就くのはその中でも選りすぐりの天才なんだろうな。
「そういった歴史を受け、いつからか新しい魔法具の発明をもって、王としての資質を示すようになったのです。」




