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少し色っぽい話

 ―7日目―


 朝、俺はメグミよりも早く目を覚ました。


 視界がぼんやりしている。寝ている間はスラ子のコンタクトレンズはやめてもらっているのだ。

「おはようございます、マスター。」

 スラ子が朝の挨拶をしながら俺の目に侵入し、レンズの形になる。

 以前はこれがちょっと苦手でうまく目を開けていられなかった。自分でコンタクトレンズを入れるのも苦手だったんだから当然のことだ。

 今では何とは平常心を保っていられる。

「おはよう、スラ子。コンタクト、サンキュー。」

 メグミを見る。スースーと静かな寝息を立てている。少し見とれてしまったが、見てはいけないものを見てしまったように思い、慌てて目をそらした。


 窓から外を見ると、ちょうど朝日が昇ったところだ。ベッドに入った時間を考えればもっと早く目を覚ましてもいいと思うが……。

 朝日を浴びながら伸びをしていたら後ろから声が聞こえてきた。

「お、おはよう……カヒト。」

 振り返るとメグミが起きていた。抱えた枕に半分くらい顔をうずめている。ほっぺたが赤くなっているのが分かる。

「おはよう、メグミ。よく眠れた?」

「う、うん……」

「おはようございます、メグミさん。」

「おはよう、スラ子ちゃん。」

「もう朝食は食べられるのかな?」

「うん……でも、もうちょっとゆっくりしない?」

「あ、ああ。」

 メグミは赤くなりながらもこっちを真っすぐにみている。その目が隣に座ってと言っている気がする。


 俺は素直にメグミのベッドに腰かけた。

 メグミはごく自然に俺の肩に頭をもたれてきた。はた目にはまったりとした恋人同士に見えるだろうが、俺はまだ緊張している。

 メグミからもそんな空気が感じられる。何だか無理しているような感じだ。

「……メグミは本当に解体の手伝いのクエスト、嫌じゃないか?無理させたくないけど。」

「イヤじゃないよ。チャンスがあれば受けたいって思ってたし。」

「でも、解体の指導をしたら、冒険者が自分で解体できるようになるんだよな。ギルドの仕事をとる事になるんじゃないのか?」

「そうだね。でも、ギルドはいつも人手不足って聞くから仕事が減って助かるのかもね。」

「なるほどな。」

「……」

「……」

「……あ、あのね。」

「ん?」

「……一昨日、カヒトは私の事、お、襲いたくなっちゃうって……言ってたよね。」

「あ、ああ……」

「……今もそう?今、私を……」

「……そうだ……」

「なんで、襲わないの?」

 何でと言われても困る。どうしよう。……俺は正直に言った。

「嫌われるのが怖いから。」

 メグミは俺の肩にぐりぐりと頭を擦りつけてきた。何だ何だ。

「嫌わないから、キ、キスだけ……して……?」

 メグミは目をつむってこちらに顔を向けてきた。今回はメガネを掛けて欲しいわけではない。それくらい、俺にも分かる。


 ……覚悟を決めるしかない。

 俺はメグミの手をとり、軽く、ほんの軽く唇同士を触れた。……柔らかい。

 メグミの手がほんのりと湿っている。俺の手も汗をかいてるのが分かる。

 心臓がバクバクと暴れまわっている。口から飛び出してくるんじゃないかと本気で思った。

 息が止まる。臭くないかな?なんてつまらないことばかり頭に浮かんできた。スラ子のおかげで清潔なはずだ。口の中も。

 メグミはいいにおいがした。


 数秒のはずだが永遠にも思える。しかし物足りない時間だった。

 メグミの顔を見れない。メグミも顔を伏せている。嫌われてなければいいけど。

「あ、朝ごはん……行こ?」

 メグミは顔をあげてにっこりと笑いながら言った。大人だ。俺は黙ってうなずく事しかできない。


 朝食をとり、メグミはクエストの為冒険者ギルドに向かう。俺も途中まで同行した。

「カヒト、鉱山で採掘はダメだよ。あと、外に出て狩をしようとか、考えないでね。」

「ああ。スラ子がいるとはいえ、モンスターがいるところには行かないよ。」

「私がいる限り、マスターをお守りしますが、メグミさんが心配するような事はやめましょう。」

「スラ子ちゃん、カヒトをお願いね。」

「もちろんです。」

 スラ子が俺のお守りなのか。そんなに頼りないかな……まあ、頼りないか。


 俺は一旦カプフェル鉱山へ行く。メグミに言われたように採掘はしないが、ドワーフたちが待っているかもしれない。今日は潜らないと挨拶だけだ。


 鉱山へ着いてみるとドワーフ達がいた。そして冒険者らしいのが5人、ドワーフのテントの前で赤ら顔と話をしている。この鉱山に俺たち以外の採掘に来ている人を見るのは初めてだ。

 俺が近づくのを躊躇(ちゅうちょ)していると無口なドワーフがこちらに気づき手をあげている。


「やあ、おはよう。」

 無口な男に挨拶をする。

「あんたも早いな。」

「今日はほかの冒険者が来てるんだな。」

「あんたらがかなりの量の鉱石を取ってきたからな。金になると分かれば来るさ。」

「あれはかなりの量だったのか。」

「最近だとグ・エルドでもスルブラでもあれだけ取ってきた奴らはいない。それもたった二人でだからな。ちょっと話題になってる。」

 スルブラはこの街の3つの鉱山の内の一つだ。グ・エルドほど人気はないがここほどさびれてもいない。


「今日も採掘するのか?一人で入るのは……止めんがお勧めしないぞ。」

「いや、今日はツレが他の仕事でね、やめとくよ。」

「まさかそれを言いに来ただけか。律儀なヤツだな。まあ、また今度頼む。」

「ああ、じゃあまた。」


 彼は無口だと思っていたが、別にそんなことは無かったな。他の二人がよくしゃべるからそう見えていただけか。


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