スライムは文字が読める
中途半端に時間が余ってしまった。
金物屋を出て、何をしようか思案していると、メグミが言った。
「また冒険者ギルドに行かない?」
「ああ、何か用があるのか?」
「ううん。でも、掲示板の情報は毎日変わるからね。頻繁に見に行った方がいいの。」
「なるほどな。」
俺はもちろん先輩の言う事に従うのみだ。
冒険者ギルドに着く。
メグミはすぐに掲示板へ向かう。俺もついていくが、文字が読めないからな……。
「マスター。私は文字が分かるようになりました。」
「もう読めるようになったのか。……すごいとしか言いようがないな。」
「ありがとうございます。ご希望の物を読み上げましょうか。」
「頼む。右から大まかにでいいから、どんなことが書いてあるか教えてくれ。」
「はい。一番右はお買い得情報とあります。」
「お買い得情報……」
「この街の商店の広告みたいですね。」
「武器や防具もあるのか?」
「はい。後は冒険者用の道具屋、薬屋、携帯食の事が書いてあります。」
「なるほど。役に立ちそうだ。」
「一つ左は『一般クエスト』とあります。配達、建築手伝い、製鉄所の雑用、鍛冶場の雑用……」
「バイトみたいだな……そういうのもクエストなのか。」
「おそらく、戦闘を必要としない仕事ではないでしょうか。その次が『ランククエスト』です。1から5までのランクがあるようです。クエストの難度だと思います。」
「一番難しいのが、1か?」
「その通りです。」
ランク1の場所には何も張られていないらしい。最高難度のクエストはないということだ。
「ランク5のクエストはどんな物がある?」
「薬草採取、鉱石採掘、ウサギ狩りですね。」
「あれ?鉱石採掘はランククエストなのか。やってよかったのかな?」
「全然大丈夫だよ。」
メグミがいつの間にか俺の後ろにきてそう言った。
「!おおっ、びっくり。いや、ランククエストっていうのは昨日言ってたギルドに登録が必要なクエストじゃないのか?」
「登録が必要なのはランク4から。ランク5は戦闘があるかもしれないけど、戦闘自体がクエストの目的にはならないの。」
「ふーん。」
「カヒトも登録する?」
「うーん……した方がいいのかな……」
「登録はタダだよ。別に難しいクエストを受けなくちゃいけないわけじゃないし。ただ、一般クエストでもいいから定期的にギルドのクエストをしないと登録取り消しになっちゃうらしいよ。あと、ランククエストを受けるとポイントが貰える事になってて、ポイントが一定量貯まるとランクアップできる事になってるらしいの。」
「自分のランクより上のランククエストは受けられないわけか。」
「まあ、そういう話になってるけど……」
「何か、あいまいだな。」
「この、ポイントとか、ランクっていうシステムはあんまりまともに機能してないみたい。」
「そうなのか。」
「うん。例えば、モンスター討伐のクエストがあったとして、別に事前に申し込みしないと討伐できないわけじゃないでしょ?」
「制度的な事は知らないが……。物理的には申し込みしようとしまいと、モンスターは存在する。実力があれば、それを討伐できる。」
「そうなの。ランクがどうであれ、討伐すれば成功報酬は貰えるべきでしょ。」
「まあ、そうかな。」
「実際そういう事がよく起きてね。じゃあ、ポイントとか要らないって人が増えて、何だかグダグダになっちゃったんだって。」
「ありがちな話かもな……。それなら、今はまだ登録しなくていいかな。また必要になったらするよ。」
「うん。それでいいと思う。それにしても、いつの間に字が読めるようになったの?」
「本当にな。昨日のうちにできるようになったって事だよな。さすが、スラ子だ。」
「……あ、スラ子ちゃんが読んでたんだ。」
メグミはまた自然に俺と手を繋いでいる。それは良いのだが、俺も積極的になるべきだろうか。こちらからのアプローチは拒否されるかもしれない。それが怖い。
「ええと、メグミは何か良い情報見つけた?」
「えっとね、ちょっと気になったのがこの『解体の手伝い』っていうの。」
メグミが一般クエストの一枚を指さしている。
「読むね。『冒険者ギルドに持ち込まれたモンスターの解体作業の補助 例:牙ウルフ、山ウルフ、ストップ羊、クリスタルバットなど。 報酬:1体につき500ゴールド 備考:希望者には解体の指導を行う。』」
「『解体の指導』か。」
「うん。冒険者は大体このクエストで解体の技術を学ぶんだって。その代わり報酬は低いけどね。」
「確かにいいな。金は当面心配なさそうだし。どうすればクエストを受けられるんだ?」
「受付に行くの。それで、このクエスト受けたいですって言えばいいの。」
俺たちは狼の素材を買い取ってもらった時と同じようにカウンターに並ぶ。
「すいません。解体手伝いのクエストを受けたいんですけど。」
メグミが受付のおばさんに言った。
「はいよ。どっちが受けるんだい?」
「二人でお願いします。」
「悪いけど解体補助は1人しか募集してないんだ。」
「あー、そうなんだ。カヒト、どうしようか。」
「どっちかだけでも受けといた方がいいな。誰でもできるんですか?」
「特に制限はないね。あんまり小さい子供だと断る事もあるよ。ある程度力が必要だから。あと、ギルド会員じゃない人は名前とか色々書類に書いてもらうよ。会員はカード番号だけで大丈夫。」
「それならメグミがいい。メグミは後で俺に教えてくれよ。」
「うん。……じゃあ、お願いします。」
「はいよ。仕事は明日一日頼むことになるね。明日の朝、ここに来てちょうだい。」
メグミがカードを取り出し受付のおばさんに見せている。心なしか表情が曇っているようだ。
俺たちはカウンターを離れ、ギルドを後にする。メグミは相変わらず俺の手を取っているが何だかスネているようだ。
「メグミ、もしかして解体の手伝いイヤだったか?何なら今からでも俺と代わるか。受付に言えば対応してくれるだろうし。」
「……別にクエストがイヤな訳じゃないもの……」
「んん……そうか……俺も明日は採掘を頑張るよ。」
「ダメ!一人で採掘なんて危ないよ。」
「スラ子もいるけど。」
「えっと……それでもダメ。明日はほかの事してて!」
メグミはギュッと俺の腕にしがみつく。歩き難いし、頭の中がざわざわするし、人目も気になる。しかし、何か言える雰囲気でもなかった。
元祖バクバク亭で夕食をとり、宿に戻る。メグミはかなり距離が近く、その割に口数が少ない。普段の明るい様子からするとちょっと別人のようだ。
宿では正直やることがあまりない。スラ子のおかげで身体を拭くだとか、そういう事はしなくていいし、手入れする道具もない。まあ、メグミはあるだろうが今日は使ってもいないので必要ないらしい。
手持ち無沙汰になり、仕方ないので寝ることにした。
「カヒト、あのね……」
「ん?どうした、メグミ」
「……一緒に寝て……いい?」
「え?だ、駄目だよ。どうしたんだ。」
「だって……ん、何でもない。」
「……何か悩みがあるなら聞くけど。」
「ううん……おやすみ。」
「……ああ。おやすみ、メグミ。」
……断って良かったんだよな?いや、惜しいことをしたとは思うが。
メグミは突然俺に甘えてきてるというか懐いて来た。それは嬉しいが何だか不自然だと思う。
違和感があるのにそのまま流されるのもまずいと思い、煮え切らない態度になってしまった。
メグミは可愛い。前の世界なら俺なんて相手にされないレベルだ。
スタイルもよく、胸が大きい。別に大きいほどいいとは思わないが。
そうでなくてもこの世界で初めて会った人間であり、頼れる仲間だ。仲良くなりたいとは思う。だからこそ考えなしに突っ走りたくない。
親密になるにしても、もっと時間をかけてお互いを理解していきたい。
明日はメグミの話をもっとよく聞いてみよう。
そんなことを考えつつ眠りについた。
「文字の読み書き」のスキルを獲得しました!




