スライムでロッククライミング
カプフェル鉱山、というより洞窟の入口は縦横4メートル程の崖に開いた穴だ。
ランタンをかざしても、暗闇に目が慣れていないのもあって何も見えない。
「入って100メートルくらいは整備してあるし、見回りもしてる。安心しな!」
後ろからドワーフが声をかけてきた。
「行ってくる!」
俺は返事をして歩き出す。
「スラ子、辺りの地形を調べてくれるか?あと、まだ大丈夫だろうけど索敵を。」
「はい、マスター。すでに調べています。地面はおおよそ平らで、歩くのに問題は無いと思います。辺りにモンスターは居ません。」
「さすがだな。ありがとう。」
「スライムはいますね。森よりは圧倒的に少ないですが。」
「スライム……鉱石スライムってやつか。」
「鉱石スライムは人に襲い掛かると言われているようですが、それはおそらく近くにはいません。普通のスライムがいます。」
「ふーん。スライムの食べる物なんかなさそうだけどな。石しか無い。」
「石しか無いのなら石を食べるのがスライムです。」
「なるほど。それはスラ子とは別の種族なのかな。」
「同じだと思います。ただ、食べているものに寄って特性が違うとは思いますが。」
「例えばね、水にいるスライムはほとんど水と見分けがつかないらしいよ。私たちも気づかずに飲んでるかもって。魔女のおばあちゃんが言ってた。」
メグミが言った。それはただの水なんじゃないのか?
「私もそう思ったんだけど、何だっけ……魔素?マナ?が違うんだって。」
「マナ?魔法に関係するものか?」
「うん。魔法にはそのマナを使うとか何とか……詳しくはわからないけど。生き物はみんなそれを持ってるらしいの。」
「魔法に縁のない俺たちにとっては、水も水スライムも同じことか。」
目がだんだん暗闇に慣れてきた。ランタンで壁を照らしてみると所々にボコッとしたへこみがある。
そこに鉱石があったということだろう。
「この辺りは取りつくされてる感じだな。まあ、当然か。」
「うん。奥に行くしかないね。」
「マスター。上に空洞があります。」
「空洞?」
俺はランタンを掲げた。この辺りは天井が高いようで何も見えない。
「人が入れるような空洞なのか?」
「はい。大きな横穴に通じています。」
「カヒト、行ってみようよ。今まで誰も入ったことないなら、鉱石が残ってるよ。」
「そうだと思う。けど、どうやって登るんだ?」
「お二人の手足にいる私が壁にくっつきます。方向は、誘導いたしますし。」
スラ子が言った。それならロッククライミングの経験のない俺でも行けそうだ。
「一応、上から触手を伸ばして俺たちの背中にくっつけておいてくれるか?」
「それは構いませんが。どうするんですか?」
「足を滑らせて落ちそうになった時に触手で支えて欲しい。命綱というんだ。」
「なるほど。わかりました。万が一落ちてしまっても、下でクッションを作ります。」
ランタンはスラ子に持ってもらう。
灯りを高く掲げてもらうと、確かに上に大きな空洞があるのがうっすら確認できた。
俺とメグミはつるはしを袋についているロープで背中に括りつける。スラ子が運ぶと言ってくれるが、何でも頼りすぎるのは良くないだろう。
スラ子の事は秘密なので、人の多い所ではこうはいかない。カプフェルに来たのは結果的に正解だった。
「私、先に行くね。」
メグミがそう言ってスイスイと登っていく。ロッククライミングの経験があるんだろうか?そうだとしても、暗闇であっさりとやってのけるのは感心する。
大して時間もかけずに上から声が聞こえてきた。
「着いたよー!カヒトも早くおいで!」
「わかった!」
命綱のスラ子の触手を握り、ぐっと引っ張ってみる。大丈夫だ。スラ子は引っ張る力にはなかなか強い。
右手で適当な岩の出っ張りを握る。
おおっ!手のひらがぺたりと岩に張り付いた。むしろ引きはがすのに苦労しそう。
左手をより高い位置の岩に当てる。そちらも見事に吸い付く。岩ごと崩れない限り落ちることはなさそうだ。
左足、右足と岩壁につま先を当てるとがっちりと固定された。小さなくぼみすらない壁でも足場にできるのだ。
また右手。岩を握る力を弱めるとすっと離れる。凄い。これならいくらでも登れるだろう。
ずんずん登っていくとランタンが俺の左側に移動した。そちらを見るとメグミが立っている。目線はもう同じくらいの高さだ。
今度は左へ尺取虫のように移動していき、メグミと同じ横穴に足をおろした。
「お疲れ様。」
「ああ、メグミもお疲れ。」
「なんだか楽しいね。コレ。」
「ホントだな。スラ子、助かったよ。ありがとう。」
「スラ子ちゃん、ありがとう。」
「お安い御用です。マスター、メグミさん。」
下を見下ろすが、何も見えない。
「戻るときは、足を踏み外して落っこちないようにしないとな。」
「そうだね。気を付けないと。」
辺りを見回す。この横穴は高さ3メートル程度だ。ランタンの灯りでもなんとか天井が見える。幅は5メートル程か。
「奥はもっと広くなっているようです。足元がかなり凸凹していますので、お気を付けください。」
「分かった。鉱石があるかわかるか?」
「申し訳ございません。鉱石はよくわかりません。」
「じゃあ、ランタンで壁面を照らしながら進んでくれ。足元が悪いところはその都度言ってくれるか?」
「はい、マスター。」
「ロッククライミング」のスキルを獲得しました!




