呑み比べ
「お前がやるんじゃないのかよっ!」
いかにも酒が好きそうな赤ら顔に、俺は思わず言った。
「ワシは強い酒はちょっと……。」
もしかしてドワーフ達は最初から負けるつもりだったのかな?
「……まあいいけど。じゃあ、始めるか。」
目の前に置かれた徳利と手に取り鼻に近づけてみた。
ガツンと鼻を殴られたような衝撃だ。アルコールのがキツイ。ウォッカくらい度数はありそうだ。
水差しは当然水が入っている。これで割って呑めということだ。
俺は徳利の酒をコップになみなみと注ぐ。水は入れない。
「オイオイ!火酒の呑み方を知らんのか?ストレートで呑むなんぞ正気じゃないぞ。」
「気にするな。俺は酒に強いって言っただろ。」
「……どうなっても知らんぞ。……よし!始めっ!」
オオーッ!とオーディエンスが沸く……といった事はなく、周りは特に気にもとめていない。
俺はちらっと無口な男を見ると、相手もこちらを見てうなずいた。
火酒が満たされてたコップを取り、息を止めてチビッと口へ流し込む。……いけそうだ。
コップを傾け、グーッと一気に呑み干した。ふーっと吐く自分の息が酒臭い。
「おおっ!やるじゃないか!」
赤ら顔が言った。その手には2杯目のジョッキがある。俺たちの勝負を肴に呑んでるのか?
無口な男は火酒と水を半々くらいで割って呑んでいる。しかしペースが速い。もう徳利は空のようだ。
俺も自分の分の徳利の中身をコップにすべて注ぐ。徳利はストレートだとおおよそ1杯半の量が入っているようだ。
俺は残りも、ぐっと空ける。
呑むのは問題ないが匂いがキツイ。片手で鼻をつまむ事にした。
「ふーっ。まずは一本。」
俺が言うと。
「こっちもだ。」
無口な男は徳利を振って言った。
「おーい!火酒をもう2本だ!」
赤ら顔が即座に注文した。
「ふーん。なかなかやるじゃないか。あんたの男は!」
女ドワーフがメグミの背中を叩いて言っている。思わず吹き出しそうになった。
「えへへ。すごいでしょ?」
なんてメグミが返す。いや、否定してくれよ。とメグミを見ると、小さく首をかしげている。カワイイなっ、まったく!
「お待たせしました!」
ウェイトレスが来て、ドンドンッと徳利を置いた。水差しは無口な男の分だけを新しいのに交換している。
「よっしゃ!アタシも呑むよ。こっちも麦酒を2杯ちょうだい!あんた!アタシのおごりだ!遠慮せず呑みな!」
女ドワーフも俺たちを肴に呑むようだ。いつの間にかメグミと仲良くなっている。
俺はさっきと同じように徳利の火酒をコップに注ぐ。すぐに2本目も空にしてしまった。
うん。匂いだけでちょっと酔ってしまった。大丈夫かな?
無口な男も大して遅れることなく2本目を空ける。すげえな、この男。
「はい、どうぞ!」
まだ注文していないのにウェイトレスは3本目を持ってきた。
俺は立ち上がり、徳利をガッとつかみコップにも注がずそのまま呑み干した。
やはり酔ってきた。
鼻を摘まんでも漂うアルコールだけでキツイ。
女ドワーフはメグミと肩を組みこっちを見ている。
メグミも酔ったのかほほを染めてニコニコしている。赤ら顔は観念したような顔だ。
ふと横を見ると無口な男はつぶれていた。3本目には手を付けていない。俺は無口な男の3本目もグーッと空けた。
「よし!俺の勝ちだ!」
危ねえ、こっちももうクラクラしている。次があったらヤバかったかも。
俺は倒れるように椅子にドスンと座り、一言つぶやいてから水差しの水をコップについで飲んだ。
酒のではなく、水が入っていたコップだ。
「まいった!おれたちの負けだ!」
赤ら顔が言った。まいったという割には満面の笑みだ。
「あんた。大丈夫か?」
俺が無口な男に声をかける。男はのそりと腕を突き出して水差しをつかみ、そのままあおった。どうやら平気そうだ。
男が無言で右手を出してきた。少し考えて、俺はその手を握る。
握手だが……イテテテッ!力いっぱい握りやがって。
「約束だ。あんたらにはずっと道具のレンタル代はタダにしてやる。」
「ありがとう。ついでに聞きたいんだが、鉱山の事を教えてくれ。」
「ああ。どうせ説明はするつもりだった。いいか、この街の3つの鉱山はだな、鉱山とは言っているがただの洞窟だ。3つの鉱山……つまり洞窟はそれぞれ別の方角に伸びている。」
「洞窟?」
「元々あった洞窟だ。空洞の壁に鉱石や水晶なんかが露出していてな、それを掘り出してるんだ。」
「じゃあ、鉱脈を見つけて人が掘った訳じゃないのか。」
「そうだな。鉄が出やすい場所、銅が出やすい場所というのはあるがな。そして洞窟の壁を掘って新しいトンネルを作るのは禁止されてる。これは、どの鉱山でも同じだ。」
赤ら顔が言う。
「それだと、もう何も残ってないんじゃないか?掘り始めてどのくらい経つのかは知らないが。」
「洞窟は広い。一番小さいといわれるカプフェル鉱山でもすべて探索しつくされたわけじゃない。」
「それに、トンネルアントが新しいトンネルを掘ることがあるのさ。あと数百年は採掘できるよ。」
女ドワーフが補足する。
「トンネルアントは掘っていいのか……まあ、ダメといってもしょうがないだろうけど。」
「アリンコどもは崩落しない所しか掘らないからね。むしろありがたいくらいだよ。」
それなら安心だ。
「鉱山の持ち主がいるわけじゃないのか?」
俺が聞いた。
「持ち主なんぞいない。鉱石でもなんでも、掘ったらそいつの物だ。ただし冒険者が鉱石を持っていてもしょうがないからな。鉱山の出入り口でそれを買い取る業者がいる。」
「道具のレンタルっていうのはその買取業者がやっているのか?」
「その場合もある。俺たちがそうだな。レンタル専門もいるが、そっちの方が高い。」
「そうなのか。なんでだ?」
「買取業者からレンタルした場合は、その道具を使って採掘したものはすべて借りた業者に売らなければならん決まりだ。その分レンタル代は安くしてたり、タダにしてたりする。」
「その分というか、要するにレンタル代が安かったりタダの場合は鉱石の買取金額が下がるんだろう。あんたらもそうするつもりじゃないのか?」
「そ、そんなことは……ない!」
「わしらは元々買取金額は低い。さらに下げたりしない。」
無口な男が言う。別に自慢できることじゃないな。
「まあいいか。レンタルできる道具ってどんなもの?」
「つるはし、袋、ランタンだ。特別にランタンの油もつけてやる。最初だけな。」
……しょうがない。油は消耗品だからな。
「じゃあ、明日行くよ。メグミ、そろそろ宿に戻ろう。」
「うん!」
「ああ。ちょっと待て!」
食事代を払っている俺たちを赤ら顔が呼び止める。
「酒の代金だが。」
「あんたがおごってくれるんだろ?」
「呑み比べの分はな。だが、お前さんが最後に呑んだのは勝負が終わった後だ。火酒一本分は払えよ。」
「……」
俺は黙ってウェイトレスに火酒一本分の金を渡す。
「メグミが呑んだ麦酒はアタシのおごりだからね。」
女ドワーフが声をかけた。
「ありがとう。ご馳走様。」
「じゃあ、明日な。」
ドワーフ3人組に別れを告げ、おれたちは宿に向かう。
もう外は真っ暗だ。
街灯のようなものはないが、建物から漏れる灯りで通りを歩くのは問題ない。




