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スライムは茹でられる?

 狼との戦いと、その後始末が済んでやっと一息ついた。


「スラ子。さっきのように、敵に突然襲われた時は電撃ボールで迎撃するようにしてくれるか?」

「はい、マスター。もちろんそのようにいたします。」

「ただ、相手に敵意が無いときは電撃はやめてくれよ。」

「大丈夫です。」

「あと、メグミも同じように守ってやってくれないか?メグミは強いけど、不意打ちって事もあるだろうし。」

「メグミさんについているスラちゃんは小さいので、そこまではできないかもしれません。」

「うん。だから、スラちゃんを俺についてくれている程度の大きさにしてやって欲しい。」

「えっと。私は大丈夫だよ。そんなの、スラ子ちゃんが大変でしょ?」

「別に大変ではありません。マスターのお望みならそう致します。メグミさんさえよろしければ。」

「ホントにいいの?……それなら、お願いしようかな。」

「では。」


 メグミのいる辺りの地面がじわっと動いたような気配がした後、メグミの肩にソフトボールほどの玉が現れた。

 透明な球の中に黒い点が二つ浮かんでいる。その点が(またた)いた。

「こちらの私は「スラちゃん」とお呼びください。」

 玉が言った。

「なるほど。……よろしくな。スラちゃん。……スラ子。スラ子は分裂してるんだよな。」

「そうですね。私とスラちゃんはつながっていませんので。」

 俺の肩のスラ子が言った。誰がしゃべっているのか、大変ややこしい。

「そうすると、スラ子とスラちゃんは別の個体ということなのか?」

「……別……ではありませんね。……私はスラちゃんを自分だと認識しています。」

 スラ子が言う。

「私はスラ子の分裂体です。スラ子の一部がスラちゃんだと思います。」

 今度はメグミの肩のスラちゃんが言った。

 ややこしい。が、スラ子はどんなに分裂してもスラ子のままであるらしい。考えたくはないが、分裂して本体が死んでしまったらどうなるのだろう。


「すごいね。体中暖かいよ。ありがとう。スラちゃん。……ところでさ、カヒト。スラ子ちゃんの事は、他の人には秘密にしておいた方がいいと思うよ。」

「え?そうなのか。」

「うん。スライムって一応モンスターだし。変なこと考える人もいるかもしれない。」

「ふーん。わかった。スラ子、他人がいるときは姿を見せないようにしてくれ。話すときは、耳の中でな。」

「了解しました、マスター。」


 休憩を終え、俺たちは出発した。狼の顎はナイフで穴をあけ、皮ひもを通してバックパックにぶら下げている。

 メグミはスラ子の防寒能力に驚いたようだ。上着を脱いで仕舞っていた。

「……そろそろ日が暮れそうだな。鉱山の街はまだ遠いんだろうか。」

「ギルドで聞いたのは、『歩いて1日』って話だから、もうそろそろだとは思うけど……」

「さっきの騒ぎで結構手間取ったからな。着くのは暗くなってからかな。」

「日が落ちたら、それ以上は動けないよ。何にも見えなくなるからね。下手すると川に落っこちたりして。」

「あー、そうか。じゃあ、キャンプするしかないかな。」

「うーん……私、そんな用意してないんだよね。」

「心配ないさ。スラ子がいるんだから。」

「その通りです、メグミさん。お任せください。」

 スラ子はそう言うと、地面からするするとテントが生えてきた。

 三角にぴんと張ったかと思ったら、へたりと潰れた。まだ支柱を作るのは無理だという。

「気が早いな、スラ子は。メグミ、もうちょっと進むか?」

「ううん。もう準備していいと思う。」

「わかった。俺はテントの支柱になる枝と、焚き木を拾ってこよう。」

「あ、私も行くよ。」


 俺たちはバックパックを木の根元におろす。

 その後森へ入り落ちている木の枝を拾ったり、低木の枝を折り取って焚き木を確保した。

 別に夜通し火を焚く必要は無い。適当な量を集める。


 火打石の使い方を改めてメグミに教わりながら火を点ける。なかなか難しい。

 この、火打石の火花を使って敵に炎を浴びせたりできないだろうか。スラ子が何らかの可燃物を投げつけ、それに引火させる。

 ただ、できたとしても危険な攻撃だ。周りに火が付いたらどうするのか?自分や味方を燃やしてしまう可能性もある。まあ、おいおい考えよう。


 手こずった末、なんと焚火と言えるくらいになったときには、もう日が暮れていた。

 ナイフで適当な枝をとがらせ、スライム団子を刺して焚火で(あぶ)られるように地面に突き刺す。

「スライム団子を茹でられればいいんだがな。」

「マスター。『茹でる』とは何ですか?」

「えーと。熱くなった水をお湯というんだが、食材をお湯に入れて加熱する事を茹でるというんだ。茹でるには鍋が必要だな。メグミ、持ってないかな?」

「無いよぉ。街の外での食事で、茹でることなんて普通はしないと思うよ。」

「マスター。私が鍋になってみましょう。鍋とは水を溜める器という事ですよね。」

「ええ?でも、鍋は火に炙られるんだぞ。スラ子が蒸発しちゃうだろう。」

「頑張ってみます!」

 スラ子が焚火の上で、真上にある木の枝からぶら下がり大きめのお椀のような形になった。その中にいつの間にか水が満たされている。

「ちょっ……無理するなよ!」

「大丈夫です。まずはこの水をお湯にしましょう。」

「……」

 本当に大丈夫なのか?メグミも心配そうにしているが手を出しかねている。

 無理やりやめさせるのも悪いし。


 10分ほどたったが、見た目には変化はない。

「お、お湯になってるか、見てみよう。」

 俺はそういって鍋スラ子の中の水に指をちょっとつけてみた。

 ……水だ。多少は温まったかもしれないが、このペースではお湯になる前に夜が明けてしまう。

「スラ子、水は温まってないな。スラ子の、火があたっている所は蒸発しちゃってるんじゃないか?」

「……すみません、マスター。確かに私自身が蒸発してしまって少し細胞が死んでいます。……これではお湯になりませんね。」

「うん!やめよう!俺もスラ子を犠牲にしてまでやりたくないよ。鍋は街で買えばいいし。」

「……悔しいです。いつかきっと、茹でられるようになります!」

「あ、ああ。……せっかくだからその水は飲ませてもらうよ。スラ子。コップになってくれるか?」

「はい、マスター。メグミさんもどうぞお飲みください。」

「スラ子ちゃん、ありがとう。」

 鍋だったスラ子の一部が分離し、コップになって俺とメグミの手に渡された。飲んでみると少しは暖かかった。


「スライム団子も焼けたな。メグミ、食べてみてくれ。スラ子、いただきます。」

「いただきます。スラ子ちゃん。」

「はい。お召し上がりください。」

 うん、うまい。

 今回は焦げ目がつくまで丁寧に焼いたのでとても香ばしくてうまかった。

 ぼそぼそした感じもなくなるため、断然加熱したほうがいい。

「わっ!おいしいっ!」

「うまいな。これで醤油でもあれば完璧だけど。」

「ショーユ?」

「まあ、何かしら味付けがあったらなって事。このままでもうまいけど。」

「私に、味というものが分かれば何かできるかもしれませんが。」

 とスラ子が言う。

「そのうち分かるようになるかも。ただ、他の事に比べて優先度は低いよな。」

 夕食にはメグミが持っていた干し肉も炙って食べた。塩辛いがうまい。身体が塩を求めているのを感じる。

 メグミはやっぱり結構食べる。俺も今日はかなり空腹だったので沢山食べた。それでもスライム団子の残りはまだまだある。


 食事をしてしまうともう寝るだけだ。と言っても、交代で見張りをする必要があるので、一人一人の睡眠時間が長すぎるということはなさそうだ。

「まず、私が見張りをするよ。適当な時間でカヒトを起こすから、交代ね。」

「ああ。分かった。」

「マスター、メグミさん。見張りでしたら私がずっと出来ます。」

「いや、スラ子も休め。俺の次にやってくれたらいい。」

「ありがとうございます。ですが、私は眠る必要がありませんので。」

「そう言えばちゃんと聞いてなかったが、スラ子は寝ないのか?」

「正確に言うと、それぞれの細胞が交代で休んでいます。運動や発電をした後は休憩が必要ですが、夜の間は何かしているわけではありませんので大丈夫なんです。」

「なるほど……でも、今日はメグミの言う通り交代で見張ろう。今後の事はまた考える。」

「かしこまりました。マスター。」

「スラ子ちゃんはほんとに頼りになるね。カヒトが羨ましいな。いいパートナーがいて。」

「ホントだな。いつもありがとう、スラ子。」

 スラ子がゆらゆらと揺れている。この喜びの表現も久しぶりだ。


 俺はメグミに見張りの礼を言いテントに入る。

 本当は年長者の俺が先に見張りに立つべきだろう。しかし、メグミは冒険者の先輩としてこの臨時パーティーのリーダーとして振舞ってくれている。リーダーに先を譲るのがいい。

 テントは街道からは木の陰になっている場所に張り直した。やはり一人用サイズの小さなテントだ。スラ子が変形してくれているだけなので、大きくなることもできるはずだがこのままでいいだろう。

「おやすみ、スラ子。何かあったら遠慮なく起こしてくれ。」

「かしこまりました。おやすみなさい、マスター。」

 メグミがスラちゃんと何かを話しているようだ。まだ理解できない言語を子守唄に眠りに落ちた。


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