スライムは戦いの解説をする
俺はナイフを拾い上げた。
ズキンッと痛みが肩に走り、思わずナイフを落としてしまった。
「マスター。大丈夫ですか?」
「あ、ああ。いきなり物を投げたから肩をちょっと痛めたらしい。大したことないよ。」
「そうでしたか。申し訳ございません。索敵担当を水汲みにやってしまったため……本来なら近づかれる前に私が倒してしまうべきでした。」
「そんなことない。俺だって戦えるさ。まあ、即戦力って訳にはいかないかもしれないが。」
実際、ナイフを構えてみても、それをどうしていいのかさっぱりわからなかった。
実戦で鍛えればいい とぼんやり考えていたが、いざとなるとてんでダメだ。スラ子とメグミがいなかったらどうなっていたか。
後ろではメグミがすでに狼の解体を始めていた。そばに行ってそれを眺める。
狼の耳の下辺りにナイフを入れ、ぐりぐりと何かを切っている。その後、下顎を持ち勢いよく引っ張った。
ボキッと音を立てて顎が外れる。つながっている皮も切って完了らしい。
「こうやって下顎だけ外すの。いつもなら頭ごと持ち帰るんだけど、今回はあんまり荷物を増やしたくないからね。」
「ふーん。毛皮とか、肉とかはいらないのか?まあ、肉は少なそうだけど。」
「え?牙ウルフから毛皮を取るの?」
「取らないのか……いや、せっかくあるんだから、と思ったんだが。」
「うーん……私もちょっと自己流な所あるから……」
「すまん。毛皮の剥ぎ方もわからないし、メグミの言う通り下顎だけ取ることにしよう。」
「うん。必要なのは牙だけなんだけどね。ここで牙だけ抜くのは大変だから。傷つけると価値が落ちちゃうし。」
「だから『牙ウルフ』か。」
メグミは自分が倒した3頭を解体するようだ。俺も自分の分をやってしまおう。
「マスターこちらの狼はまだ息があるようです。」
スラ子が電撃を浴びせた狼だ。感電ではすぐに死んだりしないのだろうか。
「ナイフを貸していただければ、とどめを刺しますが。」
「いや、俺がやる。」
目の前に倒れている狼の首にナイフを当てる。
震える腕を抑える。くそっ、しっかりしろ!
ぐっと体重をかけ、一気に頸動脈を切り裂いた。ドッと血があふれる。
鼻をつく血の匂い。思わずこみあげて来そうになる。
……いや、今は考えないことにしよう。
次に、メグミがやっていたように耳の下辺りにナイフを入れ顎の筋肉を切る。思ったよりもずっと硬い。
ぶちぶちと筋線維の断ち切る感触が手に伝わってくる。
「そうだ、スラ子。色の話だが、狼の血が赤色だな。」
今自分がやっている事を余り考えないようにしたくて、スラ子に話した。
「なるほど、この色が赤色ですか。分かりました。少し取っておいてもいいでしょうか?」
「……どうかな?まあいいか。ちなみに、血は空気に触れているとだんだん赤黒くなってくから気を付けて。」
「はい、マスター。」
「そういえばスラ子。さっき、しっかり見てなかったんだが、この狼達はどうやって倒したんだ?」
「はい。まず最初に倒した狼ですが、マスターの見事な投球がワンバウンドで命中しましたので、その瞬間電撃を浴びせました。」
2投目で倒した狼の事だ。
「ああ。……あれはスラ子が狙って跳ねてくれたんだろう?」
「……多少は。次にマスターに飛び掛かってきたこの狼ですが、戻ってきた索敵担当が地面から触手を伸ばし、張り付いてから電撃です。」
「なるほど。」
電撃は強力だが空中にいる敵には効果がない。地面と接していないと電気が流れないからだ。
スラ子は地面と敵を触手で繋ぐ事で、この弱点を克服した。
さすがはスラ子だ。しかし、敵が触手の届かない上空にいるときはまた別の手を考えなくてはいけないだろう。
「最後の1頭は、マスターが最初に投げられた電撃ボールが木の枝に当たりましたよね。それが落ちて、あの狼の背中に乗ったというわけです。」
「そうだったのか。『電撃ボール』とは言いえて妙だな。これからそう呼ぶことにしよう。」
「はい。最初の電撃ボールを枝に投げ敵を油断させるところなど、素晴らしい戦術でした。」
素晴らしい戦術だったらしい。もちろんそんなつもりは全くなかった。
俺が苦労して2頭目から下顎を引きはがした時には、メグミは自分が倒した3頭と、木に激突した狼もすでに処理を終えていた。さすがに手際がいい。
急ごうと思い最後の1頭に近づいた時、そいつがよろよろと立ち上がった。
俺はとっさに身構える。しかし、そいつに戦意はなさそうだ。
尻尾を後ろ脚の間に挟み、目には怯えの色が見える。
狼が襲ってくる気配はないと分かり、俺は力を抜いた。
狼はふらりと踵を返し、力ない足取りで森の中に消えていった。
振り返るとメグミがこちらを見ている。
「すまん。1頭逃がしてしまった。」
「うん。私も襲われたら倒すけど、逃げようとしてる子まで殺したくないから。」
「そうだな……。ところで、はぎ取った残りはどうする?このままでいいのかな。」
下あごのない狼の骸がいくつも散らばっている。なかなか凄惨な様相だ。
「ほっとくと街道に他のモンスターが集まってきちゃうからね。ここなら、川に流しちゃおう。」
俺たちは狼の足をつかんで引きずり、川へと落とした。
俺とメグミは、苦労して1頭ずつ運ぶ。かなりの重労働だ。
しかしスラ子は一度に3頭をずるずると引っ張っている。
とんでもない力だな、と思っていると、索敵担当が地面に薄く広がることで滑りをよくしているらしい。
俺たちが運んでいる狼にもやってくれ。と言うと、すでにやってくれているそうだ。
それでこの重さか。
全てを川に落としてしまうと俺とメグミは座り込んでしまった。ぜーぜーと荒く息を吐く。冷たい空気が心地良い。
スラ子は俺の全身を包んで防寒してくれているが、体温が上がりすぎた時などは離れてくれる。




