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スライムとその一行は狼を倒す

「牙ウルフだ。手強いよ。」

 メグミが言った。

 狼か。


 確かに、犬よりも二回りはでかい。

 見える範囲だけで6頭。俺たちを囲むように展開している。

「私が倒すから。カヒトは自分を守る事だけを考えて。」

「わ、分かった……」


 俺に戦闘経験がない事はメグミには言っている。別に守ってもらおうと思ってそう言った訳ではないが。

 せめて背後から襲われないように。と、メグミと背中合わせになる。

 牙ウルフたちはじりじりと包囲の輪を狭めてくる。同時に襲い掛かってくるつもりか。

「マスター。私を敵に投げつけてください。」

 耳の中でスラ子が言った。同時に肩のマスコットスラ子がぽよんっと跳ね、ナイフを持った俺の手に乗る。


 え?なんだ?

 突然の実戦で、俺はまともに物を考えることが出来なくなっていた。

 現実感がなく、まるで他人事のようにスラ子の言ったことも右から左へと抜けていった。

「マスター!!しっかりしてくださいっ!!!」

 スラ子が、今度は周りに響き渡るような大きな声で怒鳴る。狼たちもビクッと少したじろいだ。

「さあ!投げてください!!」

 手の中のマスコットスラ子の目が吊り上がってこちらをにらむ。くそっ!やってやる!


 目の前の1頭に向け、大きく振りかぶって投げつけた。スラ子はテニスボール程度の硬さになっているため投げやすい。

 大暴投。俺が投げたスラ子は的のはるか上空を飛び、木の枝にぶつかる。


「さあ!次です!」

 いつの間にか俺の手には今投げたはずのスラ子が現れた。バックパックか何かになっていた部分が移動してきたのだろう。

 第2球。惜しい。投げつけたスラ子は狼の足元に落ちた。ただし、狙っていたのとは別の狼の。

 そして落ちたスラ子はおかしな角度で跳ね返り、1頭の牙ウルフの首のあたりに命中した。


 その瞬間。

「ギャン!!!」

 そいつは押しつぶしたような悲鳴を上げて飛び跳ねた。そのまま頭から着地。

 だらしなく開いた口からは長い舌と共に泡を噴き出している。気を失ったらしい。

 その様子を見ていた別の狼は驚愕し、警戒を強めたようだ。しかし逃げ出そうとはしない。


 1頭が意を決したように俺に向かって飛び掛かってくる。

 情けないことに俺はひるみ、左手に持ったナイフを取り落として頭を抱えてしまった。

「ギャバ!!ガッ……!」

 頭の上でおかしな声がする。

 恐る恐る目を開けると、目の前に狼が転がっていた。4本の足をぴんと伸ばし、裂けたように口を開いたまま横倒しになっている。

「ギャッ……ギャギャンッッ」

 右の少し離れたところからさらに悲鳴。そちらを見ると背中にスラ子を乗せた狼が頭を激しく振っている。

 スラ子を振り払おうとしているようだ。

 しかし、ビクンッと体を硬直させて、その場に崩れ落ちた。


 どうやらスラ子がやってくれたらしい。牙ウルフたちの体にくっつき、電撃を浴びせたのだ。

 豆粒程でも首筋に喰らえば気絶する電撃だ。

 ボールサイズのスラ子が本気を出せば、たいていの動物はひとたまりもないだろう。


「カヒト!大丈夫?!」

 後ろから声を掛けられた。驚きすぎて心臓が口から飛び出そうだ。

 振り向くとメグミが息を切らし、こちらを向いている。足元には狼の死体が3つ、血を流して転がっていた。

「あ……ああ。何とか……メ、メグミは?」

「大丈夫!これくらいはね。それより、すごいじゃない!戦うの、初めてなんでしょ?!」

「いや、すごいのはスラ子だ。俺は何もできなかった。……情けない。」

「スラ子ちゃんが?」

「いいえ!マスターはすごいです!マスターに電気の事を教えて頂かなかったら勝てなかったでしょう。」

「デンキ?って何?」

 メグミがそう聞いてくる。翻訳する前の言葉も「デンキ」だ。対応する語が無いのだろうか?

「えーと……。どう説明すればいいか……」

 メグミは剣に付いた血をぬぐっている。そんな様子を俺はぼんやりと眺めていると、視界の隅を何かが横切る。


 狼だ。

 同じ群れの牙ウルフだろうか。すごい勢いでこちらへ走ってくる。メグミを狙っているのか!

「メグミ!危ないっ!!」

 俺はとっさに投球フォームになる。いつの間にか、また右手にはボールのスラ子が乗っている。

 目をそらさず、狼に向かってスラ子を投げた。今度こそ!

「……!」


 命中!

 投げつけたスラ子は狼の胸元に吸い込まれるように当たった。同時にスラ子の電撃が狼の意識を奪い取る。

 走ってきた牙ウルフはそのままの勢いで木の幹にぶち当たった。

 骨の2,3本は折れていてもおかしくない、盛大な音を立て牙ウルフはその場に落ちる。


「……」

「……何……?今の……?」

 メグミが呆けたようにつぶやいた。スラ子の攻撃をしっかり見ていたようだ。

「い、今のが……デンキなの?」

「はい!マスターのご教授の賜物です!」

「す、すごいよ!あれって魔法なの?!」

「い、いや。魔法とは違うよ。」

 まあ、魔法にも電気を発生させるものがあるかもしれないが。

「スゴいよ、カヒト!ホントに!」

「うん。……やっぱり凄いのはスラ子だよ。俺が教えたって言っても、スラ子じゃないとできない事だし。」

「でも、私だったら教える事も、実際やるのもできないもん。だから、二人ともスゴいって事!」

「……ありがとう。」

「ありがとうございます、メグミさん。メグミさんも、瞬く間に3頭の狼を倒してしまいました。感服です。」

「確かに。剣の腕に自信があると言っていたが、本当だったんだな。」

「もう!信じてなかったの?!」

「すまん。そうじゃないんだけど。」

「フフフ。さてと、狼たちから素材を集めちゃおうか。」

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