鉱山の街バクバクへ向け出発
「マスター。メグミさんが街を出たようです。」
「そうか。あ、メグミは俺たちがここに居るって分からないよな。」
「メグミさんについているスラちゃんは私の場所がわかるはずです。ここへ誘導するでしょう。」
「なるほど。便利だな。」
川岸の道で待っていると街の方に人影が見えてきた。真っすぐこちらへ向かってくる。
俺に気付いたようだ。手を振って走ってくる。
別にそんなに急がなくていいと思うが。俺も手を振ってメグミがやってくるのを待った。
「はあっはあっ……お待たせ!じゃ、行こっか!」
「ああ。」
「そうそう。スラちゃんが、カヒトたちがここにいるって教えてくれたんだよね。すごいよね。」
「俺もスラ子にはいつも助けられてるよ。」
「マスターにそう言ってもらえると嬉しいです。」
道を川上に向かって歩いていく。
「そうそう。はい。ナイフと、火打石セット。あと、お釣り。」
「ありがとう」
受け取ると、ナイフは刃渡り20センチはある。キャンプ用品のナイフではなく戦闘用のショートソードに近い。これは腰に下げておこう。
火打石は鋭くとがった石だ。黒曜石か何かだろう。金属の板のようなものと小袋もセットになっている。
「これは、どうやって使うんだ?」
「え?知らないの?」
「すまん。別の世界から来たばかりだから。」
「そうだったよね。えっとね。この金属は火打ち金っていうの。こうやって火打ち金を火打石で勢いよく削り取ると」
メグミが実演すると盛大に火花が飛んだ。
「おお!すごい!」
「それで、袋の中に火口があるから、火花でこの火口に着火して使うの。」
「なるほど。後でやってみよう。」
メグミは思ったより大きな荷物を背負っていた。重くないのか?
川沿いの道を上流に歩いてしばらくすると道は藪の中に入っていった
道は固められている。
歩き難いことはないが、背丈ほどの低木が道の両側に茂っていて視界が悪い。
「スラ子。周りの様子はわかるか?」
「はい、マスター。私の分裂体が索敵担当として周辺におります。ただ、藪のせいで移動速度が遅くなってしまいます。」
「俺たちが歩く速度は早すぎるか?」
「このくらいなら何とかなります。ですがもう少し早くなると索敵担当はついてこれなくなります。」
「分かった。遅れそうなら言ってくれ。」
途中、昼食ついでに休憩をとった。
メグミは黒パンと干し肉を持っていたが、それは後の為にとっておく事にした。
スライム団子を食べる。スラ子は出発前に大量に作っていたようで、俺の背負っているバックパックはほとんどスライム団子で埋まっている。
「少し張り切りすぎてしまいました。」
「スラ子ちゃん、私はスライム団子好きよ。いただきます。」
「俺も、ありがたいよ。スライム団子のおかげでこうして生きてるからな。」
「はい、ですが街には他にも食べ物がありました。今後はそういった物もご用意したいと思います。」
「ありがとう。あんまり張り切り過ぎないようにな。」
ただでさえ何もかもしてもらっているのに。
「所で、メグミ。この世界には、魔法があるんだよな?」
「モグモグ……魔法?うん、もちろん。」
「メグミは魔法使えるの?」
「私?!ムリムリ!私なんかに使えるわけないよ。」
「あ、そうなのか……メグミの知り合いで使える人は?」
「私が下宿してたお店のおばあちゃんが魔法薬を作ってるらしいけど、他の人は知らないな。魔法使いはかなり珍しいよ。……子供のころに一度、魔法使いが街に来たって噂になったことがあるかな。」
「魔法薬っていうのは、魔法で薬を作るの?」
「私は作っている所を見た事ないけど、多分そうだと思う。でも、おばちゃんは『炎でモンスターを倒す!』みたいな魔法は使えないんじゃないかな。」
「ふーん。」
「そういう魔法使いは、大体はすっごい貴族のお抱えになってるって聞くね。」
「地方には来ないってことか。」
「うん。王都に行けば、それなりにいると思うけどね。」
「魔法は生まれつき素質が無いとダメなのかな。それとも教育を受ければ使えるようになるとか。」
「うーん……どうかな。でも、モンスターの中には魔法を使うのもいるらしいよ。」
モンスターが教育を受ける事はなさそうだ。ただの偏見かもしれないが。
そうすると、魔法の素質が必要なのか。
「そうか、残念だな。魔法、使いたいのに。」
「マスターなら使えるようになります。」
「ええ?なんで?」
「マスターはスゴいですから!」
「そ、そうか。……頑張るよ。」
「私も使えるなら使いたいけどね。」
「じゃあ、一緒に魔法使いになるか。」
「アハハッ。それもいいね!」
毒にも薬にもならない会話。
「そろそろ出発するか。」
「うん!」
さらに歩き続けると藪は少なくなり、代わりに木が増えて森になった。
道は歩きやすいが、人通りはほとんどない。昼前に2人組と挨拶をしてすれ違っただけだ。そして俺たちを追い越していく人は居なかった。
「ふつうは冬になる前に移動するから。」
とメグミが言っていた。
道に沿って流れている川幅は狭くなってきた。おおよそ30メートル程か。
水深はかなり深そうだ。流れも速くなってきている。
河原はなくなり、川岸は崖になり水面まで5メートル程落差がある。水を汲むのも苦労しそうだ。
「マスター。川へ水を取りに行ってもよろしいでしょうか。今補給しておいた方がいいと思います。」
「そうか。でも、大丈夫か?落っこちたりしないよな。」
「私はスライムですから。岩に張り付くのはお手の物です。」
「分かった。行ってきてくれ。メグミ、少し待ってくれ。スラ子が川の水を汲みに行くそうだ。」
「うん!」
昼食のとき、メグミもスラ子の水を飲んでいる。メグミも水筒を持っているが、いざという時の為にとっておいた方がいいだろう。
ただ、水筒の水はあまり長持ちしないそうだ。悪くなる前に飲んでしまうか、そうでなければ思い切って捨てることも多いらしい。
スラ子の本体(俺を覆っている分プラス、服やバックパックになっている分)は変化ない。索敵担当が水を汲みに行ったようだ。
少し腰を下ろし休憩していると、メグミが叫んだ。
「何か来た!」
同時にぱっと立ち上がり、腰の剣を抜いている。バックパックは休憩なので下ろしていた。
俺も立ち上がり、腰につけていたナイフを抜き構える。モンスターの襲撃か……
自分の心臓の音がやけにうるさい。
メグミの警告から何分も経ったような気がしたが、実際は10秒程度だっただろう。
森の中から数頭の獣がゆっくりと姿を現した。




