オオニワトリの解体と冷凍に挑戦
オオニワトリを試食した。
「これで具合が悪くならなければ大丈夫だと思う。というか、大丈夫だろ。」
「じゃあ、解体しちゃおうか。」
「そうだな。スラ子、オオニワトリを吊り上げて、血抜きをしてもらっていいか?」
「はい、マスター。既に血抜きは済ませております。羽根が汚れないように。」
「そうか。ありがとう。」
「熊の時と同じように皮をはぎますか?」
「いや、トリは皮も食べちゃうからいいんだ。細かい羽毛とかをきれいに抜いてくれ。」
「かしこまりました。」
首を落とし、腹を裂き、内臓を取り出す。
「メグミとツムギで、肉は適当に切っておいてくれ。俺は内臓の方をやる。」
トリの内臓と言えばハツ、レバー。あとは砂肝が食べられる。それ以外はやっぱり良く分からない。スラ子に食べてもらおう。
砂肝は名前の通り、中に砂が入っている。切り開いてスラ子にきれいにしてもらった。
肉の切り分けも順調に進んでいる。特に硬そうには見えないが、スラ子はスライムナイフを超振動させているらしい。
「すごいすごい!スイスイ切れるねっ。」
「すごい!楽しいっ!」
「恐れ入ります。」
「こんなに切れ味が良いと、武器としても攻撃力高いだろうね。今度、スラ子ちゃんに剣になってもらおうかな。」
「ええ。私も興味がありますね。」
「スラ子さんの切れ味でメグミさんが使い手だったら、怖いものなしだね。」
スラ子が変形してできたトレイに山盛りの鶏肉が積みあがった。
頭と足、いわゆるモミジが残る。それはスラ子に食べてもらおう。
「かなりの量になったな。」
「うん。オオニワトリの大きさって、普通に立ってたらツムギちゃんの背丈くらいだからね。。」
「当分お肉に困らないね。」
「そうだな……。しかし、さすがにこの量は……食べきる前に傷んでしまう。」
運ぶのは問題ない。馬車のおかげで。
「干し肉にするのはどうかな。」
と、メグミが言う。
「なるほど。作り方は分かるのか?」
「うーん……。干せばいいんじゃない?」
「……。冷蔵庫があればなぁ。」
俺が言う。メグミのセリフは聞こえなかったふりをして。
「レーゾーコ。カヒトさん、それはどういうものなの?」
と、ツムギが言う。
「食べ物を保存するための箱だ。中身を冷やす仕組みになってる。冷えてると傷みにくいからな。」
「スラ子さんは、冷やすことは出来ない?私たちを暖めてくれてるんだし、似てるんじゃないかな。」
「流石に暖めるのと冷やすのは違うだろうけど……。」
「マスター。マスターに必要なものであれば、私が作りましょう。」
「うん。ありがとう。でも、モーターを作って貰ったばかりだからな。疲れてないか?」
「大丈夫です。それに、マスターのお役に立てるのなら疲れなど何でもありません。」
「よし!じゃあ、やるか。」
「もー!干せばいいって言ってるのに!」
と、メグミが叫ぶ。まだ干し肉の事を引きずっていた。
「わ、分かった分かった。メグミとツムギで頼む。もし冷蔵庫が出来たとしても、これ全部仕舞っておくなんて無理だろうからな。胸肉とか、脂分の少ない所は干し肉にしてくれ。スラ子も余力があったら手伝ってやってくれ。」
メグミ、ツムギ、スラ子の一部は作業を始めた。漏れ聞こえてくる話からすると、干し肉というより、燻製を作るらしい。
胸肉を薄切りにして塩胡椒を擦り込み、乾かす。少し乾いてから燻製にする計画らしい。
スラ子に燻製器になってもらい、やや暖かいくらいの温度でじっくり燻せば長持ちするだろう。
俺はスラ子を冷蔵庫にする方法を考える。
冷蔵庫、と言うか、物を周囲の温度よりも冷やす方法で、俺が知っているのは二通り。一つは冷媒を使う方法。もう一つはペルチェ効果を使う方法。
しかし後者のペルチェ効果の事はさっぱり分からない。
なんか、電気を流すと片面が冷えてもう片面が温かくなる、「ペルチェ素子」と言うものがある。という事だけしか知らない。流石に名前しか分からないものをスラ子が再現できるとは思えない。
と言う訳で冷媒を使った方法を考えよう。そっちなら大まかには分かる。
冷媒とは読んで字のごとく冷たさを媒介するものだ。良く知られている冷媒としてフロンガスがある。もっともフロンガスは人工的に合成された化合物なので、この世界には存在しないはず。
フロンガス以外の冷媒としては、二酸化炭素、窒素がある。これはこの世界にも有るだろう。俺は普通に呼吸してるから二酸化炭素は間違いなくある。
二酸化炭素は、低温だとドライアイスになってしまい扱いが面倒だ。窒素の方が扱いが楽だろう。
窒素は空気中に沢山あるし、液体窒素はマグロを急速冷凍するのにも使われている。
まあ、普通の冷蔵庫は当然、液体窒素なんて使っていない。液体窒素を作るのは時間もエネルギーも掛かる。しかし、スラ子だったらある程度楽に作れるんじゃないだろうか。
「スラ子、前に断熱圧縮で火を付けようとしたことがあっただろう。」
「はい、マスター。あの時はまだ鉄スライムや石スライムと融合していませんでしたので、硬さが足りず、失敗してしまいました。」
「うん。あれを、改めて挑戦してほしい。ただし、今回は火をつけるのが目的じゃない。空気を圧縮することだ。」
「はい。」
「空気を圧縮すると、高熱が発生する。逆に、圧縮された空気が膨張すると冷える。この理屈を使って物を冷やすんだ。」
「それが冷蔵庫ですか。どのようにして、空気を圧縮したらいいでしょうか。」
「そうだな……前に教えたように、筒の中の空気を、筒の内径に合わせた棒で押し込んで圧縮するか……いや、まずはモーターをつかった空気圧縮機を作ってもらおう。」
回転すると、空間の容積が小さくなる仕組みを作る。吸気、圧縮、排気を連続で行えるため、効率的だろう。排気先の、圧縮した空気を溜めるボンベも必要だ。
普通は、空気圧縮機には潤滑油が必要なんだが……スラ子の場合はどうなんだろう。
それ以外もこまごまとした仕組みが必要な訳だが、そのあたりはスラ子の柔軟性(物理的な事ではなく、発想的な柔軟性)に期待するしかない。
「圧縮した時に発生する熱は風を当てたり水をかけて冷やす。冷やした圧縮空気をさらに圧縮する。それを何度も繰り返すと、空気が液体になる。まずはそれを目指してくれるか。」
「分かりました。やってみます。」




