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スライムはモーターになれる

「マスター。私が馬になります。」

「スラ子、ありがとう。そうしてもらうしかなさそうだな。」

遠慮(えんりょ)なく命じてください。」

「その前に、モーターを試してみよう。」

「モーターですか。」

「ああ、橋を造ったとき、石を切るのに円盤(えんばん)状のカッターを回転させただろう。」

「はい、頑張って回しました。」

「うん。その時に教えたらよかったんだが、電気を使って物を回転させる仕組みが、モーターだ。」

「電気で回転させるのですか?想像もつきませんが。」

「えーと。まず、磁石(じしゃく)が必要だが……。鉄スライムや石スライムの中に磁性(じせい)があるものはいないかな。」

「磁性……。申し訳ありません。良く分かりません。」

「……そうだな。鉄にくっつくもの……かな。」

「それならあります。量は、そんなに多くありませんが。」

「うん。磁石には向きがある。その向きをそろえて、鉄にくっつく力を強くしておいてくれ。」

「はい、マスター。」

「次に、電磁石を作る。」

「また磁石ですか?」

「そうだ。鉄の棒を芯として、その周りに電熱器の時に作ったような銅線のコイルを巻く。銅線に電気を流すと磁石になる。電気を止めれば磁石ではなくなるし、電気の向きを変えれば磁石の向きも逆になる。」

「それで、どのように回転させるのでしょうか。」

「今言ったように磁石には向きがある。一方をS極と呼び、もう一方をN極と呼ぶ。S極同士は離れようとして、S極とN極はくっつこうとする。この、離れようとしたり、くっつこうとする力を回転の動きに変換するんだ。」

「なるほど。段々分かってきました。」

「で、だ。えーと。……この馬車の車軸に磁石を取り付けて……。その周りに電磁石を配置して、電気の流れを周期的に変えてやれば……いい、のかな……?」

 モーターの仕組みなんて、たいして難しいものでもないはずだが、しっかり覚えているかと言われれば、そうでもない。

 基本的な理屈だけ教え、後はスラ子に任せよう。


「はい。やってみます。」

 スラ子の鉄スライムや石スライムの部分が馬車の車体の下に集まる。

 アメーバのような不定形な塊が滑らかに動き、車軸の周りにこんもりとした盛り上がりを作った。

「マスター。少し動かしてみます。お下がりください。」

 俺はその言葉に従って少し下がり、静かに馬車の様子をうかがう。


 馬車は動かない。


「マスター。もしかして、車軸は車体に固定されているのではないでしょうか。」

「え?」

 俺は車体の下をよく見てみた。板バネの下に車軸がある。その車軸は……うん。確かに車体に対して固定されている。

 代わりに車軸と車輪は固定されておらず、自由に回るようになっている。

 それはそうだ。車軸と車輪が固定され、左右の車輪が同じようにしか回らなかったら、直進することは出来ても曲がることが出来ない。

「スマン、スラ子。車軸は回らない。回すべきなのは車輪だったな。……そうすると、モーターを、……どうすればいいんだ?」

「大丈夫です、マスター。」

 スラ子はすぐに動く。車軸についていた盛り上がりが車輪の軸付近に移動する。何だか虫こぶみたいだな、と思った。


「では行きます。」

 しばらくなんの動きもない。これは無理だったかと思った時。じりじりと馬車の車体が動き出した。

「おお!動いたな。」

「はい。急発進したら危ないので、ゆっくり電気を強くしていきました。」

 なるほど。


 馬車は馬が引いているときと遜色(そんしょく)ない速度で動く。その場での旋回(せんかい)、バックもしている。スムーズな動きだ。

「流石だな、スラ子。」

「ありがとうございます、マスター。」

「モーターはどうだ。疲れないか?」

「はい。石材切断カッターを回した時に比べ、(はる)かに楽です。あの時は、私の引っ張る力で回していましたから。」

「やっぱり先に教えたらよかった。悪かった。」

「謝らないでください。……私は、電気というのは最初は攻撃手段だと思っていました。それが、光を作り熱を作り……今度はこんなに簡単に物を回転させられるなんて。素晴らしいです。」

「それはよかった。」

「新しい事が出来るようになるのはうれしいです。マスターのおかげです。」

「これで馬車を動かすには問題ないな。まあ、誰も引いてない馬車が動いてたらおかしいから、張りぼての馬にはなってもらう必要があるけど。」

「了解です、マスター。」


「カヒト、馬車動けるの?」

 メグミが近づいてきて、言った。

「ああ。スラ子がやってくれた。」

「やっぱりスラ子ちゃんはすごいねえ。あ、オオニワトリの羽根、毟り終えたよ。」


 オオニワトリはすっかり裸になっている。所々に細かい毛が残っているが。

 羽根を毟られたニワトリは俺には鶏肉に見える。正直旨そうだ。

「メグミ。オオニワトリは食べられるのかな?」

「うん。私もそれを考えてたの。食べられるとも、食べられないとも聞いた事ないけど……美味しそうだよね。」

「……少し焼いて食べてみるか。」


 メグミに頼んで翼の先を切り取ってもらう。つまり手羽先(てばさき)だ。

 木の棒に刺したものを、スラ子が電熱器で(あぶ)ってくれる。

 すごいいい匂いがする。香ばしい、鶏の油の焦げる匂いだ。

 思わず(かぶ)り付いた。

 うん。旨いな。と言っても普通の鶏肉だが。

「メグミ。食べるか?」

「うん。」

 メグミは手羽先を受け取り、一口食べた。

「あー。キスだー。間接(かんせつ)キッスー。」

 と、ツムギが言う。子供か。

 メグミも呆れてる……かと思ったら照れている。こっちも子供か。

「お、おいしいよ。はいっ。ツムギちゃんっ。」

 ツムギは受け取ると妙な顔をしている。

 間接キスになるから食べづらくなったようだ。余計な事言うから。


挿絵(By みてみん)

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