出発と襲撃
ルイが戻ってきた。
抱えている箱の中を見せてもらうと、種が入った麻袋がたくさん。小さな鉢植えの苗も20〜30くらいある。
「これで足りるかしら?」
「十分です。ありがとうございます。」
「カヒトさん。種、どうするの?まさか、食べるの?」
と、ツムギが言う。ツムギの中では、俺は変なものを食べるキャラになっているな。
「まあ、どうするかは後のお楽しみだよ。」
「皆さん荷造りしっかりされてますが、もう出発されるんですか?」
「はい。港町ハーフェンに行こうと思います。」
「そうですか。良いと思います。あちらは暖かいですからね。もう春になってるかもしれません。」
「楽しみです。」
「支配人さん。お世話になりました。」
「こちらこそ。皆様のおかげでとても助かりました。今後ブロートコーブへお戻りになられましたら、ぜひウチに宿泊してください。皆様は永年無料とさせていただきますので。」
「ありがとうございます。町長、ルイさん、ありがとうございました。頂いた馬車など、大切にします。」
「ええ。お気をつけて。」
一昨日通った道を再度通り俺たちは南へ向かった。
違うのは馬車が有る事だ。
俺たちは装備は身に着けているが、荷物はすべて馬車の荷台に乗せて歩く。
馬は力強いが大人しく、馬の扱いが初めての俺にも素直に従ってくれる。
俺が手綱を引き、メグミとツムギは先導するように歩く。
すぐに山に入り、スラ子が架けた橋の所まで来た。
ふと見ると、手すりの部分に見覚えのない文字が彫ってある。
「スラ子、なんて書いてあるんだ?」
「……。」
「カヒトさん。『スライム橋』だよ。」
ツムギが教えてくれる。
「『スライム橋』……。スラ子が彫ったわけじゃないよな。」
「私ではありません。おそらく、町長かルイさんでしょう。」
「良い名前が付いて良かったね、スラ子ちゃん。」
「私だったら、マスターのお名前をお借りして名付けますけど。」
「俺は筋肉痛で寝てただけなんだからなあ。」
石造りの堅牢な橋に、ぷにぷにと柔らかい印象のあるスライムと名付けるとは。
橋を渡る。
驚いたことに、橋には既にいくつも馬車や人が通った跡があった。
橋の向こう岸は山が連なっている。
道は谷間を縫うように何度も折れ曲がり、上り下りも激しい。なかなか疲れる道だ。
途中で何組かの他の冒険者とすれ違った。ブロートコーブを目指しているらしい。
春の農期に合わせて移動するのだと、昼食時に話を聞いたパーティーが言っていた。
そういった出稼ぎグループがいて、冒険者がその護衛をするという事だ。
昼食で休憩をとった後、更に歩く。
少し進んだ所で、スラ子が言った。
「マスター。この先で、誰かがモンスターに襲われているようです。」
「え?冒険者かな。」
「分かりませんが……。武装していないように見えます。」
「大変……!」
と、ツムギ。
「行こう!スラ子ちゃん、道案内してっ!」
と、メグミが言って駆け出した。
「あっ、メグミ……。ツムギ!先に行ってくれっ!」
「うんっ!メグミさんの事は任せて!」
「気を付けろ!」
ツムギもメグミの後を追って走り出す。
俺も馬の手綱を引き、駆け足になった。しかし全速力とは言い難い。
馬は重い馬車を引いているし、俺はまだ馬の扱いの勝手がわからない。どのくらい速度を出せるのか、探りながら走るしかない。
走り出して5分も経っていないころ、スラ子が言った。
「マスター。モンスターはメグミさんが倒したようです。」
「そうか。良かった。」
「はい、ですが旅人が大けがを負ったようです。」
「旅人?その人がモンスターに襲われていたのか?」
「はい。すぐに治療が必要だとの事です。」
「分かった。急ごう。」
「すぐそこです。」
確かに、すぐにメグミたちが見えた。俺は馬車を止めて駆けつける。
男が腕から血を流している。ツムギが傷口を押さえているが、その指の間から鮮血が流れ出し、止まらない。
男の頭を抱えるように、女性が男の身体を支えている。
少し離れた場所にも血だまりがあり、そこには正体の良く分からない獣が突っ伏していた。
「メグミ!ダメージ回復薬を持ってきた!」
「カヒト!ありがと!」
俺は馬車の荷台から出した魔法薬をメグミに投げ渡す。メグミは、栓を抜いてその中身を男の腕に振りまいた。
男の傷はすぐに塞がった。さすが、「魔法薬」と言うだけの事はある。
完全に治ったわけではなく、傷は跡になって腕に残っている。




